「キターーーーーー!!キッドからの予告状!!」

突如聞こえてきたその声にオレは青子と顔を見合わせた。

そして不安そうに目を細める青子に首を横に振ると後ろを振り返り、先ほど声を上げた男子に話し掛ける。

 

「その情報マジ?」

「ああ。大マジ!!見てみろよ。」

そう言うとそいつは歩いて来て、少し得意げにも見える顔でオレを見下ろした。

「ほら。ここに載ってるだろ?キッドからの予告状再び。獲物は芦屋のひまわり・・・って。」

そう言ってスマホの画面をオレに向ける。

オレは素早く記事を速読でチェックしてから「ホントだ。」と応えると、その記事の出どころをチェックして、自分のタブレットで同じ画面を表示する。

「サンキュー。」とそいつに告げ軽く手を上げた後でオレは再びタブレットに視線を落とす。

それからオレはその記事を冒頭から改めて読み始めた。

 

内容としては、鈴木財閥所有の超豪華クルーズ船『シーベルツリー』

そこで展示される芦屋のひまわりをキッドが狙うと予告状を出している・・・と。

そういう内容だった。

 

まあ確かに、以前のオレならもしかしたらそう言う事もあったかもしれないな・・・と思いつつ、眉をひそめわずかに目許を細めたオレを青子はずっと不安そうな顔で見つめていた。

 

「快斗・・・。」

記事を読み終えて一息吐いたオレに青子が胸の前で両手を組みどこか祈る様な様子で顔を寄せた。

「オレじゃない。」

わかってるだろうけど・・・と。

そうまわりに聞こえない様に小さな声でつけ加えると、青子が唇を強く引いて無言で頷く。

 

「でも、誰が?」

青子の問いにオレは首を横に振った。

「わからない。今の時点では・・・。」

ハッキリいってそうとしか言いようがなかった。

 

ひとつ考えられるのはこれが組織が仕掛けた罠なんじゃないかって事だけど。

ただその場合、今の時点でオレの正体も居場所も正確に掴んでいるはずの組織が、今更こんなまどろっこしい事をする理由がどこにあるのか・・・って事で。

それなら単純にこの前みたいにオレを攫って煮るなり焼くなりした方がハッキリいって組織としては手っ取り早いはず。

こんなわざわざ遠回しにじわじわ攻める様な真似をして、それは組織に何の得があるのか?

 

「さっぱりわからねぇな。」

呟いたオレは大きく溜息を吐いた。

 

そんなオレを見つめていた青子が、オレの手許にあるタブレットを見て「あっ!!」と声を上げた。

「快斗、これ・・・そういえば。」

そう言うと青子はその記事の中の一部分に人差し指をあてる。

「シーベルツリーって・・・園子ちゃんの?」

「ああ、そういえばそうだな。」

応えるとオレは片手でスマホを操作して、名探偵と先日ライソでやり取りした画面を開いた。

 

「青子も誘われたんだよな、蘭ちゃんと園子ちゃんに。シーベルツリーのクルーズ。」

「うん。快斗とコナン君も一緒だからどう???って言ってくれたの。」

青子はそう言うと嬉しそうに微笑む。

そんな青子を見てオレもちょっとだけ微笑した。

 

「そのシーベルツリーであの爺さんがレイクロックで一日でダメになった芦屋のひまわりの展示をするとは聞いてたけどまさかこんな事になるとはな。」

オレが言うと再び青子の表情が陰りをおびた。

それを見つつオレはあえて明るい口調で青子に笑い掛ける。

 

「青子は初めてだもんな。こういうイベントごとって。」

「うん。だから凄い楽しみにしてたんだけど・・・。」

そこまで言い掛けたところで青子が顔を伏せる。

「快斗・・・大丈夫かな?」

俯いた青子の手を握りオレは頷く。

次の瞬間青子が大きく目を開いて顔を上げた。

 

「大丈夫。絶対・・・大丈夫だから。」

告げるともう一度オレは青子を見つめたまま大きく頷く。

「快斗・・・。」

「必ず青子はオレが守る。だから・・・心配すんな。」

そう言うとオレは握っている掌にぐいと力を込める。

華奢な青子の細い指が大丈夫かな・・・と。

チラリと頭の隅で思いながらも、そうせずにはいられなかった。

そんなオレの心を知ってか、青子の指がそんなオレの手を握り返す。

 

「うん、ありがと・・・快斗。でも、無理しないでね。」

むしろ青子の心配事はそっちだったらしい・・・と。

今更ながらに気づいてオレは苦笑した。

 

そっか、それでこそ青子だ。

青子っていうのはそういう人間なんだ。

 

バカみたいにお人好しで。

自分の事より他人の事。

青子の事よりオレの事。

心配性で甘すぎるくらい優しくて。

 

それで、やっぱりオレはそんな青子の事が大好きで。

 

「ああ。」

オレは青子らしいなと思いながらフッと息を吐いて微笑む。

「大丈夫。」

もう一度告げたオレに青子は頷くと、きゅっと唇を強く引いた。

 

その時、担当教科の教師がガラガラと教室のドアを開けた。

すぐに席を離れていた生徒達が一斉に自席へと戻る。

 

青子も早足で自分の席に戻っていった。

オレは何も言わずにその背中を見つめた後で、そよ風が流れてくる窓の向こうに視線を向ける。

 

いつまでも立ち止まったままじゃいられない。

戦いを終わらせる為には覚悟を決めて前に進まなきゃ。

 

強くそう思いながら、聞こえてくる教師の声を頭の隅で聞き流しつつ、名探偵に連絡を取り放課後会う約束を取り付けた。

そうしてオレと青子は一日の授業を終えると、そのまままっすぐ阿笠博士の家へと向かったんだ。