井上さんとお別れをしてから、

私は和希と一緒に過ごした

職場を辞めた。


だって一緒にいたら、

楽しかった時間を思い出して

しまうから。


和希からたまに連絡は来ていたけど、

会うことはなくなった。

連絡は元気?とか最近どう?とか、

ありきたりな内容だった。

そして2ヶ月もすると、

お互い連絡を取り合わなくなった。



長く勤めた病院をやめてから、

私は訪問看護を立ち上げた。

それと休みの日は、趣味のタロットで

YouTube配信をしていた。

個人鑑定もしていて、忙しい日々を

送っていた。


とても充実した日々だった。

組織から卒業して、本当にやりたいことを

大切な仲間と作り上げていった。

毎日必死だったけど、気がつけば

業績は上がり、地域での講演会や

研修などにも声をかけていただくほど

成長した。



ある朝も、仕事に行くために

車を走らせていた。

いつもの交差点を右に曲がれば

私の職場である。

いつものようにウインカーを出した。

その時、右前方で倒れている男性を

発見した。

一旦右折をして、慌てて車を降り、

男性に駆け寄った。

胸痛を訴えており、体を丸め、

冷や汗をかいていた。


大丈夫ですか?と声をかけるが、

だんだん意識がなくなっていく。

心肺停止だ!

慌てて心臓マッサージを開始して、

周りの人に救急車を呼んでもらい、

「誰かAEDを…」と言いかけた。


心臓マッサージをしている

わたしの背後から、

「手伝います。」とAEDを

差し出す男性。


それは和希だった…。


救急車が到着した頃、何とか蘇生

することかでき、救急車を

見送った。

「心筋梗塞かな」私がつぶやいた。

「だろうな。助かるといいな。

 病院だったら色々できたのにな。

 俺ら、道具と薬ないと無力だな」

和希が答えた。

そうだよね。私達、一緒に

目の前の患者さんに向き合ってきたよね。

できるだけ多くの人を助けたい。

それが医療に関わる者の願いだ。



私たちは、救急車が見えなくなるまで

見つめていた。

あの日、いつまでも空の星を

見つめていたように。

まるで祈りを捧げるように…。


そして、この日からまた、

運命の輪が動き出した。