起動戦士ガンダム Absolute Knight
                   Episode 2  
           「To My Dearest」



2つの光の柱がぶつかり合い
辺りは凄まじい轟音と金色の光に包まれた。

「兄貴ッ!
おい!兄貴ィ!」
少しずつ光が収まっていく。
そしてアークの目に映ったのは
あの日の決戦以上に凄まじい光景だった。
「おい…これって…」
シャングリラ総本部を中心に
巨大なクレーターができていた。
「…ア…アーク…。
お前…無事か…?」
「兄貴ッ!
無事だったか⁈
あの光の柱は一体…」
「あぁ…。
最終兵器にとっておいたが…
まさかこんな早期に使う事になるとは…」

ー《よもやこのような力を
有していようとは…》
「お前は何者なんだ⁈」
《我が名はサーガ…》
「……サーガ…父を侮辱した罪は重い。
必ずお前を殺す。」
《楽しみに待っているぞ…》
「おい兄貴ッ!
ヴレイジングの機体が無い!」
「何ッ⁈
では奴はどこから…⁈」
《ククク…神は死なぬ…
初めから我は此処にはいない…》
「無人機だっただと…⁈
奴は遠隔操作でこれだけの力を…⁈」
「やっぱ格が違うってのか…」
「……アーク…帰投するぞ。
奴も機体が無ければ戦うことはできん。
それにもう、
この拠点に反抗する力は無い。」
「了解だ。」
「さらばだサーガ。
首を洗って待っていろ。」
《ククク…》


ーシャングリラ近海上空
ニムとアークは
潜伏しているノウズ島へ向かっていた。
「なぁ兄貴、
あいつはどこからヴレイジングを
操作してたと思う?」
「俺にも分からない。だが、
シャングリラ総司令塔では
ないことは確か…、
恐らく別拠点からだ。」
「そんな遠くから遠隔操作なんて
できんのか?」
「俺達がいた工場には
そんな技術を搭載したモノは無かった。
恐らく機密性の高い兵器は
研究所で作られるのだろう。」
「チッ…
あいつのからくりさえ分かれば
次こそぶっ殺せんのに。」

ーピピッ
機体の熱源感知音が鳴る。
「…⁈ 敵影だと⁈」
「⁈…ふざけんな!
もうノウズ島は目の前だぞ⁈」
「モビルスーツではない…、救難ポッドだ。」
「こんな辺境に…
遭難者とは思えねぇぞ!
撃ち落としてやる!」
「待て、アーク!
国際救難チャンネルが開いている。」
「何ッ⁈
一体なんなんだ、この救難ポッドは⁈」

ー《…ニ……ニム……ニムでしょ?》
「…⁈…この声…」
「おい…兄貴…まさか…」
《やっぱりそうだ…ニム。
ずっと探してたんだよ…》
「…ヴェガ…?
いや、君は死んだはず…
…貴様、サーガの刺客か⁈」
《違う!私はヴェガ!
あなたなら分かるでしょっ⁈》
「だって君はあの日…
ノア墜落事件で死んだはずだ…」
「兄貴…。」
《ニム…約束したじゃない。
もしも世界が君を見放しても
世界が君を間違いだと言っても
君が全てを失ってしまっても
そしてそれがどんな状況であっても
必ず私が君を守るよって。》
「そんな…
それの約束を知っているのは僕らだけだ。
これじゃもう君が本物と
認めるしかないじゃないか…ヴェガ…。
……アーク、すまない。
少し席を外してくれ。」
ニムの眼から涙が溢れる。
「了解だぜ。
あ、兄貴…これだけ言わせてくれ。
…いつも強くあろうと
1人無理してんのは解ってんだ。
こういう時ぐらい
純粋に自分らしく素直になってこいよ。」
「…あぁ。…ありがとう。」




ーノア墜落事件。
新暦0022年10月8日、
ナディウス王国の超大型飛行船ノアが
飛行中に乱気流に巻き込まれ、
乗員374名全員が死亡した事件。
この乗員の中には
ナディウス王国総議会議長とその娘、
ヴェガ ロアディーノも搭乗していた。
ヴェガは国王の子、ニム ラインハートの
恋人であったが故に、
議長に加え王子ニムの恋人までも
失ったこの事件は
王国中を震撼させる大事件となった。

新暦0022年10月1日、
宮庭の木の下に
ヴェガとニムの姿があった。
その日は王国の祝日で
王宮内も休日となっていた。
「はぁ…」
「どうしたんだ?
せっかくの休日にため息なんかついて。」
「来週のお父様の海外出張よ。
なんで私まで行かなきゃなんないのよ。」
「まぁそう言うな、ヴェガ。
これも国の為なのだ。」
「あー!またその喋り方!
国王様そっくりなんだから。」
「あ…ごめん、つい癖で。」
「ほんと王子様はこれだから。」
「ごめんって。」
「へへーん、怒ってないよーだ!」
「こいつっ!」
ニムが彼女の柔らかな頬を小突く。
2人で過ごす時間は
自分達の立場を忘れて
一民衆としての幸せを感じられる
憩いのひと時だった。


ーヴェガが急に深刻な表情になり
真っ直ぐニムを見つめた。
「ねぇ、ニム?」
「ん?どうした、急に真面目な顔して。」
「あのね、その…小指出して!」
「…こうか?」
2人は小指を繋ぎ、額を合わせた。

「ニム…約束する。
もしも世界が君を見放しても
世界が君を間違いだと言っても
君が全てを失ってしまっても
そしてそれがどんな状況であっても
必ず私が君を守るよ。」

「……あぁ、俺も約束する。
もしも君が何かにつまづき
現実を嘆いた時は俺が君を支える。
もしも君が希望を失ったら
俺が君の希望になる。
もしも世界が君を傷つけても
俺が君を癒す光になる。
もしも世界が君を独りにしても
必ず俺が君を守る。」
ヴェガがにっこりと微笑む。

「私、ニムが大好きっ!」
「ヴェガ…ありがとうな。」


ーそれから1週間後、
ニムは自室で書物と向かい合っていた。 
バタンッ!
急にニムの部屋のドアが開く。
「無礼な!王子の部屋であるぞ!」
「はっ…申し訳ございませんッ!
しかしニム様、
只今緊急の連絡が入りまして…。」
「はぁ……申せ。」
「はっ!
議長とヴェガ様を乗せた飛行船ノアが
乱気流に巻き込まれ墜落したと…。」
ニムは一瞬にして力を失い
手にしていたペンを落とした。
「なん…だと…⁈」
「非常に申し上げ難いのですが…
墜落した先が…ダスク山の大渓谷だと…。」
「馬鹿な…。」
「…乗員374名…全員死亡とのことです。」
「嘘だ……ヴェガ………。
嘘だぁぁぁぁ…」
ニムはその場に泣き崩れた。


ーそれからすぐに救助隊が向かったが、
生存者は確認されなかった。
機体は木っ端微塵に大破し、
現場は悲惨な状況であったと言う。
ヴェガの遺体は発見されなかったが、
ニムと共に身に付けていた指輪が発見され
その9日後に生存不可能と判断が下り
救助隊は引き上げ、死亡が確定した。
その後、
議長、ヴェガを含め亡くなった乗員374名の
国葬が弔われた。
葬儀の最中、ニムの涙を流す姿は
悲劇のヒーローかのように連日報道された。
ニムは毎日部屋に引きこもり、
食事も喉を通らなくなった。
ニムは毎日、
部屋の窓から見えるあの日約束を交わした
木陰を眺めていた。


ノウズ島格納庫
ー「ヴェガ、あの墜落事件から
どうやって生き延びたんだ?」
「…ニムには言ってなかったけど、
私、ごく稀に未来が見える時があるの。」
「未来が…見える…?」
「うん、はっきりはしてないんだけど、
なんか…ぼんやりとね。」
「あの事件も予見していたのか?」
「ううん…それは分からなかった。
でもニムが…
焔の中でアークと2人で復讐を誓うのが
見えたの。」
「まさか…
あの約束は偶然の一致じゃ
なかったってことか?」
「うん…。
だって、
復讐だけで生きるなんて寂しすぎるよ。
ニムが優しい人だってこと
私ちゃんと知ってるもん。
大切な優しさを失くさないように
あの約束をしたの。
私に何があっても、
ニムが優しいままのニムでいれるように。」
「……ヴェガ…。」
「あの日、飛行船が乱気流に入る前に
お父様は私を連れて2人だけで
逃げようとしたの。
みんな助けなきゃだめだって
言ったんだけど…お父様、聞かなくて。
みんなを見殺しにするくらいなら
私はここで死ぬって言ったら
お父様に気絶させられて…。
気がついたら隣国の民家にいて、
そこのおばさまに話を聞いたら…
お父様は
私が目を覚ます少し前に死んじゃったって。
私を生かすために
必死に脱出艇を操縦して
私をおぶってここまで運んだんだって。
でね、
最後に私にって
手紙が書いてあったの。


ー《ニム王子に会いに行きなさい。
私はお前が彼と一緒に笑い合う姿が
大好きなんだよ。
本当に楽しそうで、
私なんかと一緒に居る時よりも
比べ物にならない程
生き生きとした顔をしている。
彼となら必ず幸せになれる。

そして、
お前が生かされたのは
飛行船の全乗員の意思だった。
皆がお前の幸せを願っていたんだよ。
あの時、皆が口を揃えてこう言ったのだ。

「今、私達が抵抗しても
もう墜落は避けられない。
最期に悲しみ泣き叫ぶくらいなら
皆でヴェガ様の幸せを願おう。」と。

…皆、私の責務は果たした。
ヴェガ、母さんによろしくな。

To My Dearest.(私の最愛の人へ)
機動戦士ガンダム
Absolute Knight
Ep 1 「楽園の使者」


「おい、アーク!
まだ終わらないのか?」
「兄貴が早すぎんだよ。
もうちょい待てって。」

ー此処はノウズ島。
元ナディウス王国の統括地で
Absolute Knightの殲滅戦後に
焼け野原になり、忘れ去られた地。
2人は「力」を隠すため
家から遠く離れた
この地に格納庫を作り潜伏していた。

「よし、
ジェネレータ出力全て正常。
ん、いや…それ以上?
ふっ…お前もこの日を
待ちわびてたみてぇだな。」
「やはりアークのトライフルも
そうだったか。」
「兄貴のヴライジングもか?」
「あぁ…全て異常値だよ。」
「ハハッ…張り切りすぎて
オーバーヒートすんなよ?トライフル。」
{3E58D9C4-445D-4662-98E2-7D4441CBFA58:01}

ニムが機体に乗り込む。
「さぁ、いこうか…
アークッ!再確認だ。
俺達の目的はなんだ?」
「は?何言ってんだよ兄貴…。
決まッてんだろ!
奴らを1人残らずブッ殺すんだよ…。
次元の向こうへ戻すなんて
甘いことはしねぇ。
全員この世から消し去ってやる!」
「あぁ、その通りだアーク!
行くぞッ‼︎‼︎」
「あぁ、この日をずっと待ってた。
奴らに報復できるこの日をッ!
アーク ラインハート
       ガンダム トライフル
           出撃するッ!」
{DE9A2BAC-E0BF-44FF-AEA5-BFB2EEF7C0DE:01}
「父上、母上…
ついにこの日が来ました。
我々の姿を見てあなた方が心配されるのは
解っています。
しかし、我々はやり遂げねばならぬのです。
世界を焼いたAbsolute Knightに
憎しみの焔を以って報復を!
目標、シャングリラ!
ニム ラインハート
     ヴライジングガンダム改
            発進するッ!」
{55CD6E3D-EC9C-4D8E-A3DE-77102C878F4A:01}

轟音と共に機体が飛び去っていく。
その後ろ姿は
まるであの日の国王のようだった。



ーシャングリラ海上防衛基地司令室
「0時の方向!
シャングリラ領海130Km先に
熱源をキャッチ!」
「数は2!
超スピードで接近中です!」
「なんだと?
味方ではないのか?」
「はい!間違いありません!
⁈  機体の動きが止まりました!」
「こいつら…何を企んでいる…」

ー「アーク、まずは
シャングリラ海上防衛基地の殲滅だ。
アローフォームで敵司令塔を焼き払え。」
「おう。任せろって」
ガンダムトライフルの
背部の起動バインダーが変形していく。
「ガンダムトライフル、
アローフォーム展開完了。
敵司令塔を確認…殲滅するッ!」
その刹那、光の矢が放たれ、
海上を真っ直ぐ突き進んでいく。
{659EEEF3-479A-4FCE-A827-36A137C89F50:01}
「司令っ!
敵影から高熱原体反応!
真っ直ぐこちらへ向かってきます!」
「馬鹿なっ!
奴らは100Km離れているのだぞ!
その距離では此処へは当たらん!
いや…待て…。
あ、あれはなんだっ⁈
う…ウワァァァ…」
凄まじい爆発と共に轟音が鳴り響き、
シャングリラ海上防衛基地は
一瞬にしてその姿を消した。

ピピッ…
「敵影キャッチ。
やっと敵軍のお出ましだ…!
数は30、やれるか?兄貴。」
「少し散らばってはいるが…
…あぁ、やれる。」
ヴライジングガンダムの
バスターライフル銃口に光が発生する。
「こちらからも
一太刀入れさせていただく。
バスターライフル、解放ッ!」
ヴライジングガンダム改の
各所に設けられたクリスタルが
オレンジ色に光り始める。
そして異常な程の
質量を持ったビームが放たれた。
{9E2D859E-C811-4AAF-AAB1-A86E7DEEC425:01}

その光は敵モビルスーツを焼き払いながら
突き進んでいく。
「このまま
シャングリラ総司令塔を焼く。
出力最大ッ!」
光はより太くなり
更に威力を増し突き進んでいく。
「おいおい、奴らの拠点は
たったの2発で攻略できんのか?
おぜぇ拠点だなぁオイッ」
「待てアークッ!
……手ごたえが…ない…?」
「何言ってんだ兄貴、
俺のトライフルでも
受け切れねぇビーム撃って
ブッ壊れねぇ機体なんかねぇって。」
「いや、何かがビームを受け止めている。」
「そんな馬鹿なッ⁈」
「ネオバードモードで先行するッ!
アークは高起動モードで
付いてきてくれッ!」
「了解だッ!」
ヴレイジングガンダム改が
鳥のような形状へ変形し先行していく。
ガンダムトライフルも
両肩の起動バインダーが変形し
ヴレイジングガンダムを追っていく。

ー《来たか…亡霊共…》
シャングリラ総司令塔上空に
一機の機影があった。
「おい…アーク…
あの機体、まさか…⁈」
「待てって兄貴ッ!
何がどうしたんだよッ!
……⁈
お…おい、あれって…」

総司令塔上空の機影の正体は
かつて国王が駆った機体、
ヴレイジングガンダムだった。

「父上ッ!
生きておられたのですかッ?」
…ヴレイジングガンダムは
無言でこちらを睨んでいる。
「父上ッ!
返事をしてくれッ!」
しかし、
ニムとアークの呼びかけに全く動じず、
その機体はただ彼等を睨み続ける。

ーそしてヴレイジングガンダムが
ビームサーベルを引き抜く。
「父上ッ!
何を考えておられるのですかッ⁈」
ヴレイジングガンダムは一瞬で
ニム機の懐へ間合いを詰めた。
{7C069DAF-B81F-48B2-9BDE-C3E1AA467B18:01}

「兄貴ッ!危ねぇ!」
アーク機がファトゥムで
慌てて牽制をする。
{CAFEF821-29CB-49D2-B1D2-3B99D6401C56:01}

「すまない、アーク…。
あれは本当に父上なのか?」
「いくら呼んでも返事がねぇ。
だから父上かどうかは、
闘って確かめるしかねぇ。」
「お前も同じ事を考えていたようだな。」
「やるしかねぇぞ、兄貴ッ!」
アーク機が両手にビームソードを構える。
{9776A939-6D9C-4026-852F-C44868676FFE:01}
ニム機もハイパービームソードを構えた。
{00B9A85A-AFD7-493A-ABA8-614368A196A2:01}
「二機同時に仕掛ける。行くぞッ!」
「おうよッ!」
二機の斬撃をヴレイジングガンダムは
華麗にかわし
ビームサーベルでアーク機に斬りかかる。
「ファトゥムッ!シールドモードッ」
間一髪の位置で防ぐ。
そしてニム機が
ヴレイジングガンダムに斬りかかる。
「父上ッ!その真意、
見極めさせていただくッ!」
しかしヴレイジングガンダムは
それをシールドで受け切る。
「馬鹿なッ⁈
ハイパービームソードだぞッ⁈」
その瞬間、
ヴレイジングガンダムから通信が入る。
《弱い…弱過ぎるぞ…亡霊共…》
「…⁈…父上ではない⁈」
「てめぇは誰だッ⁈」
《貴様等…こんな力で
我らAbsolute Knightに勝てるとでも
思っているのか…?》
「てめぇ、Absolute Knightだとッ⁈」
「やはりか…
何かおかしいとは思ったが…」
《お喋りはここまでだ…亡霊諸君…
ハァッ‼︎》
ニム機とアーク機が吹き飛ばされる。
「力で押し返された⁈」
「こっちは第3世代機だぞッ⁈
ヴレイジングガンダムは第2世代じゃ
ねぇのかよッ⁈」
《これで国王の元へと送ってやる…》
ヴレイジングガンダムは
ビームサーベルを天に向けて構えた。
そして出力がみるみるうちに上がり
光の柱の様になる。
《これが神の力だ…さようなら…諸君…》
「なんだこれは…
光の柱が堕ちてくるッ⁈
兄貴ッ!撤退だッ!
こいつは格が違い過ぎるッ!」
ニム機はただ立ち竦んでいる。

「アーク…
お前は家族で笑い合ったひと時を
思い出せるか?」
「こんな時に何言ってんだッ!
早く逃げねぇと殺られちまうぞッ!」
「俺は…片時も忘れたことは無い…」
その瞬間、
ヴレイジングガンダム改のクリスタルが
金色に光り始める。
「父上…どうかお許し下さい。
あなたの劔を折ることになりそうです。
しかし我々は、
此処で死ぬわけにはいかないのです!
…この力を初戦で
解放しなければならないとはな…。
ハイパービームソード
全リミッター解除ッ!
オーバーロードモード!」
ヴレイジングガンダム改の
ハイパービームソードから
巨大な光の柱が発生する。
それは敵のヴレイジングガンダムとは
比べ物にならない大きさだった。
{39A7DEEA-F83A-4BC7-917E-D43B62A82A0D:01}
「アークッ!
お前は離れていろ!」
光の柱同士がぶつかり合う。

そして辺り一面が
光に轟音と共に包まれていくー。

ー続く。
機動戦士ガンダム
 Absolute Knight
-Episode zero-


新暦0023年 12月9日
その日僕は父に呼ばれ
王室へ来ていた。
話があると言うが
だいたい予想はついていた。

…「戦争が始まる。」
何故かそう感じていた。
昔から何かと勘が冴えてはいたが
今回は今までとは違い
より鮮明に感じた。
なるほど、
やはりそうか。
父の面持ちが重い。
…心臓の音が聞こえる。
次第に汗が流れ始めた。
父が席を立ち近づき始める。
そして僕を抱き
そっと口を開く。

「ニムよ…
これから戦争が始まる。
もし私が死ぬような事があったら
お前が母さんを支えなさい。
お前は誰よりも強い子だ。
だから必ず生き延びなさい。

すまない…。
このような戦火にお前や母さん、
そしてまだ10歳と満たないアークを
巻き込んでしまった事を
私はとても後悔している。
このような父であることを
許してくれ…。」

僕は強く父を抱き締めた、
この世の理不尽さに怒りをぶつけるかのように。
なぜならこの戦争は、
決して父のせいではなく
全て奴らの仕業だということを
理解していたからだ。

ーAbsolute Knight
奴らは次元を切り裂き
こちらへやって来るなり
突然戦争を引き起こした。
強国の代表を唆し
発展途上国をも巻き込み
第4次世界大戦を勃発させた。
だが
ナディウス王国と一部の国は
戦争には参加しなかった。
強国の誘いを頑なに拒み、中立を保った。
そして世界大戦が終わり弱った国々を
Absolute Knightは次々と占領していった。
各国はなす術もなくただ従った。
奴らは国を立て直す事と引き換えに
Absolute Knight傘下へ下る事を提案した。
弱り切った各国は従う他に手段が無かった。
そして大量の血を流した世界大戦に対し
無血で国々を占領した彼等は
やがて神と崇められた。
それも全て奴らの計画だった。

次にAbsolute Knightは
最後に残った国で結成された
ナディウス王国連合国軍を攻めてきた。
世界大戦で国を焼かれた中立国は
ナディウス王国に身を置き、
連合国軍に参加していた。
奴らは
まだ正常に機能し切れていない
連合国軍の現状を見計らっていた。


ー今まで聞いた事がないサイレンが鳴り響く。
「ナディウス王国の全国民及び
連合国各国民に告ぐ。
たった今Absolute Knightがナディウス王国に向けて
進軍を開始したと情報が入った。
直ちにシェルターへ避難せよ。
繰り返す……」

父は僕の肩を強く掴み
険しい顔で真っ直ぐこちらを見ていた。
「さぁ、お前も避難しなさい。」
『お父様は避難しないのですか?』
「私にはまだ、
やらねばならぬ事がある。
おい、親衛隊長!」

僕は親衛隊長に連れられ避難した。
シェルターへ向かう道中、
格納庫で父の姿を見た。
父は
赤と白と金に彩られた機体に乗り込んでいた。 
僕は夢中で魅入ってしまった。
『あれは…ガンダム…?』

かすかに会話が聞こえてきた。
「本当によろしいのですか?」
「あぁ…
これから未来を背負って立つ私の息子達に
強い父の姿を見せねばならんのだよ。
先刻別れは告げてきた。
覚悟はできている。」
「分かりました。
それでは発進シークエンスに入ります。」
{B2C0C27D-FF81-46A1-A905-3BFC686133DF:01}

親衛隊長に腕を引かれ我に帰る。
「行きましょう。
……国王様は本当にお強い方だ。
奴らが次元から現れた時から
国王様は戦争になる事を予見し、
機体操縦の方法をよく軍隊長に聞いていました。
奴らが現れて3年間欠かす事無く
国王様は訓練をされていました。」
『お父上が…?』
「えぇ。
そして私によく話していました。
《私の生き様を見て
息子達が少しでも強い人間になれるのなら
こんなに嬉しい事はない。》と」
『そうだったのか…。
ずっと家庭を顧みず
国を第一に考える人だと思っていた。
今日会ったのも何カ月ぶりだったか。』
「国王様はその時が来るまでは言うな、と
おっしゃっておりましたから
ご存知でないのも無理はありません。」


ーシェルターへ着くとアークがいた。
『アーク、無事だったか。』
「兄上も、よくぞご無事で。」
『母上の姿が無いが?』
「ニム様、アーク様、
王妃様はすぐに私がお連れします。
しばしお待ち下さい。」

それから何時間が過ぎただろうか。
シェルター内のテレビには
闘う父の姿が映っていた。
戦局は優勢とは言えないが
あのガンダムだけは
Absolute Knight軍を圧倒していた。
{3B7EDF0E-C4F3-45FF-AD81-BF6DC5CB8222:01}

{D1468164-8B7B-4032-AEF3-05775F93AA9D:01}



ードアが開く音がした。
慌ててそちらを見ると
そこには片腕を失くした母が立っていた。
『どうされたのですか、母上!』
「ごめんね、ちょっとね…。」
「王妃様をお守りする事ができず、
申し訳ございません!ニム様、アーク様!」
母の後ろには
身体中を銃で撃たれた親衛隊長が立っていた。
さらにその後ろにAbsolute Knight軍の兵士が
銃を構え立っている。
その刹那、
親衛隊長は母を庇い銃殺された。
そして母は大声で叫んだ。
「必ず生き延びなさい!
生きて明日を迎えなさい!
たとえ辛く苦しくても
あなた達は必ず幸せになれるわ!
あなた達と過ごした時間が
私にとっての幸せになったように…。」
母はうっすらと微笑み
外側からシェルターのロックをかけた。
そして爆音が鳴り響いた。
テレビを見ると
自分達のシェルターが映っていた。
そのすぐ横で
父の機体が横たわっている。
身体中をビームサーベルで溶断され
コックピットはすでに焼き尽くされ
大きな穴が空いていた…。
母も爆発に巻き込まれ
もう見る影もなかった。


新暦0023年 12月9日、
僕達兄弟は父を、母を、そして国を失った。

その日は兄ニムの15歳の誕生日だった。