「それじゃ、また来ます。」

夜明け前に快斗は工藤邸を出ると、そのまま一人で歩き始めた。
ふと空を見上げると、濃い闇の中で空一面に瞬き輝く星に目を細める。

フッと息を吐くと、少しだけ後ろを振り返り、今出てきたばかりの工藤邸を見上げた。

「さあ、どうすっかな・・・。」
呟くと、昨日(さくじつ)の事を思い起こし、わずかに瞼を伏せる。

あの後、話は快斗にとって何よりも大切な青子。
それに中森警部と寺井をどうするか・・・という事が話し合われた。

優作は、組織が混乱しているだろう今のうちに、青子、警部、寺井の3人をFBIに保護してもらった方がいいという意見だった。
状況が動き出した中で動くと、その動きは必ず組織の目に留まる。
その前に対処すべきだと。

もちろんコナンも昴も同意見だった。
快斗も、の必要性に迫られるところまで状況が切迫している現状を、優作たちの言葉で切に感じた。

警部と寺井が快斗が話せばすぐに同意は得られるだろう。
FBIでは警部を警視庁からの出向という形で保護してくれるという。
快斗からしてみれば願ってもない話だ。

問題は・・・。
「青子・・・だよなぁ。」
快斗は再び空を見上げると溜息を吐いた。

青子は・・・というより。
「オレか・・・。」
呟いた快斗は苦笑いを浮かべた。

青子だけじゃない。
快斗も。
お互いに。

離れたくない。
手の届く距離にいて欲しい。
そばにいたい。
誰よりも、近くにいて欲しい。

それが、快斗にとっても心からの本音だ。
それでも、快斗にもコナンの杞憂の意味が、今回の件で身に染みてわかった。

ウォッカはともかく、ジンのあの目は、何の躊躇いもなく人を殺す事が出来る。
そういう目だ。
きっとジンにとって、殺しという手段は、足元にある石ころを蹴飛ばす程度と同様の、さして大した事ない出来事なのだ。

だからといって、今更快斗は昨日(さくじつ)の自分の行動を後悔はしない。
自分が動かなければ、間違いなく蘭は殺され、間もなく工藤新一の存在も組織の知るところとなり、それに連なる人々も、哀も含めてみんな組織に狙われ、間もなく命を奪われていただろう。
そんな大切な人達の命を何も出来ないまま見過ごす以上の後悔はないと思うから。

快斗は先ほど電話を掛けた時の青子の言葉を思い出していた。
青子は中森警部があの現場に出動となった事から、快斗も良く知る警視庁内のある部署で安全管理が万全な体制で保護されているという事だった。
その言葉に快斗はまず何よりも安心した。
そして、警部の帰宅時に一緒に帰宅すると青子は話していた。

『ちゃんと青子にも話してね。』
青子はそう言っていた。

「それしかないよな。」
快斗は呟くと大きく息を吐いて微笑した。

サファイアの石に込めた約束。
誠実に真実を伝え続けること。

そして、悩みもがき時も二人で答えを見つけようと。
そうふたりで決めたのだから。

快斗はもう一度大きく息を吐くと前を向いて歩き始める。

きっと、ここから大きく何かが変わり始める。
そんな予感を胸に強く感じながら。