公園の中央に降り立つと、そいつは微かに目を細めた。
「やっぱ同じなんだな、ここは。」
ものすごく感慨をこもっている様に聞こえるその言葉にオレは小首を傾げる。
「何が?」
「いや・・・。」
応えると軽く息を吐いて、そいつは改めてオレの方を向いた。

「それじゃ、あいつらが来る前に。改めまして。オレは黒羽快斗。ヨロシクな。」
そう笑いかけると右手を差し出したあいつにオレはその手をとり頷く。
「ああ、オレも・・・黒羽快斗。」
「知ってる。」
応えると、あいつ。
もう一人のオレが口許を上げて笑った。

「本当ははじめましてではないんだけど。お前は覚えてないだろ?」
その問いにオレは頷くと、シャツの奥からあのペンダントを出した。

「なあ、これはお前がオレにくれたものなのか?」
「ああ。」
応えたあいつが目許を緩め微笑む。
「良かった。ちゃんとこっちまで持ち帰れてたんだ。」
そう言うとあいつは言った。

「それじゃ、時間がないから先に伝えとくぜ。」
そう言われて、オレはさっきこいつに『降りたら良い事教えてやる。』といわれていたのを思い出した。
「ああ。」
頷いたオレにあいつは言った。

「青子は死んでない。ちゃんと生きてる。」
その言葉にオレは大きく目を見開く。

「本当か!?」
「当然。今からその証拠を見せる。」
そう言うと、あいつは懐から、掌に収まるくらい小さなキーホルダーの様なものを取り出した。
だが、それは、キーホルダーじゃなかった。
オレはそれの裏側を見て目を見開く。
とても見覚えのあるそれは・・・。

「それって、もしかして、名探偵が持ってる通信機と同じやつか?」
「そう。」
応えたあいつは、通信ボタンを押した。
すると、すぐに相手が応答する。
聞こえてきたその声にオレは目を瞠った。

「青子。」
「快斗。」
「そっちはどうだ?」
たずねたあいつに、その青子と呼ばれた声が応える。

「大丈夫だよ。」
「そっか。それで、そっちの青子は?」
その問いに微かに笑みを含んだ声で言った。
「ずっと泣いてて、疲れちゃったみたいで。青子の膝の上で眠っちゃった。」
「そうか。それじゃ、そっちは任せたから。」
「うん。」
応えた青子にあいつが言った。

「それと、今そこにこっちの名探偵が向かってる。このバッジでチャンネル合わせれば繋がると思うから、連絡取って先に戻っててくれ。」
「うん、わかった。快斗も、気をつけてね。」
「ああ、わかってる。それじゃまた後で。」
そう言ってあいつは通信を終えると、その通信機をポケットに入れた。

「聞いてたか?」
「ああ、聞いてた。」
応えるとオレは大きく息を吐いて、思わず脱力して座り込みたい気分に駆られるのをどうにかこらえながら応える。

「良かったぁ~。」
素のままの自分でそう口にしたオレに、もう一人のオレがフッと息を吐き笑いかける。
「青子がついてるから心配いらない。だから・・・。」
そう言うと、あいつはオレと背中合わせに立って、視線を鋭くし周囲に視線を向けた。
公園の入り口から、黒いスーツの男達がぞろぞろとオレ達の周りを取り囲み始めていた。

「お前は、お前がこの場を切り抜ける事だけ考えろ。」
「わかった。」
まるで年上の兄弟に諭されるように告げられたオレは、自分でも信じられないほど素直に頷く。

「青子が待ってるぞ。」
「お前もな。」
そう返したオレにあいつは口許を上げて微笑む。

「ああ。だから、絶対に負けるわけにはいかねぇんだ。」

その静かな声が、夜の静寂の中で、響いていた。

オレはシルクハットの鍔を手前に引き下げると、あいつの存在を強く背中に感じながら。
その声に耳を澄ませていたんだ。