「大丈夫かな?カイト達・・・。」
「そうだな。」
不安そうに呟いたギュンターに、コナンは手許で時間を確認して表情を険しくした。
ヨハネスの後を追って、ギュンターが快斗を青子の中に送り出してからもう既に3時間以上が経過していた。
そもそも、人の心の中というまったくの異世界で、同じ時間が流れているのかどうかすらもコナンにはわからないのだが、
それでも、目の前で親友がピクリとも動かないまま、それほどの長時間にわたり意識を失っている状態を心配するなという方が、ムリな状況だった。
だからといって、今のコナン達に為す術はない。
「お前でもわからないのか?ギュンター。今、中で何が起きているのか。」
その言葉にギュンターはわずかに瞼を伏せて頭を振る。
「僕の力ではね・・・。」
ギュンターはそう言うと、眠り続ける青子を見つめる。
「たぶん、青子の中に結界の様な・・・。そういう異世界をつくり出しているんだと思う。それだけはわかる。だけど、それをつくり出したのが、お祖父様なのか。それとも、分裂したお祖父様の片割れともいうべき存在なのか・・・。どちらなのかはわからない。でも、その中を覗く事は僕の微力な力ではかなわない。」
「そうか。」
そうコナンが溜息を吐いた。
その時、コナンの目の前に、眩いほどの光が突然浮かび上がった。
コナンはその光を遮るように額のあたりに手をかざして、細目でその光の中に目を凝らす。
次の瞬間、その中からはヨハネスが出てきた。
かと思うと、ヨハネスは先ほど消える直前、人を上から見下ろしているような態度をとっていた人物と同一人物とは思えないほど、ゼェゼェと息を切らして、直後苦しそうに胸を押さえながら近くにある壁にもたれかかる。
「お祖父様!!」
すぐに声を掛けたギュンターをヨハネスが振り返った。
「ギュンター・・・。すまないが手を貸してくれるか?」
たずねたヨハネスに、ギュンターは一瞬目を瞠った後すぐに頷く。
「はい。」
応えたギュンターはヨハネスに駆け寄ると、ヨハネスの肩を支えながら、空いているヘリの助手席へと連れて行きゆっくりと座らせた。
「お祖父様、大丈夫ですか?」
「ああ、心配ない。それより、黒羽と彼女がそろそろ目を覚ます頃だ。」
その言葉にギュンターは頷くと、コナンの方を向いた。
「探偵君。」
「ああ、わかってる。」
応えると、コナンは快斗の肩をゆすった。
「おい、起きろ!!」
「名・・・探偵?」
その声にゆっくりと顔を上げた快斗が呼び掛けるとコナンは息を吐いた。
「大丈夫か?」
「ああ、問題ないよ。それより青子は・・・。」
「快斗・・・。」
その瞬間、すぐ耳許で聞こえてきた青子の声に快斗は息を吐くと、柔らかい微笑を浮かべる。
「おかえり、青子。」
「快斗も。」
そう笑みを交わす二人に、コナンとギュンターはほっと胸をなでおろすと、顔を見合わせて笑った。
「どうやら二人とも問題ないみてぇだな。」
「良かったよ、本当に。」
心からの想いでそう言いながら息を吐いたギュンターは、再びヨハネスに目を向けた。
「でも、お祖父様が・・・。」
先ほどから様子がいつもと違うヨハネスが、ギュンターは気がかりでならなかった。
「どうされたのですか?一体・・・。」
「ギュンター、お前には辛い想いばかりさせたな。」
ヨハネスはやはり苦しそうに胸を押さえたままそう言うと、ギュンターを見つめ目を細めた。
「お祖父様・・・。」
呼び掛けたギュンターに後ろから快斗が歩み寄る。
「ヨハネスは・・・長い間、切り離し、封じ込めていた自分と一つになったんだよ。」
その言葉にヨハネスが頷く。
「ああ。そして、私は長らく魔力で自らの肉体が老化するのを止めてきたが、先ほどその力を解いた。」
ヨハネスが告げたその言葉にギュンターは目を瞠った。
「お祖父様・・・、それは何故?」
「必要ないからだよ。」
ヨハネスはそう言うと、柔らかく笑った。
「サラと再び会う事が出来た。そして、生まれ変わったら共に生きようと約束して、彼女を再び天国に送り出す事が出来た。」
「パンドラもサラさんに預けたから、もうこの世には存在しないしな。」
そう笑い掛けた快斗にヨハネスが微笑を浮かべる。
「ああ、そもそもあれはもう今の私にはもう必要のないものだからな。」
ハッキリとそう言葉にしたヨハネスに、コナンもギュンターも驚愕の表情を浮かべた。
「カイト・・・これは一体?」
「どういう事だ?」
たずねてきた二人に、快斗はフッと息を吐くと再びヨハネスを見つめる。
「ヨハネス自身が決めたんだよ。全部・・・。それがすべてだ。」
その言葉にヨハネスも微笑して頷く。
それからわずかに目を開くと、心配そうに見つめるギュンターに目を向ける。
「ギュンター、本来の私の肉体は既に齢90を超えている。私が力を解いた以上、これからおそらく、急激に老化が進むだろう。」
「お祖父様・・・。」
「お前には苦労を掛け通しだが・・・。唯一の肉親として、最期までそばにいてくれるか?」
たずねたヨハネスに、ギュンターは涙ぐみながら応える。
「もちろんです、お祖父様。」
ギュンターのその声に、ヨハネスはゆっくりと目を閉じると、口許を柔らかく綻ばせた。
「ありがとう、ギュンター。お前がいてくれて良かった。」
「お祖父様・・・。」
ギュンターはヨハネスの膝の上で祈る様に腕を組み顔を伏せた。
その光景を、コナンと快斗と青子は、何も言わずに優しい瞳で見守っていた。