翌日、オレと青子はアミちゃんを連れていつもの阿笠邸へと向かった。

 

アミちゃんを先頭にしてリビングの扉を開けると、子ども達がいっせいに集まってきた。

「すっげぇキレイなねぇちゃんだなぁ。」

「外国人の方ですかね。」

「お姉さん、誰?」

口々に問い掛ける子ども達にアミちゃんは表情を変えないまま、少し視線を下げて言った。

 

「アミ・エナンよ。」

「アミ・・・お姉さん?」

小首を傾げた歩美ちゃんにアミちゃんは首を横に振る。

「アミ、じゃなくてアミ。日本語の網(あみ)に近い発音・・・っていえばわかるかしら?」

「アミお姉さんだね。」

「そうよ。」

アミちゃんは応えると笑顔で頷く。

 

「俺は元太。こっちは光彦。」

「この子が歩美ちゃんです。」

子ども達がアミちゃんにそれぞれ紹介すると、アミちゃんも「わかったわ。」と応えた。

 

「アミお姉さんはゲーム好き?」

「ええ、好きよ。」

たずねた歩美ちゃんにアミちゃんが頷く

 

「博士が作ってくれたゲームがあるんです。一緒にやりませんか?」

「やろうぜ、ねえちゃん。」

そう言うと、有無を言わさず手を引いていく子ども達にアミちゃんは一瞬目を見開いた後微笑する。

「ええ。」

連れられて行くその後姿を見ながら、オレは隣にいる名探偵と顔を見合わせた。

 

「で・・・、彼女は?」

ソファーに座りながら説明を求められたオレは、隣に腰かけた青子と顔を見合わせて微笑する。

 

「うちで預かってるんだよ。」

「へぇ。お前の親戚か?」

たずねた名探偵にオレは頭を振る。

「いや。」

「じゃあ、警部の?」

「それも違うんだな。」

フッと息を吐いて微笑したオレに名探偵が首を傾げる。

 

「じゃあ、彼女はいったい誰なんだよ。」

溜息混じりに問い掛ける名探偵にオレは応える。

 

「おそらく世界最強のハッカー。」

「はっ?」

目を丸くした名探偵にオレはニッと笑みを浮かべる。

「ついでに言うと、銭形警部を通してルパン三世から預かった子。」

「おいおい・・・。」

その瞬間名探偵が苦笑いを浮かべて、アミちゃんを振り返る。

 

「Hello,Underworld.」

子ども達の輪の中で、タブレット端末を手にそう口にする彼女にオレは目を細める。

「おそらく今、ああやって博士の作ったゲームのプログラムの書き換えをしてるんだ。」

「んな事が出来んのか?」

「ああ。」

頷くとオレは、銭形警部を通して渡されたアミちゃんの資料を頭の中で思い浮かべていた。

 

幼い頃、児童ポルノの犯罪組織に誘拐されたアミちゃんは、そこでゲームのプログラミングをして仲間たちと遊んでいたと。

そこで才能を見出されたアミちゃんは、毎日毎日ソースコードを書かされて、遅れれば虐待を受ける。

そんな幼児期を過ごしていたらしい。

 

「それだけじゃねぇよ。そんなのは序の口。世界的な麻薬組織の密売サイトを構築・管理、政府関連機関のネットワークに侵入して情報の閲覧と書きかえ。」

「おい、それって全部違法じゃねぇか。」

真剣な表情で体を前屈みにして詰めよる名探偵にオレは頷く。

 

「ああ。だが、これは銭形警部も全部承知している。そのうえで、銭形警部は彼女にインターポールの承認保護プログラムを適用している。だからアミちゃんはその罪に問われる事は無い。」

「なるほど。」

頷いた名探偵がもう一度アミちゃんに視線を向けた。

 

「そういえば彼女、見た事あるわ。」

そこに紅茶をトレーに載せて持ってきた哀ちゃんが言った。

「少し前にルパンゲーム・・・って流行ってたわよね。その時に、ルパン三世と一緒に彼女がネット上で話題になってたと思うんだけど。」

「さすが哀ちゃん。」

応えたオレは頷くと言った。

 

「そのルパンゲームが落ち着いた後、ヨーロッパの全寮制の学校に通ってたらしいんだけどさ、ある事件に巻き込まれて。アミちゃんの存在もその筋ではやっぱり知ってる人間もいて、危険だから・・・って事で。とりあえず、オレに預かってくれってルパン三世から依頼が来たわけ。」

「そう。いろいろ、苦労してるのね。」

オレ達の前に紅茶を並べてくれた哀ちゃんが、アミちゃんを見て目を細めた。

 

「でも、黒羽君達は大丈夫なの?」

「そうだよ。まさかお前彼女と同じ家に・・・?」

名探偵のその言葉にオレは苦笑いで頭を振る。

 

「さすがに、一人暮らしの男の家に女の子泊めるのはまずいだろ?だから、そこは青子と警部に協力してもらってる。なぁ、青子。」

「うん。」

頷いた青子が柔らかく微笑む。

 

「アミちゃん、いろいろ小さい頃から大変だったんだって。昨日も夜寝る前に話してくれたんだ。だから、青子はアミちゃんと仲良くなれればいいな・・・と思って。」

そう言って笑う青子に、名探偵も哀ちゃんも笑顔で頷く。

 

「青子姉ちゃんなら大丈夫だよ。」

「そうね。なんてったって、世界一の怪盗さんを虜にしちゃうんだから。」

その言葉にオレも苦笑して頬を掻く。

 

「そういえば、お前の素性については彼女は?」

「ああ・・・それなら。」

「全部知ってるわよ。快斗の事も。あなた・・・江戸川コナン君、あなたの正体も。」

いつの間にそこにいたのか、傍らに立つアミちゃんに、名探偵と哀ちゃんが眉間に皺を寄せ視線を鋭くした。

 

「お姉さん、僕の事・・・って、どういう事?」

「あら、それはここで話してもいいの?あの子達に聞かれちゃまずいんじゃない?」

問い掛けるアミちゃんに名探偵が唇を引く。

その顔を見下ろしたまま、アミちゃんは言った。

 

「快斗の事を調べてた時にあなたの名前に辿り着いた。そこから過去の形跡を洗っていったところ、あるところでぱったりとその情報が途切れている事に気づいた。そこの彼女も同じ。」

微笑しながら続けるアミちゃんに、名探偵と哀ちゃんがますます視線を鋭くする。

「私はネットワークにあるすべての情報にアクセスできるの。だから、そうやって糸を辿っていけば、おのずと結果は見えてくる。」

「アミちゃん・・・。」

呼び掛けたオレにアミちゃんはフッと息を吐いた。

 

「もちろん、快斗にとって大切な人なのはわかってる。だから、誰にもいうつもりはない。」

「本当に?約束してくれる?お姉さん。」

たずねたコナンにアミちゃんは真顔で応える。

 

「ええ、もちろん。約束するわ。」

アミちゃんは応えると笑顔でまわりを見渡す。

 

「だって、私も・・・。素姓を知られれば狙われて、まわりの人達を危険に晒す事になる。その事は重々承知しているわ。」

「お姉さん・・・。」

「立場は違えど、同じなのよ。私達は。それに・・・。快斗と青子の大切な人達を守りたい・・・・って。私も思うから。」

「アミちゃん・・・。」

呼び掛けた快斗にアミは微笑む。

 

「改めて、アミ・エナンよ。よろしくね。」

アミちゃんのその言葉に、名探偵と哀ちゃんは顔を見合わせると微笑して右手を差し出す。

 

「よろしくね、お姉さん。」

「ええ。」

頷いたアミに名探偵が微笑む。

 

「あなたは・・・。」

「灰原哀。あなたとは気が合いそうね。」

そう口許を上げた哀ちゃんにアミちゃんが微笑を浮かべる。

「ええ、よろしく・・・哀。」

そうして顔合わせを終えたオレ達は、その後、アミちゃんが書き換えて、格段にグレードアップした博士のゲームで子ども達と遊んでから家路に帰る事にしたんだ。