前にも書いたような気がするが、一日にはじまりをどんな音楽で始めるかというのは実に悩ましい問題である。

その日の軀具合はもちろん天気や気温、あるいはいっしょに暮らしている人間や動物の様子によってもそれは大いに左右される。一日のはじまりが必ずしもその日一日を支配するわけではないが、個人的には少なくとも午前中の気分には色濃く反映されるように思うのである。

以下独善的見解を述べる。

我が家は朝はかならずパン食と決まっているが、食事の種類にかかわらず天気、気温、気分等々いかなる状況下でも万能なのはバッハのブランデンブルク協奏曲ではないだろうか。

バッハ通の人には軽く見られている気がする本作だが、個人的にはバッハの作品の中で最も親しみやすく最も優雅な作品だと思っている。何度聴いても飽きることがない。曲が終わって、もう1度最初から聴き返したくなる音楽というのは案外少ない。

全6曲さまざまな楽器を交えながら織りなされるその音楽はまさに音を楽しむにふさわしい愉悦感に溢れており、明るい気分をより明るく、暗い気分をちょっとだけ明るくしてくれる。この〝ちょっとだけ〟というのがミソである。

音楽については屢々「癒し」と言われるけれど、私は「慰め」のほうが実感としてはより近いのではないかとおもっている。

ブランデンブルク協奏曲の特筆すべき美点は、他の楽曲に比べて『演奏』を選ばないこと。これは、音楽が優れていなければまず不可能な芸当で、実際今手元にあるブランデンブルク協奏曲のCDは全部で4組(リヒター,シャイー,アバド,ガーディナー)だが、目を瞑って選んでも大丈夫である。仮にこの4組にさらに4組を買い足したとしても。

モダン楽器とピリオド楽器の垣根も越え淀みなく流れてゆく音楽。こんなことを書いていると、ブランデンブルク協奏曲のCDを又蒐集したくなってきた。