この数年来クラシックCD業界は空前の箱物ブームだと思う。

特定の音楽家の録音をレーベル毎に集成したものが次から次へと出てくる。指揮者が多いが、ピアニストやヴァイオリニストといった演奏家の箱物も出ている。時間はあってもお金がないのが無念である。

それはともかく、箱物のメリットは気に入りの音楽家の録音を網羅している点と1枚当たりの値段が割安な点、そして商品によってはリマスタリング等で音質を一新している点などがあげられるだろう。CDを収めている紙ジャケットにもこだわりのあるものが増えた気がする。

一方でデメリットも多い。まず何と言っても場所を取ること。そして個人的にはこの点がより悩ましいところだが、いかに気に入りの音楽家とは言え、その全ての音源に肯定的印象を抱くことは難しい点である。

それは演奏に対する好みもあれば楽曲に対する関心の濃淡に起因するものまで様々で、結果〝よく聴くディスク〟と〝殆ど取り出すことのない死蔵ディスク〟がはっきり分かれる。

私はあまり後者のようなCDは手元に置いておきたくないのだが、さすがに捨てることは憚られるし、貧乏性なのでネットオークションに出ているように箱物をバラして売る勇気もない(寧ろこのバラ売り方式の販売を有難く利用させてもらっている側の人間である)。

たとえば去年買ったブルーノ・ワルターの77枚組のボックス(画像はAmazonより拝借。以下同じ)についていうと、とりわけ愛聴しているのは10枚くらい。時々聴くのが20枚程度で、残り半分は箱に入れたまま(稀に不良盤があるので一通りチェックはした)。

それ以前に買ったマレイ・ペライアの73枚組ボックスもほぼ似たような感じである。前二者よりは比較的ムラなく聴いているクラウディオ・アバドの41枚組にしても、特定の作曲家(ベートーヴェン、ブルックナー)の音源は滅多に聴くことがない。

これ以外にも幾つか買ったが(グールドやジンマン、マゼール等)結局手放してしまった。

箱物には演奏家の録音を俯瞰できる楽しみや、ある特定の作曲家に対する思い入れの深さを共有できる利点もあるわけだが、それだけに聴き手の愛着が試される面もある。