玄関で彼女がいないことを確認した俺は、すぐにあいつの部屋に向かった。

「おい!!彼女がいないぞ!!」
ノックもせずにドアを思い切り開けて俺は部屋に駆け込んだ。
だが、そこにいたのは、一足先にあいつを探しに来ていた昴さんだけだった。

「コナン君。」
「昴さん。あいつは・・・?」
たずねた俺に昴さんは窓を指さして険しい顔をした。

「あれを見てください。」
「あれ・・・窓の鍵が開いてる?」
俺は窓際に駆け寄ると、普段はぴっちりと閉じられているはずのカーテンが半分だけ開いている事。
それに、外側のシャッターは閉じられているが、窓の鍵は掛かっていない事を確認した。

それから俺は駆け出してクローゼットを開けた。
中に掛かっていなたはずのキッドの衣装がなくなっている事に気づいて俺は大きく目を瞠った。

「昴さん・・・。これって・・・。」
「ええ。」

頷いた昴さんが再び窓の方に目を向ける。
この状況から推測される事実は一つ。

「黒羽君は一人であの純白の衣装を纏い、その窓から外へ飛び出していったようですね。」
その言葉に俺は唇を噛みしめた。

「あのバカ・・・。」
呟いた俺はわずかに顔を伏せる。

いつだってそうだ。
あいつは。

人を頼らない。
自分一人で動こうとする。

どんなに無謀だろうと。
危険が待ち構えていようと。

だけど、今回は、俺のせいだ。

きっと、俺のあの言葉があいつの背中を後押ししてしまったんだろう。
そう、確信した。

その時、俺のスマホが着信音を響かせた。

「コナン君か。ワシじゃ。」
「博士、どうしたんだよ。」
問いかけた俺にいつも温厚な博士が珍しく固い口調で言った。

「実はあるものが盗まれてな。」
「あるもの?」
「そうじゃ。」
問いかけた俺に博士が頷く。

「研究中ガサガサと部屋の隅で物音がしたのでな。ネズミでも迷い込んだのかと思ったんじゃが、一応確認しとこうと思い確認したところ無くなってたんじゃよ。」
「博士、まさかそれって、キッドのハンググライダーのエンジンか?」
「そうじゃ、良く分かったのう。」
その言葉に俺は昴さんと顔を見合わせて頷く。

「わかった。博士、犯人はわかってる。その犯人については心配ないけど、、裏口の鍵が開いてると思うから、しっかり戸締りはしといてくれ。」
「わかったわい。」
博士は応えるとすぐに電話を切った。

「黒羽君はそこから出た後、博士の家に忍び込み、研究室に保管していたハングぐグライダーのエンジンを持ってどこかに飛び立った・・・という事ですね。」
「ああ。だが、どこに・・・。理由は、彼女がいなくなった事に関連するのは間違いないと思うけど。」
「彼らには今携帯も何も通信手段がありません。もし敵におびき出されたのだとしたらどうやって・・・。」
呟いた昴さんが手を組んで口許に指先をあてた。

その時、俺はベッドの上に置かれていた一枚のカードに気づいてすぐに駆け寄る。
「これ・・・。」
そのカードを取り上げた俺は目を瞠った。
「『To return home』・・・って、家に帰る、だと!?」
叫ぶように声を上げた俺はカードを裏返す。
そこにはいつもの見慣れたキッドマークがあった。

「昴さん、これ!!!」
「なるほど。ですが、これって、黒羽君が書いたものなのでしょうか?」
その問いに俺は小首を傾げる。

「だって、いつものキッドマークもあるし。」
「はい。けど、こんなカードを残していくくらいなら、彼は我々に声を掛けに来るのではないでしょうか。それに博士のところにも無断で入って、何も言わずにそのハンググライダーのエンジンを持ちだしたようですし。」
「確かにそうだけど・・・。」
言い換えた俺は昴さんを見上げた。

それじゃあ、誰がいったいこのカードを残したというのか?
この世界に、怪盗キッドを名乗る人物が他にもいるというのか?

謎は深まるばかりだった。

「とりあえず、少なくとも。このカードを置いた何者かは、我々に、黒羽君の家に行けといっている様ですし。他にあてもないですから、行ってみましょうか。」
「うん。」
頷いた俺は、踵を返しその場から動き出した。

何が起きているのかはわからない。

だけど、とにかく。
あいつと彼女が無事でいてくれるようにと。

そう、心から願いながら。