「大体40分くらいで着くと思うよ。」
僕の隣に座った快斗が窓側に座る僕にそう言って笑った。
「うん、ありがとう。」
駅のホームを出ると、その新幹線という乗り物が少しずつスピードを上げ始めていた。
「快斗・・・。」
その少しずつ変化していく走行音に掻き消されそうな程小さな声で、僕は快斗に呼び掛ける。
「何?」
笑顔のまま顔を上げた快斗に僕は少しだけ首を傾げてその目の前の瞳を見つめる。
「何も聞かないの?」
問い掛けた僕に快斗が何も言わずに切なげに目を細めた。
「明らかに不自然でしょ?今の僕・・・。」
そう口にした僕に快斗はフッと軽く息を吐くと微笑を浮かべて言った。
「言っただろ?辛い時は辛いって言えばいいし、泣きたい時は泣けばいい。でも、それを口にするのすらも苦しいんだったら、何にも言わなくてもいいから・・・って。」
「快斗・・・。」
「何かあったんだろ?すっげぇ辛い事。」
僕はその言葉に何も言えないまま目を見開く。
「たぶん、あいつのことで。」
そうあえて、快斗は名前は出さずに。
それでも僕にはわかるようにそう言うと、少しだけ間をおいて。
それから前を向いたまま静かな口調で話し始めた。
「言っただろ?オレの部屋の地下室にスザクがいるのを見つけたって。それで、とりあえずスザクを部屋に運んで青子に様子を見てもらってたんだけど、その間にオレはもう一度地下室に戻ってずっと探してたんだ。もしかしたらあいつがどこかにいるんじゃないかって。」
「快斗・・・。」
呼び掛けた僕に快斗が微かに顔を伏せる。
「だけどやっぱりいなくて。それで、他にも家の中のいたる所探してみたけど見つからなくて。それで青子からお前が目を覚ましたって呼ばれて。それでお前のところにいってあえてお前に聞いてみたんだ。『ひとり?』って。そうしたらお前は迷う事なく頷いた。すっげぇ悲しそうな顔して。」
そう言われた僕は目を閉じるとそのまま顔を伏せて頷く。
ルルーシュがいない。
それは今の僕にとっては当たり前の事実。
だって、そのルルーシュを殺したのは僕なのだから。
そんな僕を横目で切なげに見やって快斗が言った。
「前に言ってただろ?スザクにとってあいつは初めての大切な友達で。あいつにとってもそうなんだって。あいつ言ってたからさ・・・。だから、そんなあいつがいない状況でスザクが平気なはずがない・・・って思ったから。」
その言葉に僕は唇を強く引いて頷く。
胸の奥から強くこみ上げてくるモノが苦しくて必死に堪えながら掌を強く握り締めた。
「スザク・・・。」
少し躊躇いがちに呼び掛けてきた快斗の声に僕は顔を上げる。
「快斗?」
「オレ、お前に話してない事があるんだ。」
そう言って快斗が真剣な表情を僕に向ける。
「話して、ないこと?」
「ああ。正確には、話そうと思ってて。時間ギリギリでタイムアウトになってオレ達はこっちの世界に戻されちまった・・・んだけど。」
快斗はそう言うと、自分を落ち着かせるみたいに軽く息を吐いて言った。
「オレ達、気づいてたんだ。あいつの正体。」
「えっ・・・?」
「あいつがテロリストのリーダー、ゼロだったって事。それから、あいつがブリタニアの皇子だったって事。」
僕は予想外のその言葉に大きく目を見開いて快斗の顔を凝視した。
「なん・・・で?本当に?」
信じられない思いでたずねた僕に快斗が頷く。
「ああ。」
快斗はそう応えると全部話してくれた。
ルルーシュが快斗達に僕達の世界の真実を告げたあの時。
僕がいなくなった後でルルーシュと二人きりになったコナン君に記憶の欠乏という異変が起きた事。
その事を不審に思った快斗はその謎を探る為にルルーシュの事を調べ始めた事。
そして、快斗が図書館で出会ったという謎の男とのやり取りや、コナン君が見つけ出した新聞記事などから情報を得て。
そうしてすべての謎を解いた快斗達が最後にあのルルーシュを追い詰める形で本人から真実を聞き出した・・・という事も。
「そうだったんだ・・・。」
呟いた僕に快斗が頷く。
「ギアスによる記憶の欠乏。まさか快斗がその事を知ってるとは思わなかったよ。」
そう口にした僕に快斗がもう一度頷く。
「明らかにあの時の名探偵は不自然だったから。謎を謎とも思わずぼんやりとして視線を彷徨わせててさ。ぜってぇありえねぇんだ、そんな事。」
悔しそうにそう言って唇を噛み締めた快斗に僕は頷く。
「ギアスは人の意思を捻じ曲げる。そういう力だから。」
僕はそう言いながら心の中でユフィ―の事を思い出していた。
ユフィ―があの胸に抱いていたはずの、あのとても純粋で清らかな強い信念。
それすらもその力ですべて捻じ曲げられ踏み躙られた。
そして、虐殺皇女と呼ばれる事になったユフィ―。
その名前はルルーシュの目論見通り魔王ルルーシュの名前の裏に今は霞み始めてはいたけれど。
それでも消える事はなくて。
そんな抗い様のない絶対遵守の力。
それがルルーシュが持っていたギアスの力。
絶対に誰もその命令には逆らえない。
「快斗。」
「うん?」
ユフィ―の事を思う時、僕はやっぱりルルーシュに対して今でも強い愛着や悲哀と同時に消し去り切れない憎悪も確かに感じている。
そんな相反するものが僕の中には常に存在している。
その事を改めて思い出して。
顔を伏せたまま呼び掛けた僕に快斗が顔を上げた。
「ゴメン・・・、そこに、いてくれる?」
本当に。
掠れそうな声で口にした僕に快斗が頷く。
「わかった。」
そう瞼を伏せて微笑する快斗に僕は顔を伏せたまま、ただ「ありがとう。」と言った。
そうして、新幹線が到着するまでの間ずっと快斗は何も言わずに、僕の隣にいてくれて。
ただそれだけの事が何よりも。
今の僕にとっては、嬉しかったんだ。