七月とはいえ日が落ちると急に冷え込み、教会前の広場では火が焚かれていた。
 その火に横顔を照らされながら、虚ろな目をしてうずくまる彼らの隊長。
 自らの半身にも等しい愛するひとを喪い打ちひしがれる彼女に、彼は言い放った。

「やつが逝っちまって傷ついてるのは、あんただけじゃねぇ」

 そして隊員仲間のもとへ戻ろうと歩く彼の前に、ひとりの女が立ちはだかった。
 大きな目いっぱいに涙をためて、彼をじっと睨みつけている。その顔には見覚えがあった。たしか、隊長の知人らしい新聞記者の妻で、ロザリーとかいう女だ。

「なんだ?隊長なら教会の前にいるぜ」
「わかってるわ。少しでもなにか食べていただきたいと思って、これをお持ちするところだったのよ」
 パンらしき包みを持った手が、胸の前で小刻みに震えている。
 と、いきなりそれを彼の胸に投げつけた。

「よくもあんなことが言えたわね!」

 ぼろぼろと涙をあふれさせながら、ロザリーは彼に向かって言い立てた。
「アンドレが逝ってしまって傷ついてるのはオスカルさまだけじゃない。そんなのあたりまえよ。わたしだって、ベルナールだって、みんな悲しんでるわよ!聡明なオスカルさまが、それをわかってないわけないじゃない。けどね、だれよりもいちばん深く悲しんで傷ついてるのはオスカルさまに決まってる。隊長だからって、夫を亡くしたその夜まで、強く振る舞わなくちゃいけないの?」
「民衆側に立って戦うと決めて隊を率いている以上、隊長には最後まで自分の仕事をまっとうする責任がある。あんたにゃわからんかもしれんが……」
「それくらい、わたしにだってわかるわよ!」
 通り過ぎようとする彼の上着をひっつかみ、ロザリーはさらに言いつのる。
「今はあんなふうに絶望して打ちひしがれていらしても、オスカルさまはきっと気力を振り絞ってまた立ち上がられる。どんなにおつらくても、ご自分の選んだ道をまっすぐに進んでいかれる。オスカルさまはそういう方よ。オスカルさまのもとで戦ってるくせに、そんなこともわからないの?馬鹿なの?オスカルさまを信頼して、せめて一晩、軍人じゃなくひとりの妻として夫の死を悼むのを、見守って差し上げることもできないの?」

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらロザリーは彼の脇腹を突き飛ばし、オスカルのもとへと駆け出した。
 彼はしばらくその後ろ姿を見送っていたが、ふっと空を見上げるとまた目を落とし、仲間の待つ露営地へと歩いていった。

「オスカルさま……」
 教会の扉の前には、すでにオスカルの姿はなかった。
 ロザリーは呆然と立ちつくし、だれもいない扉を見つめていたが、小さく馬のいななきが聞こえた気がして思わず空を見上げた。

 地上の悲しみも知らぬげに、星たちがまたたき彼らを見下ろしていた。




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ベルサイユのばら二次創作第8作め。2021年4月3日UP。


アニメ版で、最愛のアンドレを失い茫然自失しているオスカルさまにアランが放ったこの一言。

『やつが逝っちまって傷ついてるのは、あんただけじゃねぇ』

はあぁぁぁ??!!なに言ってんの??💢

つい最近知り合ったばっかりのあんたと、二十年以上もの間おたがいの半身として生きてきたふたりとが同じ土俵に立てるとでも???

しかもその前の夜にやっと夫婦として結ばれたばかりのふたりですよ?愛する夫を喪い打ちひしがれてる妻に対して言うセリフじゃないでしょ!!!💢💢

すみません……興奮してしまいました……

アニメ版のアランには最初から違和感があったのですが、このセリフで決定的に彼を嫌いになってしまいました。あまりにもデリカシーが無さすぎる。言いたいことはすべてこのお話でロザリーに言ってもらいました。それでもまだ言い足りない。なんなら一発殴ってやりたいくらい。

殴るといえば、第31話「兵営に咲くリラの花」。ラサールが憲兵隊に連行されたのをオスカルさまのせいだと決めつけたアランが、こともあろうにオスカルさまをひっぱたき、しかも引き摺って雨のなかに放り出す。いやいやいやありえないでしょ。それに

アンドレ、なにやってるんだよ💢

オスカルさまが殴られて雨のなかに引き摺り出されてるのに、なんでぼけーっと見てるんだよ。

そこはアランをぶん殴るところでしょう。あなたがやらないならわたしがやりますけど?

すみません……興奮してしまいました……

アランも腹立たしいけど、とにかくアンドレが不甲斐ないったらありゃしない💢「おれのオスカル」が無実の罪で殴られてるのになんの反撃もしないなんて、この男はきっとアンドレじゃないんでしょうね。アンドレによく似ただれか。

そしても一つ殴るといえば……第1話!オスカルさまと出かけた遠乗りで、口論になってオスカルさまをグーで殴るアンドレ😱

はあぁぁ??!!子どもの頃ならまだしも、もうオスカルさまは14歳、アンドレは15歳。男女の体格差も出てくる頃で、なのにオスカルさまがぶっ倒れるまで殴るなんて、やっぱりこれはアンドレではありませんね。

一応お断りしておきますが、Inesはアニメ版「ベルサイユのばら」が嫌いではありません。原作とはちょっと違う世界線の「ベルサイユのばら」として、好きなところもたくさんあります。けど、常識的に考えてあまりにもガバが多すぎるのです。

そもそもジェローデルとの対決が『近衛隊の隊長』を巡って、というところが💦まだ14歳ですよ?軍隊経験もないのですよ?いくらジャルジェ将軍の息子(?)とはいえ、いきなり隊長はないでしょう。それにジェローデルとの決闘シーン、アンドレは影も形もありませんが、いったいなにをしてたのでしょう?そこはオスカルさまと一緒にいないとダメでしょう。

あとオスカルさまが自分を「おれ」とおっしゃっているのもいただけません。ここはアンドレとの違いを出す意味でも、「わたし」せめて「ぼく」でしょう。

それに将軍がアンドレの部屋を訪ねた夜に、土砂降りのなか忍者みたいに窓枠に潜んで盗み聞きしてるオスカルさまもどうなの。どうしてそんなところにいらっしゃるんですか、オスカルさま??だいたい、伯爵家の当主がわざわざ従僕の部屋を訪ねますか?ふつう従僕を自分の部屋に呼び出すんじゃないんですか?

そしてアンドレが将軍を「おじさん」呼ばわりしてるのも気になります。そこは「旦那さま」でしょう。親類のおじさんじゃあるまいし。

……とまぁいろいろ言いましたが、アンドレがきっぱりと将軍に「オスカルは自分で道を選ぶ権利があります」と言い切る場面は好きです。オスカルさまに「女に戻るなら今だぞ!」と叫ぶところも。もし女に戻ったとしたら、オスカルさまは速攻で結婚させられて自分の想いに終止符を打つことになるのがわかっているのに……それでも彼女の選択を尊重しようとするアンドレ。さぞかし身を切られるような思いだったことでしょう。そうよ!こんなふうに、アンドレは常時120%オスカルさまの味方でいてくれなくちゃ✨

(とはいえオスカルさまが最終的に軍人としての道を選ぶ理由が不鮮明なのですが……)


次回は原作ラインに戻りまして、恋人どうしとなったふたりのお話です💖