手術前日に入院をした。

元同僚たちが、丁寧に

術前の説明をしてくれた。


不安がないといったら

嘘になるけど、この人たちが

いるなら安心だと思えた。


翌朝9時に手術室に向かった。

入口まで娘と和希が付き添ってくれた。


「頑張ってくるね。」

両手で二人の手を強く握った。

二人は私が見えなくなるまで

手を振ってくれた。



麻酔科医が私の口にマスクをあて、

そこから意識が遠のいていった。


麻酔導入後、不思議な体験をした。





霧の中を歩いていると、

とても眩しい光が見えた。




そこに向かう途中、誰かが私の手を

後方に強く引いた。

振り向くと、私が看護師になってから

初めて担当した、たくちゃんがいた。

細くて色白、目がくりっとして

可愛らしい、男の子

たくちゃん。


忘れるはずがない。


でも、たくちゃんは4歳で

天に帰っている。



あれ?私、もしかして…。

と感じた途端に、たくちゃんが

「まだ、やくそくまもって

ないからダメ。」

といって、すごい力で私の手を引いた。

力が強すぎて、私は転んでしまった。


「たくちゃん。」と振り返ると、

たくちゃんは、

「これからだよ。まだこれから。

きょうでよかったよ。ほんとに。

ぼくとは、また10ねんしたら

あえるから、それまでまってて。」


「え?」私の反応にたくちゃんは

ニコニコして手を振っている。

たくちゃんがだんだん遠くなる。


次の瞬間、ジェットコースターが

急降下する感覚があり、

目を覚ました。


気がつくと私はICUにいた。

酸素マスクが気になって仕方ない。

体のあちこちが痛くて、

モゾモゾしていると

医師たちが駆け寄ってきた。


「大丈夫?3日も意識戻らなかった

んだよ。手術中に出血すごくてさ、

一時はどうなるかと思ったよ。

本当良かった。」と外科医が

教えてくれた。


あ、たくちゃんはやっぱり、

私を戻してくれたんだ。

10年後…なのかな。

あれ?私の手術日は

6月24日。

たくちゃんの命日だ…。


たくちゃん、ありがとう。

そうだよね。あの日の約束、

まだ守れてないよね。

元気になったら、約束果たすよ。

10年もあるなら、

絶対できるから、

待っててね!