向日葵の宝箱

向日葵の宝箱

まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
よろしくお願いします。

「青子姉ちゃんに渡したい物があるんだ。」
探偵事務所の手前にある公園に到着すると、名探偵は雨宿りが出来る様に屋根付きになっているベンチにオレと青子を座らせた。
そして名探偵は青子の前に立って後ろ手に何かを持ちながらニコニコと顔を上げた。

「青子に?」
「うん。」
不思議そうに小首を傾げた青子に名探偵は微笑して頷く。
「僕から青子姉ちゃんにプレゼント。」
「わぁ!!何だろう?」
そう嬉しそうな顔をする青子に名探偵が笑顔で差し出したそれを見てオレは大きく目を開いた。

「名探偵。それって・・・。」
先に気づいたオレに名探偵が頷く。
「ああ。探偵バッジだよ。」
応えると名探偵は再び青子の顔を見て話し始めた。

「これはね、裏側のチャンネルで周波数を合わせて、このボタンを押すと、バッジを持ってる人同士で会話が出来るんだよ。」
「ボタン・・・って、これかな?」
「うん。例えば、そうだな。ちょっと借りるね。」
名探偵はそう言いながら青子に渡した探偵バッジを一度自分の手に戻すと後ろのダイヤルを回した。

「よし、オッケー。青子姉ちゃん、チャンネルを合わせたからこのボタンを押してみて。」
「うん。」
青子は自分の掌にのせた探偵バッジのボタンを指先で押した。
その瞬間、オレのポケットの中に入っていた探偵バッジが音を立てて鳴り始める。

「そうか、通信先をオレに合わせてたのか。」
「まあな。青子姉ちゃんの場合は他の誰よりお前宛てが多いだろうし。そうすると今ここで設定しとけばあとはいつでもボタンを押して使える状態になるからな。」
「なるほど。」
オレは応えると、ボタンを押して青子の呼び出しに応答する。

「はい、青子?」
同じ場所にいるからわかりづらいけど。
探偵バッジから聞こえてきたオレの声に青子が目を輝かせた。
「快斗の声がする!!」
「うん、まあ。通信機だからね。」
名探偵が軽く頭を掻きながら苦笑して言った。

「ありがとう、コナン君。」
「うん、どういたしまして。」
笑顔で応えると名探偵が再び話し始める。

「元々僕達探偵団が作ってたこれをベースにしてあるんだ。」
名探偵がそう言いながら自分の探偵バッジをポケットから取り出して青子に見せた。
青子は名探偵の手の中にあるそれを身を乗り出して覗き込む。

「博士に快斗兄ちゃんの分を先につくってもらって渡してあったんだけど。青子姉ちゃんにも必要でしょ?だからデザイン的には青子姉ちゃん達のはペアになる様にしてあるよ。」
そう話す名探偵の言う通り、青子の探偵バッジはオレのブルーのと色違いで同じデザインになっていて、青子に良く似合う可愛いピンクのクローバーが施されていた。

「うん。」
青子が手の中にあるそれをやわらかく両掌で包み込んで、大切そうに胸許にあてる
それを見た名探偵が目を細めた。
「僕や探偵団のみんなともチャンネルを合わせれば使えるし。快斗兄ちゃんと同じ衛星通信を使った発信機もついてるから、青子姉ちゃんがこの世界中のどこにいてもわかるようになってるよ。まあこれは、あくまでも念の為の機能・・・だけどね。」
そう説明した名探偵は指先をポケットに入れると、視線をオレに移して笑みを浮かべる。

「それで、オメーはなんかさっきからいろいろ考えてるみたいだけど。」
その言葉にオレはギクリとした。
まさに心の中をまるでマジックの様に言い当てられて、オレは息を吐くと苦笑するしかなかった。

「やっぱりバレてたか。」
「当然だろ?バレバレ、わかりやすすぎなんだよ。キッドのポーカーフェイスはどこにいったんだよ。」
そう言われるとオレは返す言葉もなく苦笑いで頬をかく。

「まあ、気持ちはわかるけど。俺だってこの状況で絶対に大丈夫とも言ってやれねぇけど。でもちゃんと考えてるから。」
名探偵はそう言うと微笑してオレを見つめる。

「トロピカルランドの件も、ちゃんと援軍を呼んであるしな。」
「援軍?」
「ああ。」
首を傾げたオレに名探偵が口許を上げる。

「とりあえず、お前は気にせず、青子姉ちゃんと一緒に全力で楽しめ。」
「名探偵・・・。」
「思い出つくるんだろ?青子姉ちゃんと、みんなと。」
その言葉に一瞬だけ目を大きく開くと、息を吐き笑顔で応える。
「ああ。」
「だったら、わかるよな?」
「もちろん。」
応えたオレに名探偵が笑みを浮かべる。

それからオレは、隣に座る青子の方を向いて言った。
「青子、青子も・・・。いつもごめん。」
「快斗・・・。」
呼び掛けた青子の膝に掌を重ねる。

「トロピカルランド、ずっと青子と行きたかった。だから、みんなと行って、楽しもう。」
「うん。」
応えた青子がわずかに瞳を潤ませる。

「それじゃ、大丈夫だな。」
「ああ。」
ほっと息を吐いた名探偵にオレは頷く。

「名探偵、ありがとな。」
「別に。大した事ねぇよ。」
名探偵が応えた。

その時。

「コナン君!!」
公園の入口に目をやると、傘を右手で持って手を振る蘭ちゃんがいた。
「蘭姉ちゃん。」
「コナン君、まだ帰ってなかったの?」
蘭ちゃんは溜息混じりに言うとゆっくりとオレ達の方に向かってくる。

「蘭ちゃん!!」
オレと青子は蘭ちゃんに手を振って呼び掛けた。
「黒羽君、青子ちゃん。一緒だったんだ。」
「うん、一緒に博士の家に行ってたんだけど。駅行くついでだし、送って来たんだ。」
「ありがとう、いつもゴメンね。」
そう言うと蘭ちゃんは中腰になり名探偵に視線を合わせる。

「コナン君、遅くなったらダメでしょ。」
「は~い。」
子どもらしく返事をすると、名探偵は顔を上げて一瞬だけオレに微笑して笑い掛けた。

「それじゃ、コナン君は私が連れて帰るから。黒羽君と青子ちゃんも気をつけて帰ってね。」
「サンキュー、蘭ちゃんも気をつけて。」
「うん、ありがとう。」
応えた蘭ちゃんが名探偵と並んで歩き始める。

「蘭ちゃん、コナン君、またね!!」
「じゃあな!!」
青子と二人で手を振ると、蘭ちゃんと名探偵が振り返り、傘の中で小さく手を振って笑みを返した。

そして、二人の背中が見えなくなったところでオレは青子と顔を見合わせる。
「帰ろうか?快斗。」
「ああ。」
応えたオレは傘を開くと、相変わらず雨が降り続く空を見上げた。

降り続く雨は変わらない。
だけど、この雨雲の更に上には陽の光があって。
そして、そこは広大な宇宙に繋がってる。

だから、同じ様に。

今、オレの心の中は不安な気持ちがいっぱいで。
その闇と重圧に負けそうになる時もあるけど。

いつか、きっと。
それを乗り越えられる時は来るんじゃないか・・・って。

オレはそう、思えたんだ。