「快斗、ほんとうにここでいいのかな?」

青子は目の前の船を見上げながら呆然とした口調で快斗にたずねた。

「ああ、確かに、約束した場所は間違ってないぜ。」

ポケットに手を入れたまま応えた快斗に青子が頷く。

 

「園子ちゃんて、本当にすごいお金持ちなんだね。青子達の為に、こんなすごい船を用意出来るなんて。」

「そうだな。」

(まあ、あれでも・・・。鈴木財閥の社長令嬢、しかもあの爺さんのお気に入り・・・・だからな。)

心の中で呟いた快斗は、口許で苦笑いを浮かべる。

 

その時。

 

「よぉ、さすが、時間通りだな。」

快斗はその声に後ろを振り向いた。

「名探偵。」

その口許がわずかに上がり、笑みを浮かべるコナンに快斗は溜息を吐く。

「なんか、微妙に探偵モード入ってないか?今のお前・・・。」

「しゃーねーだろ?なんたって・・・、この船を前にして、お前と普通にのんびり仲良く会話しろ・・・って方が、無理な話なんだよ。」

そう言って、やはり同じ様に溜息を吐いたコナンに快斗は苦笑いを浮かべる。

 

「クイーンセリザベス号。園子ちゃん、まったく、いい舞台を用意してくれたもんだぜ。」

快斗はそう言うと、ここにいたるまでの経緯を思い出していた。

 

事の発端としては、すべての戦いを終えて日常を取り戻した快斗達は、数日後阿笠博士の家で過ごした後、コナンを送る為に毛利探偵事務所に向かった。

その時に、ちょうど家の前で帰宅したばかりの蘭と園子に出会ったのだった。

しばらくたわいない話をしていたところ、話の流れ上、青子の誕生日を聞かれたので、青子は誕生日が9月である事を伝えた。

だが、事情があり誕生日会が会の途中で中止になってしまった事を説明したところ、蘭と園子は顔を見合わせた。

 

「誕生日・・・って、やっぱ特別だよね。」

「そりゃそうよ。それが、会の途中で中止になるって、ひどくない?」

興奮気味に園子はそう言うと、ドンと胸を叩いた。

「そういう事なら、この園子様にまっかせなさい~!!」

いつもの通りのテンションでそう言うと、園子はその場で電話をかけ始めて言った。

 

「セッティングは抜かりなしよ!!」

そうして、数日後、青子と快斗に日付と日時、待ち合わせ場所をメールしてきて、内容は、来ればわかるわよ・・・の一言で。

そして、今にいたる・・・というわけだった。

 

「みんな、集まってるわね!!」

その時、背後から聞こえてきた園子の声に快斗達は振り向いた。

 

「園子ちゃん!!」

呼び掛けると青子は不安そうな顔で腕を引いた。

「どうしよう、青子こんなに大きな船・・・。」

「いいのよ、気にしないで。うちではいつもの事なんだから。」

園子はそう言うと、青子の手を引いて歩き始めた。

 

「それより、早く行きましょう。宿泊できる様部屋も手配してあるし、ドレスもヘアサロンも中で着付けしてもらえる様手配してあるから。」

そういうと、あれよあれよという間に強引に連れていかれる青子に快斗は苦笑した。

 

「ホント、さすが鈴木財閥社長令嬢。やる事が派手だね。」

「まあな。まっ、確かに園子のいうように、俺達にとってはわりといつもの事だし。」

「このブルジョアめ。」

「別にんなんじゃねぇよ。」

苦笑いして応えたコナンに快斗はもう一度溜息を吐くと苦笑した。

 

「博士や子ども達も来るんだろ?」

「ああ。あいつらもうもうすぐ来るはずだし。俺達も中に入ろうぜ。」

そう言って前を歩き始めたコナンの背中を快斗はしばらく見つめた後目を細める。

 

(ホント、不思議な話だよな。)

快斗は心の中で呟くとふぅと息を吐いた。

 

以前、この場所で対峙した時には、最大の敵であったはずの存在が、今は友人としてすぐそばにいる。

「奇跡・・・か。」

ホントにあるんだな・・・と。

 

快斗は改めて感慨深く感じながらコナンの背中を見つつ、船の中に入っていった。