「快斗!!聞いてよ~~!!」
いつも通りオレの机をドンッと力任せに叩いて青子が身を乗り出してきた。
いつもなら「キッドがまたー!!」と始まるのだが、今日青子が叫びたい事はそうでは無い事をオレは知っている。

「ハイハイ・・・。ルパン三世だろ?」
オレが溜息混じりに青子の顔を見上げて口にすると、青子は更に顔を近づけて大きく頷く。
ハッキリ言って近づき過ぎ。
今なら唇が触れても『青子が顔を寄せ過ぎるからだ!!アクシデントだ!!』とごまかせるだろうか?と心の中で一瞬だけ考えながら目の前の青子を見つめる。
そんなオレの考えなど全く気づくはずもない青子はもう一度机をドンッと叩いて更に大きな声で叫んだ。
「そうだよーーーっ!!何なの?ルパン三世って!?」
青子の問いかけにもう一度溜息をつきながらオレはタブレットのロックを解除して、今まで睨む様にして眺めていた画面に視線を落とす。
「ルパン三世っていうのは、世界を股に掛ける大泥棒で、初めて出てきたのが・・・・。」
親切に説明してやろうとしたオレの言葉を途中で遮って青子が言った。

「そうじゃなくてっ!!!何でその泥棒のせいでお父さんがエライ人に怒られて謹慎しなきゃいけないわけっ??」
「ああ・・・、そっちね。」
オレはそう言いながらもう何度目になるかわからない溜息をハァーーッと吐き出して苛立たし気に人差し指でタブレットをコツコツ叩いた。
文句を言ってやりたいたいのはこっちの方だ・・・と心の中で呟きながら。

「相手がキッドだってルパンだってあのヘボ警部じゃ結果は変わらねーだろ?」
「何か言ったぁーーーーっ!?」
そう言ってブチ切れた青子がオレの頬を両側から力一杯引っ張る。
「イテテテッ・・・。何すんだよ!!」
「何よ!!快斗がお父さんの事またヘボ警部とか言うから!!」
「しゃーねーだろっ!?ホントの事なんだから。」
言い返したオレに青子が再び顔を赤くして力一杯めいいっぱい両頬を引っ張り抓りあげて、数秒間そのままにしてからやっとの事で手を離す。
「いってぇーーっ!!」
「自業自得っ!!」
青子がそう言ってフンッと効果音がつきそうな勢いで顔を逸らして唇を尖らせる。

昨晩の作戦で月島がメチャクチャになった責任を負って警部が謹慎処分になったのは、警部に仕掛けておいた盗聴機で聞いていたので知っている。
それもこれも、あのルパン三世とかいう泥棒のせいだ。

キッドの名前で予告状を出して月島の博物館に展示されていたダイヤを盗み、逃走中に警官に銃で発砲しやがった。
盗みに入ったのがオレだと信じて疑わなかった警部は、キッド発砲の通信が入るなり放心状態で、そのままヤツは月島川を屋形船を使って逃走したらしい。
しかも、そのオレに変装した泥棒をあの小さい探偵が意気揚々と追っかけていったとか。
偽物か本物かくらい見りゃわかるだろっ!!とあいつに言ってやりたい。

とにかくそうして散々好き放題にやられて大人しくしてられるほど、オレは人間出来てねーんだ。

「ぜってぇ許せねーよな。」
頬杖をついて、窓の外に視線を向けたまま呟いたオレに青子が大きく目を開くと「うんうん!!そうだよね!!」と頷く。
(いや・・・、警部の事はどうでもいいんだけど。)
とはまさか言えないのでそこは黙っとく。

「やられた分はきっちり返さねーと。」
そう言ってフッと口許で微かに笑みを浮かべる。
青子には気づかれない様に。

「そうだよ!!青子も絶対いつかあの泥棒見つけ出して、お父さんに謝らせてやるんだから!!」
そう意気揚々と力強く宣言する青子を見ながら苦笑をもらす。
(オメーに見つけられたら警察もFBIもインターポールもいらねーよ。)
「それで、その泥棒に青子がお仕置きしてやるんだから!!」
「ヘイヘイ、頑張れよ。」
オレは笑いながらそう言って青子の顔を見上げた。

その数日後、オレは大阪までわざわざ出張してヤツが狙っていた宝石を先に奪いキッチリ仕返ししてやる事で一応腹の虫をおさめた。
そして、しばらく時間が経ってから、青子がまさか本当にその泥棒にお仕置きをする事になる・・・というのは、また別の話。