こんにちは、青山結婚予備校インフィニスクールの佐竹悦子です。
今時代小説を読んでいます。
ひと頃はあまり顧みられなくなって、新しい書き手がなかなか出なかったこともありましたが、このところまたブームになっているようですね。
江戸時代の町人が多く登場するおはなしは面白い。
当時の裏長屋に住む女性なんかはとてもたくましくて、家事や子育てをしながら内職もする。
今で言う専業主婦なんてタイプはあまり出てきません。
貧しくとも、「身の丈にあった暮らし」というものをよくわきまえていて、生活を楽しむのが上手だったような気がします。
この小説は「大江戸ハードボイルド」というキャッチフレーズがついています。
主人公は、元岡っ引き、しかも「凄腕」と呼ばれた男です。
この仕事を嫌った女房に逃げられ、少し、女性も世の中も斜めに見ている。
暗い過去を引きずってはいるものの、強い正義感と身につけた体術とで、江戸の町の「悪」と戦っています。
その中の一場面。
主人公は探索の途中である女性に話を聞きます。
若くして亭主を失い、ふたりの子供を必死に育てている彼女に、ある男性との関係をたずねます。
「一年もつき合ってだな。その間、一緒に暮らそうなんて話は出なかったのかね」
「出ない、出ない。知りあったころ、正直言うとあたしにはそういう気持ちがあったわけ。―男なんていなければいないで済むようなもんだけど、やっぱり女だからさ、心細いのよ、何となく」
「それが女心というもんだ」
主人公自身も、女は懲り懲りだと日頃言っているものの、事件に巻き込まれて負った大怪我の看護をかいがいしくしてくれる幼馴染の女性の姿に
「ああ、家の中に女がいるってのはいいもんだ」
とかひとりごちたりするのです。
もちろん、現代の作家が江戸時代の人たちの考え方を想像して書いたものなのですから、当時の男女が本当にこんなふうに考えたかどうかはわかりません。
だけど、「肩寄せ合って誰かと一緒に暮らすのは本当にいいものだ」というのが伝わってくる場面だと思います。
作家自身が幸せな結婚をしていたからこそ書けた文章かもしれません。
読みたくなった人の為に、最後に題名を。
『漆黒の霧の中で』藤沢 周平 ―彫師伊之助捕物覚えシリーズの二作目です。