ピーッピーッピーーッ・・・

授業中突然鳴り出したその音に俺はハッとしてまわりを見渡す。

探偵バッジ。
博士につくってもらった俺達少年探偵団の通信メカ。
元太、歩美、光彦、灰原。
本来これを持っている人間はみな、この教室の中にいて、前に立つ小林先生の話に耳を傾けている。

だとすると、他にこの探偵バッジを持っているのはあと他に二人。
黒羽快斗。
怪盗キッドと呼ばれ、今は俺の一番の親友であるあいつと、その彼女の中森青子。
二人にはある事情があって、数か月前に、特別に博士に頼み込んだ特別仕様の探偵バッジを渡して持たせてある。

そこまで考えたところで俺は席から立ち上がると、小走りで教室後方の出口へ向かい走った。
「先生、ちょっとトイレ~!!」
「こら、コナン君。ちゃんと休み時間に行っとかなきゃダメでしょ。」
溜息を吐いた小林先生に、クラスメイトからどっと笑いが起きる。
「ごめんなさい。」
苦笑いを浮かべて頭を掻くと、オレはすぐに扉を閉めて、実際にトイレへと駆け出した。

(誰もいないな。)
中に入りその事を確認すると、俺はすぐにその呼び出し音に応答する。
「はい。」
『コナン君・・・。』
呼び掛けてきた、わずかに涙混じりのその声に。
俺は少しだけバッジを握る手にじわりと汗がにじむのを感じた。

「どうしたの?」
『快斗が・・・。コナン君に緊急事態だって伝えてって青子に・・・。』
その一言ですべてを察した俺は即答で応えた。

「うん、わかった。青子姉ちゃんは大丈夫?」
問いかけた俺に彼女が頷く。
『大丈夫。白馬君もいるし、青子は大丈夫。それより快斗を・・・。』
「わかった。また連絡するから。」
そう言って通信を切るのとほぼ同時に、俺はメガネのサイドのボタンを押した。

レンズに映るのは光る信号。
その信号が動いているのを確認して俺は唇を強く引いた。

それは、今現在あいつが、自らは連絡が取れない状況下で移動中だという事で。
すると、それは何者かによりあいつが拘束され攫われたのだと・・・。
そう容易に状況が推測出来る。

俺は探偵バッジのダイヤルを切り替えて再び通信ボタンを押した。

「おい、聞こえるか。」
『トントントン ツーツーツー トントントン』
聞こえてきたその音に俺は目を瞠った。

それは、モールス信号だった。
『SOS』を表す信号が何度か繰り返された後、『YES』を表す信号が返ってくる。

つまりあいつは、自ら声を発する事が出来ないが、俺の声は聞こえている状況。
そういう事だ。

「何があった?」
たずねた俺にあいつは信号を返してくる。
おそらく拘束された手の中に探偵バッジを持って、爪でバッジを叩く音で俺に状況を伝えようとしているのだ。
俺はその音を頭の中で即座に解読していき、頷いた後、言った。

「わかった。必ずお前を助けに行く。彼女達の事も心配するな。後でまた連絡する。」
その声に再び返って来た『YES』の信号。

俺は一旦通信を終えると、チャンネルを再び彼女に切り替えて呼び出した。

『コナン君!!』
「青子姉ちゃん。状況は理解したよ。大丈夫、必ずあいつを助けるから。心配しないで。」
そう伝えた俺に彼女が少しだけほっと息を吐いた。
そんな彼女にオレは微笑するとすぐに言った。

「青子姉ちゃん、そこに白馬探偵がいるんだよね。ちょっと変わってくれる?」
『うん!!待ってて。』

その直後。

『はい、コナン君ですね。』
「白馬のお兄ちゃん。そっちの状況を教えてくれる?」
たずねると、白馬はすぐに、今現在学校内の生徒たちはまったく異変に気付いていない状況である事。
そして、先ほど確認した防犯カメラの映像には、職員室に爆弾が設置されているらしいという事を聞いて俺はわずかに唇を強く引いた。

それから。

「わかった。それじゃ、すぐに阿笠博士に車を出してもらうから、白馬のお兄ちゃんは、青子姉ちゃんとアミさんを博士に預けてくれる?」
『わかりました。生徒たちにはとりあえず、このまますぐに帰宅してもらうよう僕から指示を出しておきます。』
「うん。僕が警察に連絡して、『アミ・エナン』の捜索と爆弾処理を依頼するから。」
『わかりました。よろしくお願いします、コナン君。』
必要事項をそうして確認し終えると、俺はすぐに教室に戻ってランドセルを背負った。

「先生、灰原が具合が悪いっていうから、僕が送っていきます。」
突然告げた俺に灰原が目を丸くする。
「えっ?ちょっと、あなた何を・・・。」
「いいから、早く荷物持ってこい。」
半ば強引に押し切った俺に灰原が溜息を吐く。

「ハイハイ。先生、そういう事で、私体調が悪いから帰るわ。」
「ちょっと、コナン君、灰原さん!!そんな急に!?」
先生の声を後にして、俺達はその場から小走りで駆けだした。

「それで?江戸川君。理由は?」
「あいつが攫われた。」
即答で応えた俺に灰原が目を瞠った。

「あいつ・・・って、まさか、黒羽君?」
「ああ。アミ・エナン、彼女の身代わりになって攫われてる。今もあいつを載せた車は移動中だ。」
そう言って俺は再び信号を確認すると、唇を噛み締めた。

「お前の力がいる。手伝ってくれるか?」
その問いに灰原は髪をサラリとかきあげると口許を上げて微笑む。
「当然でしょ。」
「サンキュー、助かる。とりあえず、お前は博士にすぐに連絡して、あいつの高校に彼女達を迎えに行く様伝えてくれ。俺は警察に連絡する。」
「了解。」
昇降口で靴を履き替えながら話すと、俺達はそのまま外へ走り出した。

だんだん発信機の信号がスピードを落としている。
それは、目的地に近づきつつあるという事。

(早くしねぇと!!)
心の中で焦りがわずかに込み上げてくる。
トラウマの様に、以前あいつが攫われた時の状況が頭の中に浮かぶ。

(ぜってぇ無事でいろよ!!)
心の中で呟くと、俺はあえて工藤新一の携帯を取り出して登録番号から選び出した相手との通話ボタンを押した。

「目暮警部、ご無沙汰してます、工藤です。」
俺はそう言うと、発信機の動きが停止したのを確認して、その場所を伝え、即刻『アミ・エナン』の救出に向かうよう依頼する。
それから、江古田高校に仕掛けられた爆弾の処理についても。

「わかった。すぐに手配する。」
誘拐事件と爆弾処理。

どちらも一刻を争う事態に、目暮警部も険しい声で応えた。

それから俺は、終話した携帯を一旦しまうと、江戸川コナンの携帯に持ち替え、もう一本電話を掛ける。
「中森警部、僕だよ。」
そう伝えると、彼の大事な子ども達の状況について説明した。
説明を終えた後、大きく息を吐いた警部が少しだけ微笑した。

『快斗君らしいな。』
「うん、そうだね。」
心から同意した俺は警部に、警部の家はあいつを連れ去った組織にマークされてるかもしれないから、警視庁の安全な場所で待機するように伝える。

『コナン君。』
「大丈夫、必ずあいつを助ける。もちろん、青子姉ちゃんたちも安全な場所で保護するから。安心して。」
『ああ、任せたよ。』
そう言うと電話を切った警部に俺は頷いて、通話を終えた携帯をポケットに入れた。

「必ず助ける。今度こそ・・・な。」
俺はあえて探偵バッジの通話をオープンにしたまま呟くと、掌を強く握り締めた。

そうして、心の中で強く誓ったんだ。