「なんっ・・・だよ、今の。」
そう噛み締めた様な快斗の声に顔を上げた青子はびっくりしたんだ。
「えっ・・・?」
呟いて青子は目の前にいる快斗を見つめる。
時折苦しそうに顔を歪めながらも眠り続ける快斗。
やっぱりそこにいるのは快斗で。
でも確かにさっき聞こえてきた声も快斗で。
そう思いながら思わず首を傾げた青子に快斗がチッと舌打ちをするのが聞こえてきた。
「そっちじゃねぇし!!」
その直後。
ドンッ!!と強くドアを閉める音と共に聞こえてきた声に青子は大きく目を開いて後ろを振り返る。
「快斗・・・!!なんで?」
目の前にいる快斗と後ろにいる快斗を交互に見て青子が言うと、ドアの前にいる快斗が顔を伏せた。
「なんで・・・って。さっきから聞いてるのはこっちなんだけど。」
快斗はイライラした様子でそう言い放つと、立ち上がった青子を更に上から冷たい視線で見下ろした。
その目は心なしか殺気立っている様にも見えて、青子は瞬きも出来ずにその瞳の奥をじっと見つめる。
「どういう事か・・・説明してもらおうか?」
そんな青子を見下ろしたまま快斗は肩を掴むと、そのまま青子を壁際に追いやり苛立ちを抑え込んだ静かな声で言った。
ドンッと壁に手をついてそう詰め寄る快斗に青子は状況を理解出来ないままゆっくりと口を開く。
「快斗が・・・朝ごはん食べに来ないから心配して見に来たんだよ。そしたらベッドで眠ってて、時々苦しそうにしてるからそばにいてあげよう・・・って思って。そしたら・・・。」
「いきなり手ぇ掴まれて引っ張られてキスされて。愛の告白までされちゃった・・・って?」
そう言っていじわるそうに口許を引き上げた快斗に青子は頷いて言った。
「だって・・・快斗だもん。」
「そうだな。けど・・・。」
快斗はそう言うと、壁に掌を広げたまま青子に顔を寄せる。
「残念ながらオレはこっちなんだけど。」
「だから・・・どういうっ!!」
そう言い掛けた青子の口を快斗は顎筋に親指を掛けて強引に塞いだんだ。
そうして口づけたまま無理矢理隙間を開かせようとしている快斗に青子は気づいて。
それで思わずフイと顔を背けた。
こんなのいつもの快斗じゃない。
だってそう思ったから。
だからちゃんと快斗と話がしたい。
青子はそう思ったんだよ?
その想いが快斗に届く様に。
そう思って青子は快斗を見つめて。
「イヤだよ・・・こんなの。」
口許に指先をあててそう言った青子に快斗は顔を伏せるともう一度舌打ちをした。
それから顔を上げてまっすぐ青子を見つめ返したんだ。
その顔は心なしか寂しそうに見えた。
傷ついたような表情。
そう思って青子が快斗に手を伸ばそうとした、その次の瞬間。
「わかったよ。あいつは良くてオレはダメなんだよな!!」
投げやりな口調でそう言いながらクルリと踵を返した快斗の腕を咄嗟に青子は掴む。
「違うよ、快斗!!そうじゃない!!」
「じゃあどういう意味だよ?説明しろよ!?」
そう言ってもう一度顔を寄せて強く唇を押しつけてきた快斗に青子は首を横に振った。
目の端からじんわりと涙が零れ落ちるのを自覚する。
(違うの。そうじゃなくて・・・!!)
そう思いながら目の前に迫る大きな胸をドンッと両手で強く突くと、拍子抜けするほどあっさりとその中から青子は解放された。
「えっ・・・?」
驚いて振り返った青子に快斗が言った。
「もういいよ。好きにしろよ。」
「快斗?」
名前を呼んだ青子から視線を逸らして快斗が言った。
「青子はオレと同じ顔してりゃ、オレじゃなくたっていいんだろ?」
「違う!!」
「そういう事だろ!?青子が言ってんのは!!」
そう一方的に話を打ち切りにした上にそんないじけた子どもみたいな事を言いだした快斗に物凄く腹が立ってきた。
「オレ下にいるから二人で好きにやってろよ。」
それからそんな事を言って一人で部屋から出ていこうとする快斗に青子は思い切り悲しくなって。
それから、以前の・・・。
快斗のずっと隠していた真実を知らされる前の快斗を思い出して強く瞼を閉じた。
あの時と一緒。
伝わらない。
伝えられない。
それ以前に、快斗自身が自分の本心を全部隠しきって。
青子に伝えようとしていない。
だからそういう言葉で誤魔化して。
青子を突き放そうとするんだ。
その事に気づいた青子は快斗に手を伸ばすと、その両頬を指先で摘んで強く横に引いた。
「いってえっ・・・。何すんだよ!?」
声を上げた快斗の顔を見上げて青子はキッと強く睨んだ。
その視線に一瞬怯んだ快斗が一歩後ろに後退(ずさ)る。
「快斗の・・・バカ!!」
青子はその顔を見ながらそう叫ぶと、ドアの前にいた快斗を突き飛ばして部屋から飛び出したんだ。
[newpage]
快斗の家を飛び出した青子はそのまま自宅へと向かった。
玄関の扉を開けて鍵を閉めるとその場で崩れ落ちるように座り込んだ。
その瞬間、青子は思い出してたんだ。
青子が快斗が敵対してた組織に攫われる事になるその日の学校で。
『キッドも快斗も大嫌いだよ!!』
青子はやっぱりそう叫ぶと快斗一人を残し、教室を飛び出してきた。
「ゴメン、快斗。」
青子は思わず苦笑いを浮かべていた。
あの日からたくさん快斗と一緒にいて、快斗の事わかったつもりでいたのに。
「成長してないね・・・青子。」
青子はそう言うともう一度膝を抱えた。
ポロポロと涙があとからあとから零れ落ちてきて。
でも、寂しそうな顔をさせたまま残してきてしまった快斗の事も気がかりで。
「どうしよう・・・。」
そう思ったその時、ある人の顔が浮かんだ。
その人は今の快斗にとっても。
青子にとっても。
とても大切な人。
救いを求める気持ちで青子はポケットから携帯を取り出すと、すぐに電話帳からその人の名前を呼び出して電話を掛けた。
『もしもし?』
すぐにその人の声が聞こえてきた。
その事にほっとして、青子は答えるよりも先に思わず泣いてしまった。
察しのいいその人は、それを聞いただけで、声のトーンを少し下げて言った。
『青子姉ちゃん、何かあった?』
「うん、コナン君・・・。」
その声に青子は頷く。
『話してみて。青子姉ちゃん。』
その優しく響く声に青子は頷くと話し始めた。
時折泣きそうになりながら声を詰まらせる青子の声にその人・・・。
コナン君は「大丈夫、ゆっくりでいいよ。」と。
そう言ってくれて。
たどたどしく話す青子の声に耳を傾けてくれた。
『大丈夫?青子姉ちゃん。』
「うん、大丈夫。ありがとう、コナン君。」
全部話終えた後、まだどこか心配そうにたずねてくれたコナン君に、青子はそう微笑して応える事が出来た。
『そう、良かった。また何かあったら電話ちょうだい。』
コナン君がそう言って電話を切ったのを確認すると、青子も携帯をしまった。
そして青子はその場で深く深呼吸をした。
最後までコナン君に話を聞いてもらって。
ようやくそうして青子の気持ちもスッと落ち着いたんだ。
それで青子は、また快斗とちゃんと向き合おう。
話をしようって。
そう、心から思えたんだ。