「お帰りなさい、金田一君。」
そうにこやかに笑い、沖縄県警本部のヘリポートに着陸したヘリを一番に出迎えた人物に気づいて一が目を大きく開いた。
「明智さん。」
「お待ちしてましたよ。彼の身柄はすぐにこちらで預かります。」
そう言って後ろを振り返り目くばせした明智の合図で、重装備の警官隊が数人そのままヘリへと乗り込んでいく。
「彼はマジシャンですよ。絶対に大丈夫な状態だと思っても油断禁物です。最大限の警戒を怠らないでください。」
後ろから声を掛けた明智に警官隊のリーダーが了解の声を上げる。
「警視。指名手配犯高遠遙一確保しました。」
「ご苦労様です。時間を再確認して記録の上でそのまま連行してください。くれぐれも油断のない様に。ここにいる全員に徹底させてください。」
「了解しました。」
そう言って縄の上から更にワイヤーで巻かれて熟睡している高遠を数人の警官隊が抱え上げてヘリから運び出していく。
そうして沖縄県警本部に運び込まれていく高遠を明智と一は唇を強く引いたまま何も言わずに見つめる。
それからしばらくして明智のつけているインカムが鳴った。
『警視、留置所への収容完了しました。』
「ご苦労様です。必ず二人以上で常時監視を行い、少しでも不審な動きがあれば私に報告する様に。いいですね。」
『了解しました。』
明智はその報告に一息つくと、目の前の一へと視線を向けた。
「彼の収容が確認出来ました。彼は私が責任をもって警視庁へと連れて帰ります。」
「大丈夫かよ?実はそのインカムの報告自体が高遠だったりして・・・とかってあり得なくもないぜ。」
訝し気に視線を向ける一に明智がフッと息を吐いて自分の手元にあるタブレットを差し出す。
「その心配はありませんよ。彼の行動は常に数台のカメラで撮影されて県警本部のセキュリティルームと私のこのタブレットに常時画像が送信されています。」
そう言って渡されたタブレットを受け取り口許に人差し指をあてて思考を巡らせる。
「疑い深いですね。」
「当然だろ?相手はあの高遠だぜ?」
一はそう言うと、ドアが開いたままになっているヘリに歩み寄り中を覗き込んだ。
「黒羽。」
呼び掛けた声に快斗が運転席から立ち上がると、同時にすぐそばに控えていたコナンがひょっこりと顔を出した。
「ようやくお会い出来ましたね。江戸川コナン君。そして、黒羽快斗君。」
呼び掛けた明智にコナンと快斗が顔を見合わせる。
一は明智のその声は無視して、快斗の目の前にタブレットを差し出す。
「これなんだけど・・・どう思う?」
たずねた一に快斗はいくつかそのタブレット上で操作を行うと、それをそのままコナンへと差し出し言った。
「デジタル画像はいくらでも加工出来るから。やろうと思えばいくらでもやりようがあるし。」
「そうだな。見張りも二人程度じゃすぐに眠らされちまうだろ。しかも相手はあの高遠だ。最悪・・・。」
呟いたコナンに一が頷く。
「やっぱそうだよな。」
そう呟くと一はタブレットを明智へと戻して言った。
「明智さん、聞いた通りだ。見張りには剣持のおっさんとそれから最低5人以上、明智さんがもっとも信頼出来る人をおいてくれ。それ以外は極力あいつには近づけない様に。うろついている人間が多いとその分高遠は動きやすくなる。そうだよな、黒羽。」
同意を求めた一に快斗が頷く。
「ああ。それからセキュリティルームも外部からのハッキングがないか常時チェックを。ネットワーク上からアクセスして画像を書き換える事はいくらでも出来ちまうから。」
明智は淡々とした口調で告げた快斗をしばらく見つめた後で、微笑を浮かべて言った。
「わかりました。君の言う通りにしましょう。」
明智はそう言うと、わずかに目許を細めて快斗へと視線を向ける。
「専門家の意見は最大限尊重しなければいけませんからね。」
そう言って微笑する明智に快斗が唇を強く引いてその視線を受け止める。
「明智さん。」
「そうは思いませんか?平成のホームズ君。」
一の声を無視して明智はそうコナンに呼び掛けた。
「お会い出来て光栄です。お噂はかねがね。」
そう言って明智は片膝をついてコナンに視線を合わせる。
「君のお父上の作品は闇の男爵(ナイトバロン)シリーズはをはじめすべて読ませていただいてますよ。ロスにいた頃から僕は彼の大ファンなんです。そして・・・黒羽快斗君。」
「はい。」
顔を上げて呼び掛けた明智に快斗が表情を変えずに冷静に応える。
「君のお父上、世界的マジシャン黒羽盗一は高遠遙一の実の母親である近宮怜子と並び称された天才マジシャンで東洋の魔術師と謳われた方ですね。」
「はい。」
問い掛けたその声に頷いた快斗に明智が微笑を浮かべる。
「私は君のお父上のショーをロスで拝見した事があります。非常に華があり、かつ緻密で大胆で。見ている者を文字通り夢の世界へと誘ってくれる素晴らしいマジシャンでした。」
そう父を評した明智に快斗が少しだけ目許を緩めて頷く。
「確か・・・8年前に日本国内の遊戯施設で脱出マジック中の事故で亡くなったはず。違いましたか?」
「その通りです。」
頷いた快斗に明智が目を細めて視線を向ける。
「確か、ご遺体は見つからなかったはず。」
「はい。」
「お父上はもしかしてご存命なのでは?」
矢継ぎ早にそう問い掛けた明智に快斗が再び表情を険しくする。
「現場の状況などを元に考察した私の推測に基づけば・・・ですが。」
「明智さん!!」
すかさず声を上げた一に明智が微笑を浮かべた。
「どうやら・・・私の考察通りの様ですね。」
何も答えない快斗を見て明智はそう笑うと、再び一の方を向いて言った。
「金田一君。ご存知の様に私は非常に知的好奇心が強いので謎はすべて読み解きたいと考える、私の性格上そういう嗜好に偏りがある事は否定しませんが、その謎をむやみやたらに暴き立てて公表しようなどと考える程無遠慮で礼を欠いた愚かな人間ではありませんよ。」
「そうだっけか?」
「もちろんです。」
訝し気な視線を向けた一に明智は頷くと、もう一度コナンと快斗を交互に見つめて言った。
「江戸川コナン君。そして黒羽快斗君。今回は指名手配犯高遠遙一の逮捕に協力くださりありがとうございました。君達の意見を参考にした上で早急に配備を進め近日中に万全の態勢で彼を本庁へと移送を行います。」
かしこまった口調でそう告げると、明智はにこやかに微笑んで言った。
「ぜひまた、お会い出来るのを楽しみにしていますよ。」
「明智さん・・・。」
呼び掛けた一に明智が微笑を浮かべる。
「言ったはずですよ、金田一君。私は君の友人に会いに来ただけだと。」
そう言って踵を返した明智が思い出した様に「そうでした。」と言ってその場で立ち止まると、後ろにいる快斗を振り返って言った。
「黒羽快斗君。」
「はい。」
呼び掛けたその声に快斗が顔を上げる。
「君がマジシャンとしてデビューした暁には、そのファーストステージにぜひ私をご招待いただきたいのですが。」
そう笑い掛けた明智に快斗が目を見開く。
「それは・・・。」
「深読みはしないでいただきたいのですが。偉大なお父上の技を受け継がれてるだろう君のマジックを間近に見てみたい・・・という、これは私個人の知的欲求から端を発したごく私的なお願いに過ぎませんから。」
明智はそう言ってから再び前を振り返りつつ言った。
「まあそもそも、もし君がお父上同様マジシャンの道を志すのであれば・・・ですがね。」
そう微笑む明智に快斗がフッと口許を引き上げて笑う。
「親父同様・・・じゃないですよ。」
快斗はそう言うと明智をまっすぐ見据えてハッキリと宣言した。
「親父を越えるマジシャンになります。」
その答えに何も言わずに明智が口許に微笑を浮かべる。
「明智警視。必ずご招待します。ぜひ・・・来てください。」
「楽しみにしていますよ。」
明智はそう応えると今度こそ屋上のヘリポートから県警本部へと続く重たい鋼鉄の扉を開いて中に入っていった。
その後姿を見送ってから一が深く息を吐き出して快斗とコナンへを視線を向ける。
「すっげぇ~緊張した。初めて明智さんに緊張した。」
そう言ってもう一度深く溜息を吐いた一にコナンと快斗が顔を見合わせて苦笑する。
「なんでお前が緊張するんだよ。」
「そうだよ。」
笑いながら応える二人に一も苦笑を浮かべる。
「だって、あの明智さんだぜ。さすがにあの明智さんがお前らの事を公表するって言ったら俺にだってどうする事も出来ねぇし。」
「確かに。でも・・・。」
「噂以上の人だな。」
そう言って顔を上げたコナンに快斗が頷く。
「オレ達の考えを全て先回りして手配を進めてたって事だろ?その判断がなかったら、警部も他のみんなも確実に助からなかった。」
そう口にした快斗にコナンが頷く。
「そうだな。それに俺達の事も全部見通してた・・・ってんだから。」
「まあ・・・それについては否定しないけどさ。問題はあの性格だよ、性格。恩着せがましいっていうか。わざとらしいっていうか。イヤミったらしいっていうか。あ~、やだやだ。」
そう言って深い溜息を吐き出す一にコナンと快斗が顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「それより、高遠・・・大丈夫かな?」
「なんかあっさり行き過ぎてる気がして・・・すげぇ気になるんだけど。」
そう呟いた快斗にコナンが頷く。
「言われてみれば確かに・・・。」
腕を組んで頷いた一に快斗が言った。
「例えばさ・・・。あいつにとってオレ達三人に囲まれてるあのヘリの中から脱出するのと、移送時に数十人ついて回る警官から脱出するのと。どっちが楽なのかな?」
快斗が口にしたその言葉にコナンと一が大きく目を見開いて顔を見合わせる。
「お前・・・!!」
「いい事言った!!黒羽!!」
そう大きく声を上げた一に快斗が「へっ・・・!?」と声を漏らす。
「やっとこの違和感の謎が解けたぜ。」
そう言って微笑するコナンに一が頷く。
「ああ。どうりであのヤロー、あっさり俺達の作戦に引っ掛かってくれたってわけだ。」
「ていう事は・・・。どうやらまだこのまますんなりとは帰れないみてぇだな。」
軽く息を吐いて呟いた快斗にコナンと一が頷く。
「それじゃ・・・。」
一はそう言ってすかさずスマホを取り出して電話帳から呼び出した番号をコールする。
「明智さん、俺だけど。高遠の事なんだけど。」
そう言って手短に用件を伝えた一は終話ボタンを押すと顔を上げて言った。
「行こう。オッサンと明智さんが下で待ってる。」
そう言って歩き始めた一にコナンと快斗が顔を見合わせる。
「オレ・・・行っていいのか?」
一応ただの一般人だけど・・・と。
呟いた快斗にコナンが微笑して応える。
「バーロ。お前のマジシャンとしての知恵が必要なんだろ?」
「マジシャンとしての・・・か?」
「ああ。奇術師高遠の知恵を先読み出来るのは奇術師のお前だけだろ?だから。」
そう言って笑うコナンに快斗が真剣な表情で深く頷く。
「そっか。そういう事なら・・・。」
前を見据えて歩き出した快斗の隣でコナンはわずかに目を細めて笑みを浮かべていた。