三月末日、名探偵がオレの家に泊まりに来た。
青子の家で帰宅の早かった警部も加わりみんなで食事をして。
それから警部が名探偵に将棋で勝負を挑み、それはもちろん名探偵の圧勝で。
苦笑いしながらほど良くお酒が回ってきた警部は風呂へと向かい、ちょうど時間だったからオレ達も青子におやすみを告げて。
そうしてオレは名探偵と二人で青子の家の隣にある自宅へと向かった。
交代で風呂に入り、しばらくとりとめのない話をして。
それから名探偵はオレのベッドの横に敷いた布団に入りオレに「おやすみ」と告げた。
オレもそれに応えて。
そうして部屋の電気を消してベッドに横になり。
オレも目を閉じたわけだけど。
なぜかオレはどうしても眠れなくて。
しばらくすると、音を立てない様に静かにベッドを抜け出してオレはベランダへと出た。
ふと空を見上げると、弓なりな下弦の月が明るく輝いていて、オレはそれを見上げ微かに目を細めた。
「何してるんだよ、怪盗キッド。」
その呼びかけにオレは一瞬だけ目を大きく開くと、フッと息を吐いて微笑を浮かべる。
「よぉ、起きてきたのか?名探偵。」
「ああ。」
名探偵はそう頷くと、オレの隣に並んだ。
「眠れないのか?」
直球ストレートでたずねてきた名探偵にオレは軽く息を吐いて応える。
「ああ、全然。」
本当にポーカーフェイスもなんもない。
素のままありのままの自分で応えたオレに名探偵が「そうか。」と笑顔で応える。
「まぁ、その気持ちはわかるけどな。」
そう言うと名探偵はもう一度オレを見上げた。
そうして、自分の左腕にある腕時計をオレの方に向けた。
「4月1日。エイプリルフール・・・だもんな。」
「ああ。」
そう笑い掛けた名探偵にオレは軽く口許を上げただけの微笑を浮かべ頷く。
「あの時お前と初めて会って。ずっと敵同士で対決してきて。それが今こんな近くにいる。それを思うとなんかくすぐったい気持ちになる・・・っていうか。すげぇ安心するのに落ち着かない・・・っていうか。」
そう本音を漏らしたオレに名探偵が苦笑を浮かべる。
「それはまあ・・・お互い様だけど。」
そう言うと名探偵は身長差約60センチの角度からオレを見上げて目を細めた。
「でもこれが今の俺とおまえのかけがえのない真実。嘘もごまかしも一切ない。そうだろ?」
「名探偵。」
呼び掛けたオレに名探偵が敵同士だった時には見た事もなかった様な、柔らかい笑みを浮かべる。
「この際だからな。もう一度言うから・・・良く聞けよ。」
すげぇエラソー・・・と。
心の中で突っ込みたくなったけど。
でも、名探偵が何を言うのかはわかってから、オレは何も言わずにただ一心にその声に耳を澄ませた。
「そこにいろよ、快斗。」
オレの本当の名前を呼び、そう告げる名探偵の良く通る声が夜の静寂の中に響く。
「何があっても。絶対に俺の前からいなくなったりしたら承知しねぇからな。」
そう、江戸川コナンではない。
工藤新一ありのままの口調でそう告げられたオレは、その言葉を自分の中に刻み込む様に瞼を閉じて深く頷く。
「ああ、新一・・・。」
あえてそう本当の名前で呼び掛けたオレに名探偵が真顔のまま顔を上げる。
「お前も、そこにいてくれ。何があっても。」
まっすぐその大きな瞳を見つめて告げたオレに名探偵は目を大きく開くと、いつも通りの自信に満ち溢れた探偵の顔で微笑して頷く。
「当然。たりめぇだろ?」
「ああ。」
その声にオレも応えると微笑してほっと息を吐いた。
「それじゃ、中に入ろうぜ。」
「ああ。また朝は青子に叩き起こされるし。早く寝とかねぇと。」
苦笑してベランダの扉を開いたオレは名探偵を先に中に入れると後から入りロックを掛けてカーテンを引く。
エイプリルフール。
だけどもう、一生分の嘘を吐き尽くしたオレには嘘も偽りもいらない。
ただ真実を。
本当の想いを伝えたい。
伝えて欲しい。
ただそれだけを心から願う。
この日はやっぱりオレにとって、とても大切な日だと。
そう、心から思ったんだ。