「v」音の表記「ヴ」 ~ 「ボーカル」or「ヴォーカル」? | オーディオの楽しみ

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河野太郎外務大臣の肝入りで、外国の公式国名から「ヴ」の表記がなくなるという。ブログなどを書いていると、いつも頭を悩ませるのがこの問題だ。「ボーカル」なのか「ヴォーカル」なのか。少し考えてみたい。

 

「u」「v」「w」の音は、西欧語でも悩ましい。

ラテン語にはもともと「v」しかなく、「ウ」とも発音した。「Bvlgari」「virus」は、それぞれ「ブルガリ」「ウィルス」と読む。

それから「u」が作られ、更にはこれを語頭に置くときの文字として「w」も作られた。読み方は、どちらも「ウ」だ。「bulldog」「window」は、「ブルドッグ」「ウィンドウ」だ。

しかしそれに従わない言語もあって、例えばドイツ語だ。「w」は「v」と発音され、「v」は「f」となる。「Wagner」「Volkswagen」は、「ヴァーグナー」「フォルクスヴァーゲン」と発音される。

 

日本語での外国語表記は基本的に英語式だが、読み方には2つの考え方があって、一つは「英語読み」、もう一つは「原語読み」だ。「ワーグナー」は英語読み、「ヴァーグナー」は原語読みだ。(「Volkswagen」は、英語読みで「ヴォルクスワーゲン」、原語読みで「フォルクスヴァーゲン」だから、「フォルクスワーゲン」は両者の折衷ということになる。)

 

そこで今回の問題だ。

「v」を「ヴ」と表記するのは、ひょっとしてドイツ語から来たのではないかと思う。誰かが、「Wagner」は「ワーグナー」ではないと言い出したのだろうか。「w」は基本的に「ウ」の音だから、それに濁点を付けて「ヴ」とすればよいということになったとか。これによって、表記がドイツ語式となってしまった。

そうでなければ、「v」音を「ウ」とも発音したラテン語を参考にして、「ヴ」とした可能性もある。「v」音と「u」音は近くはないと思うのだけれど。もしそうであればラテン語式の表記ということになる。

いずれにせよ、これが違和感の起源だ。多くの日本人がこの表記に馴染まないのは、日本語では、原語読みを取る場合でも、表記自体はみんな英語式じゃなかったの?という疑問を持つからだろう。

 

ならば、という訳で、英語式でこれを解決したらどうなるかを考えてみた。(「v」と「b」を区別すること自体は、必要な気がする。何と言っても、「v」音というのはどこか知的な感じがするじゃないか。この区別がないスペイン語は、どこか物足りない)

音声学上、「v」「f」を唇歯音、「b」「p」を両唇音というらしい。それで、「v-b」の組、「f-p」の組に分けて対比して見てみる。

まず「f-p」の組を見ると、「pa」「pi」「pu」「pe」「po」は、「パ」「ピ」「プ」「ぺ」「ポ」と表記するのに対して、「fa」「fi」「fu」「fe」「fo」は、「ファ」「フィ」「フ(フュ)」「フェ」「フォ」と表記する。つまり、唇歯音の表記は、両唇音の「ウの位置の音」あたりをベースにしている。そしてこれが完全に定着している。

そこでもう一方の「v-b」の組を見ると、「ba」「bi」「bu」「be」「bo」は、「バ」「ビ」「ブ」「ベ」「ボ」と表記する。したがって上と同じように考えると、「va」「vi」「vu」「ve」「vo」は、英語式では「ブァ」「ブィ」「ブ(ブュ)」「ブェ」「ブォ」ぐらいに表記することとなる。なんか、これでいいような気がする。「vocal」は「ブォーカル」、「Wagner」は原語読みで「ブァーグナー」だ。(単に、無声音「f」を有声音にしたのが「v」だから、「ファ」→「ブァ」とすると考えてもいい。こちらの方が対応が正確かも)

最初は戸惑うかもしれないが、f音からの類推で、誰もが正しい唇歯音に至りつくのではないだろうか。

 

「ボーカル」(bocal?)とは書きたくないし、とか言って英語なんだから「ヴォーカル」(wocal?)と書くのも抵抗がある。私には「ブォーカル」(vocal)でいいように感じられる。今回の河野大臣の決定は「ボーカル」に軍配を上げたような形になったが、根本の問題が解決されたわけではない。早くこの問題から解放されたいものだ。