「連れて来たぜ。」
コナンがそう言って今の扉を開くと、ソファーに座っていた有希子が目をキラキラと輝かせて歩み寄って行った。

「黒羽君、いらっしゃい。」
笑顔で笑いかけると快斗の手を取り間近に快斗を見つめる。
「小さい頃に一度だけ会った事があるのよ。覚えてる?」
その問いかけに快斗は苦笑して応える。
「覚えてます。『おばさん』って呼んで有希子さんに怒られました。」
「ハハハッ・・・。」
そう口にした快斗にコナンが苦笑いを浮かべる。

それから快斗は優作の座るソファーに向かうと、目の前に立ち、その場で頭を下げる。
「挨拶が遅れてすみません。あの時は、本当にありがとうございました。」
「いや、こちらこそ。」
応えると優作が立ち上がり、目を細め快斗を見つめる。

「私のライバルは息災(そくさい)かい?」
「ええ、まあ一応8年前に死んだ事になってるので、公にはいえない事ですが・・・。」
「そうだね。まあ、彼の事だ。どんな状況でも生き抜いていく強さがある。問題ないだろう。」
苦笑して頬をかき応えた快斗に優作が頷く。

「それよりすまないね、今回は。君の手を煩(わずら)わせることになってしまって。」
「いや。」
応えると快斗は瞼を伏せて頭を振る。
「オレは名探偵に返しきれないほどの恩がありますから。」
そう言うと快斗は後ろを振り返りコナンに視線を向けた。

「大げさに聞こえるかもしれないけど。本当に、オレの人生が変わったんです。名探偵に出会った事で。」
「お前・・・。」
呼びかけたコナンに快斗は微笑を浮かべる。

「名探偵がいなかったら、オレはいまでも出口のない迷宮(ダンジョン)の中を独りきりで彷徨(さまよ)い続けてた。確実に。だから・・・。」
そう言うと、快斗は再び目の前の優作を見つめる。
「今度はオレの番だって・・・。そう、思ってます。」
その言葉に優作は目許をやわらげつつ笑みを浮かべる。
「そうか。」
応えて数瞬目を閉じると、コナンの方を見て言った。

「良い友人に恵まれたようだね。」
その言葉にコナンは深く頷くと顔を上げる。
「ああ。」
応えたコナンに優作は笑顔で頷いた。

「それでは改めて、今回の事件の経緯について教えてくれるかな。」
優作は中央の一人掛けのソファーに腰掛けると、斜め左にあるソファーに座るよう快斗に進めて問いかける。
快斗が腰を下ろすと、隣にコナンが座った。
そして、コナンンの正面に昴が足を組み両手を膝の上にのせて腰掛け、最後に昴の隣に有希子が座った。

快斗は静かに口を開き話し始める。

今回快斗がこの事件に関わる事になった経緯について一通り語った後、コナンが探偵バッジ越しに聞いていた快斗とジンの会話を優作達に伝えた。
そして、結果的に、新一と蘭が組織のターゲットリストから外され、代わりに怪盗キッドが組織に狙われる可能性が高いという、快斗にとってとても危機的な状況である事も真剣に伝えた。

「つまり、我々としては、黒羽君と黒羽君にとってもっとも大切な存在である中森青子さん、それに、警視庁捜査二課の中森警部、キッドの協力者である、今は神戸で工房を営む寺井黄之助さんを絶対にあの組織の毒牙から死守しなければならないという事だね。」
「ああ。」
コナンはそう言うと深く息を吐いた。

「組織壊滅の後もこいつはちょこちょこキッドになり、世間の注目を集める事で事件解決に一役買ってきた。それは間違いない。だが・・・。」
言いかけたコナンが隣に座る快斗を見上げる。
「これから先、キッドとして注目を集めた後は、必ずお前の痕跡を組織がくまなく調査を行うはずだ。そうすれば、遠からず組織はキッド=黒羽快斗という結論に辿り着き、青子姉ちゃんも警部も間違いなく組織の抹殺対象となる。」
そう語るコナンの声は暗く沈んでいた。

「だから嫌だったんだ。お前をこの件に引き込むのは・・・。」
その呟きに、夜明け前の空の様に、真夜中の工藤邸の静寂が、より一層深みを増していくのを、その場にいた誰もが感じていた。