それからコナンと平次は二人で大阪市内にある平次の自宅に向かった。
そして、玄関に防具と竹刀を置いた平次は家の中には入らずにそのまま駐輪場に向かって歩き出す。

その時、コナンのライソのメッセージの着信音が鳴った。
コナンがすぐに携帯を取り出し確認すると大きく目を開いた。

「黒羽か?どないした?」
その表情を見ながら、バイクからヘルメットを取り出すと、コナンのヘルメットを抱えて隣に屈みこむ。
「見てもええか?」
「ああ。」
応えたコナンは、そのメッセージが見えるよう、携帯を平次の方に向けながら言った。

「悪い知らせが3つ。まず1つは、今回誰よりも先に前回の紺碧島の関係者に警護をつけるよう公安の超お偉いさんに進言してくれた、あいつのなじみの刑事、伊丹さんと、中森警部が江古田市内で高遠に襲われたのが発見された。」
「あいつ・・・って。伊丹刑事って俺は聞いた事あらへんけど。まさかその人は黒羽に縁のある人間なんか?」
その問いにコナンは首を縦に振り応える。

「ある事件で知り合ってな。それで最初その人はキッドであるあいつを逮捕するつもりで拉致同然、かなり強引に無理矢理、ありのままの姿であるあいつを連れ去ったりしたんだけど。しばらくして戻ってきた時には、その刑事、伊丹さんもあいつの事を物凄く気に掛けてて。あいつも、中森家部にしか見せない様な顔をその人にだけは見せてたりして、あいつ自身その人にとても信頼をおいていたらしい。」
「さよか。意外な縁があるもんやな。」
「本当に。で、つい先ほどその刑事さんが江古田市内のあいつと彼女の自宅付近で腹部を刺されて倒れているのが発見されたらしいんだ。幸い中森警部は車の中で眠らされているだけで、外傷はないらしいけど。」
コナンはそう言うと唇を強く引いた。

「なるほど。つまり1つ目はその刑事さん達があの地獄の傀儡師に襲撃を受けた事。2つ目はあの男が黒羽んちの近く、つまり嬢ちゃんがいるあの家に迫りつつある・・・っちゅう事やな。」
「そういう事。で、3つ目は、あいつのところに高遠本人から直接電話で連絡があったらしいんだけど、伊丹刑事があいつがお前に指示を出すよりも先に動いたペナルティとして、和葉ちゃんの起爆タイマーを1時間カットしたらしい。」
「なんやて!?ちゅう事は、あと2時間で見つからない和葉をどうにかせいっちゅう事か?」
「ああ。」
応えるとコナンは強く唇を噛んだ。

そしてその画面を下にスクロールすると、もう1件新しいメッセージを受信している事に気づく。
それを見たコナンは再び大きく目を瞠った。

「服部。今からあいつが動くから、メディアの情報に注視しててくれって。あと、俺があいつに渡してある通信機のGPSの発信機をオンにしたから、その近くで待機しててくれって追加で指示が入ってる。」
「あいつ・・・メディアって、まさか黒羽は・・・。」
言い掛けた平次にコナンが頷く。

「ああ。動こうとしてるんだよ。警察を短時間で総動員出来る存在。もう一つのあいつの姿。怪盗キッドとしてな。」
そう口にしたコナンは眉間に皺を寄せて複雑な表情をした。

「たしかにキッドなら、大阪府警。下手したら、日本全国、いや、全世界の警察を総動員させる事やて不可能やないかもしれんな。」
「ああ。だが、メディアに露出する分だけ、あいつの正体が世間に知れ渡るリスクは格段に高まる。」
「せやけどやるんやな、黒羽は。和葉を助けたいと思うとる、その一心で。」
その言葉にコナンは溜息を吐き頷く。

「きっと、今のあいつにとって、彼女の命を奪われる事以上のリスクは存在しないんだよ。自分の正体くらい、その為ならいくらでも差し出してやる・・・ていうくらいの、そういう気持ちなんだろ?」
そう口にしたコナンに平次はヘルメットを渡しながら頷く。
「せやな。それが、今の黒羽や。」
「ああ。」
応えたコナンが深く息を吐いた。

「たくっ・・・。こっちの心配とかお構いなしなんだからな。」
ぼやいたコナンに平次が運転席に腰を下ろすとしっかりとハンドルを両手で握り言った。

「せやったら、なおさら俺らで黒羽を守らんと。」
「ああ。」
応えたコナンが後部座席に飛び乗り、平次の腰に腕を回す。

「おそらくあいつの近くには寺井さんがいるはずだ。あいつの動きを追いつつ、寺井さんとも連絡を取って合流した方がいいと思う。」
「ようわかった。ほんなら、行くで。黒羽のところへ!!!そして、必ず和葉を見つけて助け出すんや!!!」
フルフェイスのヘルメットのガードを下ろした平次がそう言いながらアクセルを握り一気にぐるりと手前に回した。

「ああ。必ず。誰も犠牲になんかさせねぇからな。」
コナンは呟くようにそういいながら、快斗の事を強く案じていた。