その場から足早に歩き始めたコナンと平次だったが、入口の爆弾の解除に30分ほど時間を要して、ようやく部屋を出る事が出来た。
その場にある爆弾をそのまま放置する事も出来ず、ただ、コナンと平次が警察に連絡して高遠に『ルール違反』と誤認される事も避ける為、コナンは扉の外に出ると、まずはじめに、もう一度隣の部屋の扉をノックした。

すぐに先ほどと同じ、少しガラが悪く見える金髪の大男が出てくる。

「ボウズ、どうした?その後ろの兄ちゃんは?」
「うん、さっきはありがとう。それで、おじさんに見てもらいたいものがあるんだ。ちょっと一緒に来てくれる?」
コナンはそう言うと、すかさず男の手を掴んで勢いよく走り出した。

「おい、なんなんだよ。お前、親父と約束してたんじゃなかったのか?」
その問いには答えずにコナンは男を連れ出すと、先ほど出てきたばかりの部屋の中に入った。

「おじさん、これなんだかわかる?」
何もないコンクリートむき出しの部屋に、椅子が一脚と、そのすぐ近くには筒状の形状のものがいくつか並んで小さな小箱に直結されており、それがゴム製のベルトに直結されているのが一つと、入口すぐ近くの足元には、30センチほどのプラスチックの箱の中にやはり、テレビでしか見た事のない様な物騒極まりないものが並んでいる。

それを見て男の顔色が即座に変わった。

「おい、ボウズ。これってまさか・・・。」
「そう、爆弾だよ。」
その答えに男が大きく目を瞠った。

「なんでこんなところにこんなものが・・・。」
「それは、今まである犯罪者にこのお兄ちゃんが爆弾を巻きつけられて監禁されていたから・・・なんだ。」
冷静に応えるコナンに男はみるみる顔を青くする。
そんな男を見上げてコナンは言った。

「おじさん。この爆弾は一応解除してあるけど、何かの拍子にもし爆発する様な事があればおじさんの部屋にもその爆発が及ぶかもしれない。だから、今すぐここから逃げて。そして、警察に、ここに爆弾がある事を伝えてくれる?」
「ひぃぃぃい~~っ!!!わかった!!」
応えると男は、真っ先に駆け出して階段を駆け下りていった。
カンカンカンカン・・・と。
男の足音がコナン達の耳にも届き、ほっと息を吐く。

「ここは最上階やからな。一応この下にも人がおるか確認した方がええやろ?」
「ああ、それなら大丈夫。お前を探すのに下からワンフロアずつ回ってきたんだ。下の階はすべて空きテナントで誰もいなかった。」
「さよか。なら、この場はあのオッサンに任せて、俺らはここを離れた方がええな。」
「ああ。警察が来て足止めされて、事情聴取されたらいろいろまずい。それよりも・・・。」
「ああ、和葉を探すのが先決や。」
平次はそう言うと、コナンと顔を見合わせて頷き合う。

「そうそうこれ、お前のだろ?」
コナンはそう言って、先ほど入り口前で見つけた平次の竹刀と防具袋を指差して顔を上げる。
「ああ、俺のや。あの高遠っちゅう奴に攫われた時に持ってたもんや。」
服部は応えると、防具袋を肩に掛けて竹刀を握りじっとその剣先を見つめた。

「ホンマ、許せんで。あいつ・・・。」
平次のその言葉には情念ともいうべき強い意志がこもっているのをコナンは感じた。

「ほな、行くで。」
そう言って平次がその場から歩き始める。

「一応あいつにも今の状況伝えといたほうがいいな。ちょっと電話掛けてみるよ。」
「わかった。とにかく徒歩じゃ埒があかん。足があった方がええやろ。一旦俺の家に寄って、バイクで出直すで。」
「ああ、わかった。」
応えると、コナンは再びスマートフォンを懐から取り出し快斗を呼びだした。

『名探偵。』
「ああ、今とりあえず、全部爆弾の解除も追えて、服部とここから出るよ。それで、一旦服部の家に行って、バイクで彼女の捜索に入ろうと思うんだけど。お前の方はどうだ?」
たずねたコナンに、快斗が声のトーンを落とした。

タイムリミットまであと2時間。
嫌でも焦りが声に滲んでいるのがコナンにも良く分かった。

『和葉ちゃんが・・・全然見つからねぇんだ。もうこっちに到着してから20箇所以上回ってる。リストアップした場所についてはほぼすべて確認し終えた。高遠にはそれほど時間がなかったはずだから、移動範囲は限られてるはずなのに。』
「そうか。」
その言葉にコナンは軽く息を吐いた。

「大丈夫。俺達もこれから彼女を探すから。一緒に探せば必ず間に合うよ。」
「ああ・・・悪いけど頼む。」
そう応えて快斗が数瞬黙り込む。

「おい、大丈夫か?」
『名探偵・・・。』
呼び掛けた快斗にコナンは目を細めた。

(あいかわらずだな。)
そう思いながら。

夢中になると、すべて自分一人でその責任を背負いこもうとする。

キッドとしてずっと一人で戦ってきた快斗だからこそだろう。
他人に助けを求めるという事を知らない。
だからこそ・・・。

こういう時は絶対的に『言葉』で伝えてやる事が必要なんだ。
そう思いながらコナンは言った。

「忘れるなよ。お前は一人じゃないから。」

その言葉に快斗が数瞬息を止めて。
それからフッと息を吐く音が聞こえてきた。

わずかな安堵。
それだけでも、心の向き先はかなり変わってくるはず。
だから・・・。

『わかってる。大丈夫、サンキュー・・・それじゃ。』

快斗はそう言って自分から電話を切った。
コナンも携帯をしまうと、少し前を歩く平次に駆け寄る。

「どうやった?黒羽は。」
「ああ、彼女が見つからないって。」
応えたコナンに平次が目許を細める。

「あと2時間やからな。」
平次が言いながら溜息を吐いた。

「どう考えても俺らだけじゃ手が足らんのや。」
「ああ。だからといって、警察に助けを求めるわけにもいかねぇし・・・。」
「せやな。まあ泣き言言うてても始まらんし。とにかく、前に進むしかあらへん。」
「そうだな。」
まっすぐ前を見据えてそう口にする平次にコナンは応える。

あと2時間。

必要なのは捜索の人員。
だが、警察に助けを求める事は出来ない。

警察に・・・。
そう考えたコナンが大きく目を開き顔を上げた。

たった一つだけ思いついた方法があった。
警察を一斉に動かす事の出来る人物がいる。
コナンのごく身近に。

(だが・・・。)
それを実行するにはあまりにもリスクが高過ぎる。
コナンは何も言わずに頭を振った。

(ダメだ、別の方法を考えよう。)
そう思いながら、コナンは平次の一歩後ろを歩きながら、ひたすら思索を続けていた。