それから数時間後。
コナンは後から来た子ども達と合流して、船上のデッキに出ていた。
水平線上には沈みかけた太陽が紅く燃える様に輝き、空に浮かぶ雲を茜色に染めあげる。
西の空には満月が淡く光り、静かな波間にキラキラとその光を反射させて、絵画の様な風景を映し出していた。
そして、デッキに一直線に敷かれた鮮やかな青色の絨毯。
その直後、ヴァイオリンの生演奏と共にその場に現れたのは・・・。
「うわぁ!!!」
ピンクのレースをふんだんにあしらった可愛らしいドレスに身を包んだ歩美が一番に感嘆の声を上げる。
「青子ねぇちゃん、綺麗だなぁ。」
「快斗さんも素敵です!!」
口々に声を上げる子ども達にコナンはチラリと顔を向けると、フッと口許で笑みを浮かべる。
「これがあの鈴木財閥のお嬢様のサプライズ?」
たずねた哀にコナンが微笑む。
「ああ、そうみてぇだな。」
そう言ってコナンは照れくさそうにしながら並んで歩く快斗達を見つめる。
真っ白いウェディングドレス姿の青子を、タキシードに身を包んだ快斗がエスコートしてゆっくりと歩いてくる。
その姿は、さながら結婚式だ。
「彼女、いっつもけっこう無茶するけど。」
哀はそういうと、口許を緩め目許を細める。
「今回は・・・かなりいい趣向じゃない?見直したわ。」
「そうだな。」
応えたコナンもわずかに目を細め、二人を見つめる。
ここに辿り着くまでにあの二人がどれだけの困難を乗り越えてきたか知っている。
だからこそ、重ねてきたその想いは、必ず報われるべきものだと思うから。
「黒羽君も・・・いい顔してるわね。」
「ああ、本当に。」
(前にこの場所で会った時とは天と地の差だぜ。)
頷いたコナンはそう思いながら柔らかく微笑む。
日が落ちて暗くなった夜空に星がキラキラと瞬き始める。
そして、眩いくらいの照明がスポットライトの様に船先へ辿り着いた二人を明るく照らした。
その直後、子ども達が駆け寄り、手に持っていた小さなブーケを二人に手渡す。
「ありがとう、みんな。」
照れくさそうに微笑む青子に子ども達が「綺麗~!可愛い~!」と声を上げる。
「誕生日、おめでとう・・・で、いいのかな?青子姉ちゃん。」
コナンも歩み寄りそういうと苦笑を浮かべた。
「一応・・・そのはずなんだけど。」
「もう、ここまでやったら、結婚式でいいんじゃない?」
「おいおい・・・。」
そう言って快斗が溜息を吐いた。
笑い掛けるコナンに青子が一気に顔を赤く染めるとその場で照れてブーケで顔を隠す。
その時。
「おめでとう、青子ちゃん。」
「すっごく綺麗だよ~!!」
目の前まで来ると、そう言って笑い掛けた園子と蘭に青子が顔を上げる。
「園子ちゃん、こんなにしてもらっちゃって、どうしよ~!?」
「だから、いいのよ、別に。気にしないで。」
園子はそういうと、軽く口許に手をあてて笑みを浮かべる。
「まあ、しいていうなら、ここで黒羽君が盛大にマジックショーしてみんなに披露してくれたら、みんな盛り上がるし、喜ぶんじゃないかしらって思うんだけど。どうかしら?」
「えっ・・・?」
いきなり話を振られた快斗は苦笑して頬を掻いた。
「いや、でも、全然オレ今日マジックの準備してきてねぇし。」
「あっ、それなら心配いらないよ。」
コナンはそういうと、デッキの入口に目を向けた。
そこに立つ人物を見て快斗が目を見開く。
「寺井ちゃん!?」
「どうせこんな事になるだろうと思ってさ、最高のアシスタント呼んどいたから。」
「さすが、名探偵!!」
快斗はそういうと、青子に耳打ちして、その場から走り出し、寺井の元へ向かった。
それから数分後、戻ってきた快斗が中央に立つと同時に、音楽がジャズ調のノリのいい音楽に変わる。
「Ladeies and Gentleman!!」
そう声を放った快斗は、その場で一瞬で早変わりを終えた。
怪盗キッドさながら・・・というか、実際本人ではあるのだが。
「It's show time!!」
という掛け声と同時に、大きな花火がドーンと打ちあがった。
コナンがタイミングを合わせて花火ボールを打ち上げたのだ。
そして、一気に観客を引き込んだ快斗は次々とマジックを始める。
そんな快斗を青子は目を細めながら見つめた。
「青子姉ちゃん。」
隣に立って呼び掛けたコナンに青子は顔を上げた。
「コナン君。」
「良かったね。」
その一言に想いを込めて告げたコナンに、青子は目を潤ませながら微笑む。
「うん。」
応えると、指先で目の端の涙を拭った。
「コナン君のおかげだよ。」
青子の言葉にコナンは頭を振る。
「僕は何もしてないよ。」
コナンはそういうと、額に汗を浮かべながら全力でマジックを続ける快斗を見つめる。
「青子姉ちゃんん達が頑張ったから。どんなに辛くても、苦しくても。諦めずに頑張ったから。きっとここに辿り着いたんだよ。」
コナンのその言葉に青子は柔らかく微笑み頷く。
「うん、でもね、青子と快斗だけじゃ、ここまで辿り着けなかったんだよ。」
青子はそういうと、快斗が攫われた夜の事を思い出していた。
「誰にも頼れない。青子も快斗を守りたい。快斗も青子・・・って。でも、気持ちばっかり焦っちゃって。どうしようも出来ずにいたの。そんな時に、コナン君が快斗に手を差し伸べてくれたんだよ。」
青子はそう言いながら快斗を見つめ愛し気に目を細めた。
「本当に・・・嬉しかったんだって。快斗、今でもいつも言ってる。絶対にあの時の事は忘れないって。」
「そっか。」
「うん。」
頷いた青子がコナンに手を伸ばした。
「だからコナン君、これからも、青子と快斗のそばにいてくれる?」
たずねた青子にコナンはフッと息を吐くと笑みを浮かべた。
「もちろん。」
差し出された手をとり応えたコナンに青子が微笑む。
「ありがとう、コナン君。」
そう言って笑う青子にコナンも笑みを浮かべた。
「それではまたみなさん。いつか、月下の下でお会いしましょう。」
最後に、そう言ってシルクハットを外すと礼をした快斗に、みんなが盛大な拍手を送った。
コナンは少しだけ苦笑すると、青子と顔を見合わせて笑った。
そうして船上では、とても幸せな時間が流れていた。