「ここ・・・は・・!」

僕はそう呟いた後何も言えないまま大きく目を開いて、目の前にある長い階段を見つめていた。

 

新幹線を降りた後ローカル線に乗り換え、それから到着した駅でタクシーに乗ってここまで来た。

ここに来るまでの道程はほとんど僕がいる世界と変わらなかったから、時折タクシーの運転手さんに道案内をしながらここまで来るのはさほど難しい事ではなかった。

 

そして、僕の世界では枢木神社があるはずのその場所に到着した僕はタクシーを降りた瞬間思わず声を上げていた。

「へぇ・・・。」

先に降りた僕に続いてタクシーの支払いを終えた快斗が僕の隣に立って同じ様にその石段の上を見上げそう声を漏らす。

「神社・・・か。」

「うん。」

呟いた快斗に僕も頷く。

「ここ、僕達の世界だと、僕が父さんと住んでた枢木の本家、枢木神社があった場所なんだ。」

「へぇ・・・。」

快斗がまたそう言って上を見上げてから少しだけ微笑する。

「まぁ、神社仏閣は結構小高い山の上とかに建てられてる事が多いから、そういう偶然もあるかもしれないけど。スザクとしては、驚くよな。」

「うん・・・。」

僕はその言葉に複雑な想いを抱えたまま頷く。

「上ってみる?」

問い掛けてきた快斗に僕は真顔で頷く。

そんな僕に快斗はやっぱり何も言わずに頷くと、ポケットに手を入れたまま階段を軽い足取りで上り始めた。

 

僕もその後に続きながら、初めてルルーシュとナナリーに出会った時の事を思い出していた。

その時だった。

「ルルーシュとナナリーはスザクの家に預けられていたんだろ?」

少し前を歩きながら後ろを振り返った快斗に僕は頷く。

「うん。」

僕はそう言いながらその時の事を思い出して少しだけ目を細めた。

「一応ブリタニアからの留学・・・って名目だったけど。実際はルルーシュもナナリーも王位継承権を剥奪されて、その当時敵対関係にあり一触即発な緊張状態にあったこの日本に、ボディガードもつけずに二人だけでやってきたんだよ。大国の皇子と皇女なのに。」

「それってやっぱり・・・。」

呟いた快斗に僕は頷く。

「うん。人質・・・だよ。」

言い掛けて父さんが自分の野望の為に二人を利用しようとしていた事。

そして強引にナナリーとの結婚を進めようとしていた事を思い出して。

僕はさすがにそこから先は何も言えなくなり口を噤んだ。

「そっか。」

おそらく何かを悟ったらしい快斗が再び前を向いて歩き始める。

僕はそんな快斗の背中を見ながらもう一度顔を上げた。

 

「初めてルルーシュが枢木神社に来たあの日、僕はナナリーを背負って長い階段を上って来るルルーシュをただ上から嘲りをこめて見下ろしてたんだ。この程度でふらついてて、情けない、ブリタニア人てのは貧弱だなって。」

そう口にした僕は自嘲が入り混じる苦笑いを浮かべて、階段の先にある鳥居を見上げる。

「当時ブリタニアはその武力で他国を次々と侵略して植民地化してて。だからブリタニア人ていうのは心もない野蛮な人間なんだ・・・って、勝手に思い込んでた。それで、ルルーシュ達の事も父さんから『招かれざる客』って、そう聞かされていて。だから僕も勝手にそう思い込んでたんだ。何で来たんだ、早く帰ればいいのにって。」

そう言って顔を上げた僕を少しだけ振り返った快斗が息を吐いて言った。

「父親の言葉って、子どもにとっては絶対的なものだからな。」

快斗のその言葉に僕も頷く。

まさにその通りだと思った。

あの頃の僕にとっては父さんはそれこそ神様っていうくらい絶対的な存在で。

父さんが偉いから僕も偉いんだ・・・くらいに、たぶんそう思ってた。

実際町の中では枢木の名前を出せば皆絶対に言う事を聞いてたから、それが自分の力なんだと勘違いしていて。

それが本当のルルーシュを知る前の僕だったんだって事を改めて思い返す。

 

「でもね、それは違うって事を、ナナリーが教えてくれたんだ。」

「へぇ〜。」

そう言って少しだけ目を細めて微笑した僕に快斗が微笑む。

僕はその時の事を思いながら言った。

暗殺された王妃であった母親の代わりに必死にナナリーを守って来たルルーシュの事。

それは僕が勝手にブリタニア人て一括りにして、ルルーシュ本人を見ようともせずに勝手に抱いていたイメージを全部打ち破ってくれた。

「ゴメン・・・て、その日ルルーシュに言ったんだ。そしたら、ルルーシュが逆に驚いて戸惑ってて。」

そう話した僕に快斗がクスリと笑みを漏らす。

「あいつそういう不意打ちでこられるの苦手そうだもんな。」

「うん。」

その言葉に僕も笑みを返した。

「そうなんだ。ルルーシュって頭いいのに急な状況の変化に対応するの苦手でね。」

そう笑っていた僕だけど、いつの間にか、僕も快斗も階段を上りきって、神社の境内の前まで辿り着いていて。

 

それに気づいた瞬間、僕は心の中が急速に冷えていくのを感じていた。

『ナナリーを助けて欲しい。』

そう言われて。

ゼロであるルルーシュとラウンズであった僕が再びこの場で会う事を決意したあの日の事。

そして、あと一歩というところで手を取り合う事が出来たはずの僕達が再び別たれ、その数時間後僕は・・・。

「スザク・・・?」

改めて思い出して顔を伏せた僕に快斗が呼びかける。

僕はそれに気づいていて。

それでも顔を上げる事は出来なかった。

 

あの瞬間、僕が奪った何千万の命。

それを思うと、僕はやはりルルーシュもユフィーもいない。

素顔を見せる事すら出来ない孤独な世界で。

それでもやっぱり歩き続けていかなきゃいけないんだって。

そう思った。

 

それが奪った命に対する償い。

僕の贖罪なんだって。

改めて心から、そう思ったから。