それから青子はオレの膝でスースーと寝息を立てて眠り始めた。
予告時間は徐々に迫りつつある状況でどうしようかと悩んだけど、オレは仕方なく青子をこの場において動く事にした。
「ゆっくり眠ってろよ。」
そう声を掛けると青子をソファーに下ろしサラリと髪を撫でる。
それからオレは走って『アイランドクリスタル』の展示場へ向かった。
「名探偵。」
声を掛けると名探偵が振り返った。
「おう、どうだ?彼女は。」
その問いにオレは思わず苦笑をもらす。
「爆睡中。当分起きなそう。」
「そっか。」
応えた名探偵がハハハッ・・・と笑みを浮かべる。
「それであと15分で予告時間なんだけど。何か変わった事は?」
「いや。特には。一時間ほど前におっちゃん達が戻ってきたんだ。それで30分くらい前に館長さん達は館内の見回りに行くって部屋を出ていって。今宝石のそばにいるのはおっちゃん一人。それと地元警察の人達が出入り口を固めてる。」
「そうか。」
頷いたオレは軽く息を吐き、宝石のそばで腕を組んだまま厳しい顔で警備を続ける毛利探偵に目を向けた。。
「ただの悪戯・・・って事で。このまま何事もなく済んでくれるといいんだけど。」
「それに越したことはないけどな。」
名探偵が頷きながらわずかに目許を細めた。
その声には微妙なニュアンスが含まれているような気がしてオレは首を傾げる。
「何か気になんのか?」
「いや・・・って。そういえば見回りに出た館長さん達、まだ戻ってきてないんだ。」
その言葉にオレは腕時計に視線を落としつつ眉を顰める。
「この時間なのにか?もう十分前だぜ?」
「だよな。」
頷いた名探偵はそこで胸の前で腕を組みながら口を開く。
「やっぱり予告状を出したのは・・・。」
名探偵が呟いた。
その時だった。
「すみません、遅くなりました。」
そう言って戻ってきたのは睦月さんだった。
「睦月さん、どこに行ってたんすか。もうすぐ予告時間ですよ。」
「ええ、すみません。ちょっといろいろと気になっちゃって。それで回ってたら遅くなっちゃって。」
応えた睦月さんは申し訳なさそうな顔で苦笑して微笑む。
「たくっ・・・。しっかりしてくださいよ。」
「ええ、すみません。」
ぼやき混じりに毛利探偵が言うと睦月さんはチョコンと頭を下げた。
それからキョロキョロとあたりを見回す。
「あの・・・。それより館長と紫多さんは?」
「まだ戻ってませんよ。もう5分前だっつーのに。」
溜息を吐いた毛利探偵に睦月さんが驚いた顔をした。
「まだ戻ってないんですか?」
「ええ。心当たりありませんか?」
たずねた毛利探偵に睦月さんが頭を振る。
「いいえ。私は二人とは別々に動いてましたので。館長は・・・なんか大事な用があるから館長室に行くって言ってましたけど。紫多さんは・・・。」
応えた睦月さんに毛利探偵が怪訝そうな顔をした。
「このキッドに宝石を盗まれるかもしれない・・・っていう時に大事な用、おかしいですね。」
「ええ。」。
頷いた睦月さんに毛利探偵がもう一度大きく溜息を吐く。
「とりあえず、あともう少しで予告時間です。気を引き締めて・・・。」
毛利探偵が言い掛けた。
その時、場内の電気が消えパッと暗くなった。
「これは・・・!!」
「配電盤だ!!確認してなかったのか!?」
毛利探偵が声を荒げると地元警察の人があたふたと慌てながら応える。
「すみません、まさかこんな事になるとは。」
「くっそー!!いつものキッドの常とう手段じゃないか!」
毛利探偵が悔しそうに歯噛みして呟いた。
次の瞬間。
「ねぇ、あれ見て!!」
名探偵が窓の外を見て叫んだ。
「あれは・・・キッドのハンググライダーじゃねぇか!!」
駆け寄った毛利探偵も大きく目を瞠る。
「出やがったか、キッド。やっぱり予告状は本物だったのか!!」
呟くと毛利探偵はその場からサッと走り出した。
「キッドが出たぞ!!お宝を守れ!!」
「はい!!」
声を高めた毛利探偵に呼応して地元警察がバタバタと宝石に走り寄りまわりを固める。
しばらくすると予備電源が点灯し、うっすらと明かりがついた。
だがまたその直後、モクモクと場内に煙が立ち込め始める。
「これは・・・。」
「煙幕だ!!キッドが現れるぞ!!」
毛利探偵の緊張した声が響く。
だがその後、いくら待っても宝石を狙う者は訪れず、場内はシンと静まり返ったまま。
「なんだ?どうしてキッドは現れない。どういう事だ?」
毛利探偵が焦った様に宝石を見ながら呟いた。
「あと一分・・・。」
「ああ。」
呟いたオレに名探偵が緊張した顔で頷く。
「3、2、1・・・。」
カウントダウンをしたオレの「ゼロ」の声と共に響いたのは・・・。
バンッ・・・と。
静寂の中に重く響く。
一発の銃声の音だった。