「青子。」

快斗が呼び掛ける声に青子が顔を上げる。

「これからきっと・・・今まで以上に大変な事があると思う。」

快斗は改めてこれからの組織との闘いを思いながら青子を見つめた。

「だけど、必ず青子を守るから・・・。だから、そばにいて欲しい。」
そう言って快斗が差し出した掌を青子が迷わず取って強く握り締める。

その繋がれた指先に笑みを零すと、快斗は青子の手を引き寄せて腕の中に抱き締めた。
「愛してる、青子。」

耳元で囁かれたその声に青子は瞳を潤ませて頷くと快斗の首筋に腕を回して頬を寄せた。

快斗はそんな青子を抱き締める腕に力を込めて口づけをする。

 

そうして青子を腕の中に閉じ込めて、青子の存在を確かめる様に想いの向うまま唇を重ねた。

青子の背中に手を伸ばして抱き締めながら想いが胸の裡から溢れ出していくのを感じて、その口づけも徐々に青子の熱を求めて深みを増していく。
青子の細い背中を折れそうなくらいに強く抱き締めて、それでも止める事が出来ない強い想いに快斗は戸惑いを覚えた。

「青子・・・、ゴメン・・・。」
抑えきれない想いに快斗が俯き顔を伏せたまま呟く。
 

青子の全てに触れたい。
青子の全てを感じたい。

そう、思った。

離れていた時間の代償を求めるかの様な熱い想いの塊が自分の中にあって。

その自分自身でも制御しきれないほどの自らの裡で溢れる衝動を抑える事も出来なくて。

それでも、同時にそんな自分の想いが青子を傷つけてしまうかもしれないという恐怖も強く感じていた。

快斗はゆっくりと顔を上げると、目の前の青子の瞳をまっすぐ見つめて。

そうして、自分勝手なくらいの自分の我が儘を。

心からの想いをそのまま青子に伝えた。
 

青子には。
青子だからこそ、すべてを伝えていたい。

そんなありのままの自分のすべてを受け止めて欲しいと願うから。

青子は快斗の言葉を目を逸らす事なく受け止めると、柔らかく微笑んで応えた。
「愛してるよ、快斗。」
その言葉に青子の想いの全てが込められているのを感じて、快斗は微かに瞳を揺らしながら目を細める。
「こわく・・・ないか?」
強く抱き締めたまま問い掛ける快斗に青子は首を横に振ると、快斗の胸に頬を寄せて言った。
「大丈夫。快斗がいるから・・・。」
その言葉とは裏腹に、快斗の胸を掴んでいた青子の手は震えていて。

快斗は青子に顔を寄せて触れるだけの口づけをした。


こわくないはずがない。

どれほどの痛みを伴うのか?想像もつかない。

今すぐここで自分を抑える事が出来れば・・・。

快斗は心からそう思った。

だけど、それでも。

走り出してしまった自分の想いに嘘はつけなくて、快斗は青子に手を伸ばして言った。

「オレは・・・こわいよ。」
呟かれた言葉に青子が潤んだままの瞳で顔を上げる。
「ゴメン・・・青子。」
そう掠れる程の声で囁くと、快斗は青子の腰を強く抱き寄せた。

「大丈夫だよ、快斗・・・。」
そう言って微笑み掛ける青子の言葉に顔を上げて頷くと、快斗はそのまま何も言わずにもう一度唇を重ねた。

柔らかな頬に。
細い首筋に。
顔を埋める様にして、口づけを落としていく。

「青子・・・。」
何度も何度も名前を呼びながら、青子の柔らかい肌に指を滑らせた。


そうしてふたりでベッドの上で体を重ねたまま過ぎていく時間はとても穏やかで。
いつしか青子の瞳に涙が浮かんでいた。
それでも、想いは溢れるばかりでとどまる事を知らなくて。

その事を重ねた唇から。
その体から。
快斗は青子にありのままの自分で想いのすべてを伝えていった。

それからしばらくして、快斗はゆっくりと目を開いた。
既にカーテンの隙間に覗いていたはずの月は影を潜めて、東の空が薄っすらと赤く染まり始めている。
「眠って・・・たのか??」

快斗は自分自身に信じられない・・・という想いで思わず呟いていた。
ずっと眠ろうと思っても眠れない状態が続いていた。
それが自分でも気づかないうちに深い眠りに落ちていたのだから。
 快斗は隣で眠る青子に手を伸ばして、その柔らかい髪を梳く様に撫でて微笑む。
「青子のお陰だよ。」

そうして眠っている青子の頬に軽く口づけを落としてから青子の肌掛けを肩まで引き上げると、快斗は体を起こして身支度を整えていった。
そんな快斗に気づいた青子がゆっくりと瞼を上げて目の前にいる快斗に目を細める。
「快斗・・・。」
青子が快斗の名前を呼ぶとその声に快斗は振り向いて穏やかに微笑んだ。
「おはよう、青子。」
そう・・・ごく当たり前の、何気ない言葉を青子に伝えられる。
それが本当に、とても幸せな事だと心から思った。

それから快斗はカーテンの隙間から覗く朝やけを見つめてひとり言の様に呟く。
「長い夜だったな・・・。」
青子はその声を聞きながら何も言わずに快斗の背中を見つめていた。

あの日、快斗がいなくなってから今日戻って来るまでの時間。
それはきっと快斗にとっても青子にとっても、明ける事のない長い夜そのもので。

そんな長い夜を越えて、やっと辿り着いた今という時間。

それがどんなに困難な状況であっても、やっぱり幸せだと思った。

 

「絶対に・・・負けられねぇからな。」

そう言って青子を見つめて笑いかける快斗に、青子も笑顔で頷く。

 

これから先何があっても。

どんな辛い事が待ち受けていても。

 

そこから先へ、また一歩前へ踏み出していく為に。

強い想いが、今日を変えて、明日を変える。
そして、必ず未来も変えていく。
そう強く信じているから。

そうして、今。

ここから動き出す。

《あとがき》

加筆修正・・・どころか最初から最後まで全開でリメイクしてなんとか書き上げる事が出来ました。

最終話はpixiv公開時に若干も少し濃い目に修正するかもしれません。

その時はまたお知らせさせていただきたいと思います。

最後までお読みくださりありがとうございました!!