『スザク、スザク。』

僕の心の中に響く声。

『早く起きろよ、時間だろ?』

呆れたようにそう笑って。

『まったく、お前はいつまでたっても。』

溜息をついて。

 

そんな君に手を伸ばそうとして。

この手は空を掴んで。

その手を握り締める。

その繰り返し。

 

そうやって、何度も目覚めて。

その度に思い知らされる。

君がこの世界にもういない事。

そして、そんな君の命を奪ったのが、他の誰でもない。

僕なんだって事。

 

そうして砕けたカケラを胸の中で抱き締めるみたいにして。

僕は生きてる。

 

そして、今も。

 

「ルルーシュ・・・。」

そう呟いて、手を伸ばした。

その時だった。

 

いつも通り、空を掴むはずだった指先がふと柔らかい感触に包み込まれる。

「えっ・・・?」

「スザク・・・君?」

名前を呼ばれた。

その事実に僕はゆっくりと目を開いた。

 

目の前にあるのは、心配そうに僕を覗き込んでくる大きな瞳。

少し幼くて、ふわふわした髪をしてて。

でも、僕は彼女を知ってる。

たった一度しか会った事がないけど。

ずいぶん前に、ルルーシュと二人で異世界に飛ばされる、奇妙な体験をした。

それはまだ僕らが何も知らなかった頃。

 

ルルーシュがゼロである事も。

ルルーシュも、僕がランスロットのパイロットである事を知らずにただ、夢みたいな再会を喜んで。

そうして、生徒会のみんなと一緒に幸せな時を積み重ねていた。

そんな時間の中での出来事。

 

そしてその時に僕が出会ったのが・・・。

 

「快斗ーーー!!スザク君起きたよ!!」

「わかった!!」

少し離れた場所から聞こえてくるその声に、僕は今度こそ大きく目を見開く。

 

「かい・・と・・・?」

次の瞬間、僕のすぐ隣に腰をおろして覗き込んでくるその顔を見て、僕は瞬きも出来ないまま呆然として呼び掛けていた。

「スザク、起きたか?体、調子悪いとこないか?」

心配そうにたずねてくるその顔を見ながら僕は首を横に振る。

それを見て、目の前の快斗が深く息を吐き出す。

「よかった・・・。」

「快斗・・・。」

「地下室でなんかドンって凄い音がしてさ、見に行ったらスザクがいたからすっげぇ驚いて。とりあえずオレのベッドで寝かせてたんだけど。」

そう言ってほっと息を吐きながら笑う快斗に僕は頷くと、快斗の隣で僕を見つめている彼女に視線を向けた。

 

「青子・・・。」

「スザク君、痛いとこなあい?大丈夫?」

「痛い・・・とこ。」

そう聞かれて、僕は咄嗟に思わず自分の胸のあたりを掴んだ。

そんな僕を少しだけ目を細めて横目で見つめてから快斗が顔を上げて言った。

「青子、スザクになんかメシ作ってやって。」

そう言われて青子が立ち上がると笑顔で頷く。

「うん、わかった。ちょっと待っててね。」

青子はそう応えると、笑顔で僕に笑いかけてから部屋を出て行く。

そうして青子が部屋を出て行って、その扉が開くのを見つめていた僕に快斗が柔らかい表情で笑いかける。

 

「久しぶり。」

そう言って笑う快斗に僕も自然と引き出された笑顔で応えていた。

「うん、快斗。ここは・・・?」

「オレの部屋。」

「そっか。」

そう答えた僕は、またあの時と同じ様に異世界に飛ばされたらしい・・・と自分の中で理解する。

それと同時に、以前この場所に来た時には一緒にいたはずの存在を思い出して、少しだけ顔を伏せた。

 

「ひとり?」

問い掛けてきた快斗に僕は顔を伏せたまま頷く。

「うん。」

「そっか。」

短く答えた僕に快斗が先ほどと同じように、切なげに目を細める。

「うん。」

答えた僕が顔を上げた視線の先、棚の上に飾られたあるモノを見つけて僕は目を大きく開いた。

 

「あれ・・・。」

声をもらした僕の視線の先にあるものに気づいて快斗が微笑む。

「ああ・・・。」

そう言うと、快斗は立ち上がり。

それを手に取るととても大事そうに掌の上にのせて僕の前に差し出した。

「ナナリーからもらったんだ。」

そう言って笑う快斗は、とても優しい顔で微笑んでいて。

きっとナナリーの事を思い出しているんだろうと思った。

「そうなんだ・・・。」

「うん。」

そう言うと、快斗はベッドサイドに置いてあるスタンドの横にそれをおいてから、もう一度何も言わずに僕を見つめた。

そんな快斗を僕はやっぱり何も言わずに見つめ返して。

 

そのうちに青子がおまたせ・・・って明るい声で笑って食事を持ってきてくれた。

肉じゃがにご飯とお味噌汁。

ブリタニアに占領されていた僕の世界では目にする事のなかったそういう料理に、僕はほっと息を吐くと顔を上げて言った。

「青子、ありがとう。」

「どういたしまして。お口に合うといいけど。青子あんまり上手じゃないから。」

そう言って笑う青子に僕は首を横に振る。

「いただきます。」

僕はそう言うと、お箸を手に取り食べ始めた。

 

ずっと食欲がなくて本当に適当に済ませていたので、こういうちゃんとした料理を食べるのは本当に久しぶりだった。

そんな僕を見ていた快斗が顔を上げて青子に言った。

「青子、サンキュー。スザクがメシ食い終わったら、ちょっと出かけてくるよ。」

そう言って笑う快斗に青子が頷く。

「うん、いってらっしゃい。それじゃお皿は下に下げといてね。あとで片づけておくから。」

青子はそう言うと僕に「またあとでね。」と手を振って部屋を出ていった。

 

程なくして食事を終えた僕に快斗が言った。

「それじゃ、スザク。これに着替えて。」

オレので悪いけど・・・と苦笑して手渡された着替えを受け取り、僕は頷く。

「着替えたら下に来て。ちょっと出掛けようぜ。」

そう言って笑う快斗にもう一度頷いた僕を、やっぱり快斗が切なげに目を細めて微笑む。

僕はそんな快斗にぎこちなく笑みを返した。

 

そうして部屋を出ていった快斗の足音を聞きながら着替えを始めて。

僕はやっぱり頭に浮かんでくる顔を思って呟いていた。

「ルルーシュ、どうして君がいないんだろう?」

何千回と繰り返してきたその問いに答えてくれる人は誰もいなくて。

僕は俯いて唇を噛みしめる。

 

それでも、快斗が待っている。

そう思った僕はなんとか心を前に押し出して着替えを終えると部屋を出て階段を降りていった。

「それじゃ、行こうぜ。」

そう言って笑う快斗が開いた扉を抜けて外に出ると、僕はその場で立ち止まる。

 

「スザク?」

空を仰いで思わず大きく息を吸い込んだ僕に快斗が呼び掛ける。

 

あの日からずっと、部屋から一歩でも出る時は必ずゼロの仮面をしていたから、素顔のままの僕で陽の光を直接浴びるのは本当に久しぶりだった。

「いい天気だね。」

晴れ渡った空を見上げてそう口にした僕に快斗が頷く。

「ホントに。」

そう微笑した快斗に僕はやっと、小さく笑みを返していた。

 

「それじゃ、行こうぜ。」

そう言って歩き始めた快斗に頷いて僕も一緒に歩き始めたんだ。