急勾配の屋根にレンガ造りの建物。

そんな街の中にしんしんと雪が降り積もる。

その雪は世界を真っ白な純白の世界へと変えていく。

 

悪意もすべて覆い隠す、純白の世界へ。

 

「これは・・・。」

呟いたヨハネスは目を細めた。

 

「おかえり。」

その声に顔を上げると目の前に立つ人物に目を向ける。

「お前は・・・。」

「何十年・・・。本当に、久しぶりだね。」

そう笑い掛けた男に、ヨハネスはニコリともせずに頷く。

「ああ。この景色は・・・。」

「覚えてる?サラを喪ったあの日の・・・。僕達の街さ。」

その言葉にヨハネスは何も言わずにまわりを見渡すと、数瞬だけ瞼を伏せる。

 

それから顔を上げると、眉間に深く皺を寄せた。

「死ぬまで二度とお前に会うつもりはなかった。」

「うん、知ってるよ。」

 

そう、応えると男。

もう一人のヨハネスが切なげに笑みを浮かべる。

 

「快斗がいなければ、僕達がこうして言葉を交わす事は無かっただろう、きっと。君が支配している、僕の肉体が滅びるまで。」

「ああ、その通りだ。」

応えたヨハネスは、もう一度厳しい視線で目の前にいるもう一人の自分を見つめる。

 

「外で起きていた事はすべてお前も知っているのだろう。」

「うん、もちろん。」

応えると、目の前のヨハネスと別れた時のまま、風貌のまったく変わらない顔でヨハネスは切なげに目を細める。

 

「君が今までしてきた事。たくさんの人を傷つけ、殺し、苦しめてきた。」

「ああ。」

抑揚のない声で答えたヨハネスに顔を伏せると、掌を強く握り締める。

 

「その中には快斗も、快斗の父上も・・・。それに、君自身の息子や孫まで思い通りに支配してきた。」

「ああ。」

もう一度応えたヨハネスに、青年の頼りなさを残したままのヨハネスが無言で強く唇を噛み締める。

 

「お前にとっては、許しがたい事だろうな。」

「うん、そうだね。とても・・・許せない。」

そう言うとヨハネスは固く瞳を閉じたまま、目の端に涙を滲ませる。

 

「ゴメン・・・。僕のせいだ。僕が無力で。僕が全部君に押しつけたから。だから君は・・・。」

その言葉にヨハネスは一瞬だけ目を瞠ると、溜息を吐いて苦笑する。

 

「違うだろう、それは。私がお前を棄てた。そして、一生出て来られない様に封印して閉じ込めた。むしろ、私はお前に恨まれるべき存在だと思うが。」

そう言うともう一度大きく息を吐いた。

「まったく。あの男と一緒だな。お人好しが・・・聞いて呆れる。」

「違うよ。僕は・・・。ここにいて、ただそれだけしかしてこなかった。でも君は、それでもやっぱり、これまでずっと、その生き方はどうあれ、現実の世界で精いっぱい戦ってきたんだろ?」

強い口調でそう言うとまっすぐ自分を見つめるもう一人の自分をヨハネスは見つめ返す。

 

「見て来たよ。君をずっと。だから、知ってる。」

「お前・・・。」

呼び掛けたヨハネスはわずかに目を細める。

 

「僕は無力だ。だから、君に何も出来なかった。そうして、君も僕も、ずっとずっと。今までずっと独りだったんだ。」

その言葉にヨハネスは無表情のまま唇を引いた。

 

「そんな僕達の前に、快斗が現れた。やっと来てくれた。君は覚えていないだろうけど、僕はずっとずっとこの時を待ってた。」

「ああ、それで・・・あいつは、二つに別れたままの私の魂を一つにしろと・・・。」

「うん、知ってるよ。全部聞いてたから。けど、・・・。君は、僕と一つになる必要性を感じていない。今だって・・・。」

図星をつかれたその言葉にヨハネスは苦笑した。

 

「ああ、あの男があまりにもしつこいのでな。それに・・・。」

ヨハネスはそう言うと、後ろを売り返る。

 

「サラ・・・。」

「ヨハネス・・・。」

誇張の懐かしい景色の中で向かい合うヨハネスに、サラは立ち止まると表情を硬くする。

そんなサラを、ヨハネスは笑い掛ける。

 

「君に会いたかったから。」

微笑むヨハネスをサラはやはり、厳しい表情で見つめていた。