「実は・・・。」
そう、依頼人の睦月清美さんが話し始めようとした。

その時。

「ちょっと待ったぁ~~~!!」
その場にズカズカと駆け込んで来た毛利探偵がオレの目の前に立つと、オレにグイグイと顔を近づけて睨みつける。

「なんでお前がそこで仕切ってたんだよ。っていうか、お前、誰かに似てないか?」
「えっ・・・?」
(もしやこのオッサンキッドの正体に気づいた??)
とか思い、その問いに視線を泳がせたオレは、毛利探偵の横で苦笑いを浮かべる名探偵に視線を向ける。

「その人の依頼人をサラリと横からかっさらっていく嫌味なとことか、その顔とか・・・。」
「へっ・・・?」
(オイオイ・・・、それって・・・。)
「そうだよ!!お前、あの探偵坊主にそっくりなんだよ!!」
心底腹立たし気にオレを指差して視線を鋭くする毛利探偵に、オレは名探偵と顔を見合わせて溜息を吐く。

「おじさん。依頼人のお姉さんが待ってるよ。」
毛利探偵の横に立ちながら袖を引いて、そう声を掛けた名探偵に毛利探偵は振り返ると、最初はけだるげに振り向いた。
だが、その直後、目を大きく開けるといきなりシャキッとその場に立ち、どこから取り出したのか右手に赤いバラの花を差し出す。
それはもう、マジシャンのオレですら驚きの芸当だ。
そして、恭しく右手を胸にあてると、さきほどの酔っ払いとは別人の顔で口許を上げる。
(なるほど。そういえばこのお姉さん、良く見れば美人・・・。)
心の中で呟いてオレは苦笑いを浮かべた。

「名探偵の毛利小五郎です。美人の依頼ならどんな難事件でも大歓迎です。たちどころに解決してみせますのでどうぞご安心を。」
フッと息を吐きながら髪をかきあげた毛利探偵を見てオレは両手を胸の前に上げて、名探偵と顔を見合わせる。

「どうせどんな難事件も解くのは名探偵だろ?」
「しーーっ!!ここで機嫌損ねるととんでもなくめんどくせぇ事になるから。ちょっと黙っとけ。」
「へいへい。」
そう軽く睨まれ念を押されたオレはまた苦笑いで顔を上げる。

「たくっ・・・。どんだけ気まぐれ迷探偵なんだよ。」
溜息混じりに呟いたオレの横で、だが青子はキラキラと目を輝かせていた。

「快斗ぉ~~!!眠りの小五郎だよ~!!本物!!どんな推理するのかな?青子近くで見るの初めて。楽しみだね♪」
その無邪気な声にオレは「そうだな。」とやっぱりちょっと苦笑いで返す事しか出来なかった。

願わくば。
青子の期待に応える名推理を・・・。

頼んだぜ、名探偵。

オレは心の中で祈る様にそう呟くのだった。
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「それで、改めて伺いましょう。ご依頼とは、宝石を守って欲しい・・・という事でしたな。」
ラベンダー畑を出たオレ達は、園内のレストランの隅に腰を押しつけると、依頼者の睦月清美さんから詳しい話を聞く事になった。

少し大きめの6人掛けのテーブルに睦月さんが座って、その隣に名探偵。
睦月さんの目の前に毛利探偵。
で、その隣にオレと青子が並んだ。

「ええ。」
頷いてそう言うと睦月さんはオレ達の前に一枚のカードを差し出した。
「これなんです。先日うちの美術館に届いたものなんですけど。」
その表情は険しく声も強張っていた。

「なになに?『葉が月を彩る朔の夜、闇に輝くお宝をいただきに参ります。怪盗キッド』だと!?」
毛利探偵がそれを見て大きく目を瞠った。
「本物でしょうか?」
「間違いなく本物でしょう。ここにヤツがいつも使うイラストもありますし、なによりいつも通りのこの気障でふざけた文章が何よりの証拠です。」
忌々し気に顔を歪めて言った毛利探偵の隣でオレがわずかに唇を尖らすと、その隣で青子が口許に丸めた掌をあてて苦笑をもらす。
名探偵も大きく溜息を吐いてからオレの方を向くと「まあまあ・・・。」と言いたげに苦笑を浮かべた。
(わかってるよ。)
オレは口をへの字にしながらも口には出さずに心の中でそう応える。

怪盗キッドは犯罪者。
その存在を利用しようとする奴が後を絶たないのはわかりきっている事で、その責任の一端はそれを生み出したオレにある。

「それで、『葉が月を彩る朔の夜』っていうのは、葉月・・・つまり八月の事。そして朔の夜は新月。時間に関する文言がないので、予告時間がこの新月を迎えるちょうどの時間だと考えると、今晩の24時・・・という事になりますよね。」
オレが言うと睦月さんが唇を強く引き結んで頷く。
「ええ。」
「それでこの、『闇に輝くお宝』っていうのがお電話でうかがった何とか・・・っていうでっかい水晶の事なんすか?」
「はい。現在当美術館の目玉展示の一つで『アイランドクリスタル』と呼ばれている直径30センチを超える水晶です。」
応えると睦月さんはもう一枚の写真を毛利探偵の前に差し出した。
それには黒い背景に満月の様に美しく光り輝く水晶の玉が写っていた。

「これは素晴らしいですな。」
「ええ。ハワイの美術館で常設展示されているものを借り受けたものなんです。」
「なるほど。あのコソ泥がこの超巨大ビッグジュエルを狙いに来た・・・ってわけか。」
毛利探偵が言うと睦月さんが更に一層表情を険しくした。
「もしこれが盗まれでもしたら、当美術館は世界的な信用を失う事になります。毛利先生・・・どうかご助力を!!」
そう深く頭を下げた睦月さんに毛利探偵はフッと息を吐くと自分の胸をドンと強く叩いて言った。

「わかりました!!この毛利小五郎が必ずこのお宝を奴から守ってみせます!!どうぞご安心を。」
そうしてガハハハッ・・・と大口を開けて笑い始めた毛利探偵にオレと名探偵は顔を見合わせてやっぱり苦笑いを浮かべる。

「快斗・・・。」
少し不安そうな顔をして呼び掛けた青子にオレは頷く。
「大丈夫。」
頷くとオレも顔を上げて言った。

「勝手に名前使われてるってんなら、オレも黙って見ているわけにいかないからな。」
そう言うと毛利探偵の前にある写真を取り上げた。
「必ず守ってみせるぜ。アイランドクリスタル。」
呟いたオレを見つめ、名探偵も深く頷いていた。