夜勤の帰りの電車でうたた寝をしてしまった。
僕の肩を誰かが叩く。
「お客さん、お客さん、終点ですよ。」
眼を開けると、愛想の良さそうな駅員さんの顔が見えた。
やってしまった。何回か往復してここにたどり着いたようだ。
時計を見ると9時過ぎ、仕事場までは、少なくともここから1時間はかかりそうだ。
派遣会社に連絡すると、無断欠勤扱いになるので、ペナルティーとして、次の仕事はキャンセル待ちまでないとのこと。
自業自得なのは、わかっているが、なんともいたたまれないか気分だ。
気分転換に開店早々のパチンコ屋へ入った。
缶コーヒーを飲み、タバコを吸いながら、当時もっともポピュラーだった海物語を打ち始めた。千円目で、大当たりの可能性が高い、魚群が発生するも、ハズレ。
その後も、1万5千円で計4回の魚群を見たが、すべてハズレだった。
こんなことはめったにない。
昼前というのに、部屋へ戻ると、安物のウィスキーを水道水で割って飲み始めた。
夜勤までには充分時間がある。
3杯ほど飲んだところで、左肩がずっしりと重く、うねるようなだるさにのみこまれた。
こんな少量で酔ってしまうことはないと思いながらも、水道水をがぶ飲みして、体内のアルコール濃度を薄めた。一瞬少し楽になったが、すぐに元にもどった。
これはいつもと違う、肝臓がやられたようだ。
何故か、死を意識して、亡き両親に、まだそっちには行きたくないと神頼みをした。
そして、パソコンの閲覧履歴を消去した。これが死の直前にすることかと、哀しくもおかしかった。
マジでやばい。このままでは、ワンルームマンションの一室で孤独死し、3ヶ月以上たって、家賃滞納のため部屋を訪れた大家さんに発見されるだろう。
部屋を出て自転車に乗り自販機でお茶を買って、一気飲みしたが、肩のだるさはおさまらない。
現金2千円しかもっていないにもかかわらず、町医者に駆け込んだ。
受付の姉さんは、たんなる酔っぱらいと思っているのだろう。
扱いが冷たい。
15分ほどたって、診察室に通された。
症状を説明すると、心電図で検査され、急性心筋梗塞だと診断された。
先生は救急車を声を荒げて手配し、僕は人ごとのように、大変なことになったと思った。
救急隊員が5名も来て、僕は救急病院に運ばれることになった。
気のせいかもしれないが、このとき女性隊員が1名いて、僕を運ぶときに足の裏に胸を押しつけてくれたような記憶がある。
心臓の病気のときは、心臓が止まらないように興奮させるためにそのような措置をしているのかもしれない。
しかし、そんな役目を公に女性がやるわけもないので、女装した男性隊員が担当しているのか?
それもおかしいし、もしかしたら女性隊員が、自らの判断でそんな行為をしているのか?そうだとしたら、本当の天使だ。
回りの緊張感あふれる雰囲気の中、僕はそんなことを考えながら救急病院に運ばれた。
その日は、金曜日の午後であり、パチンコで大当たりしていたら我慢して夜まで打っていただろうと思うと、いつもながらの自分の悪運の強さを身にしみて感じた。
つづく…