ユング派心理士として、わたしが主に取り入れている療法は箱庭療法である。箱庭には、不思議な魅力があって、その素晴らしさを知ったセラピストたちは吸い込まれるようにトレーニングに没頭してしまう。特に私は、プレイセラピストやアートセラピストたちが、箱庭を取り入れるようになって、子供が夢のように変化して行く状況を目の当たりにし、箱庭の専門家になりたいと思ったという人々に多く出会って来た。(箱庭療法については、次の私のホームペジをご参考まで・・・。
http://bytwellbeing.com )
私が、箱庭にこんなにも惹かれてしまうのは、自分自身が不思議な癒しを体験し、そして、実際に私のセラピーに訪れるクライエントたちにも不思議な魂の成長が見られることを観察するためである。私は箱庭によって多くの気づきを受け、助けられて来たが、何よりも一番大きな出来事は、前夫の死を箱庭のセラピーによって受け入れる事ができたことだと思う。
私は、シンガポール人の前夫とバンコクで2003年に知り合い、結婚し、2005年5月8日母の日に彼をシンガポールで天国へと見送った。死因は末期の舌癌。頑固だった彼は、病院に行くことを嫌い、医者に診せたときにはもう手遅れだった。35歳の旅立ちあまりにも若すぎたけれど、何か天国へ行く事をとても急いでいたようだったので、きっと今も、私には分らない大事な事を神様のもとで天使のように取り組んでいるのだと思う。私は、そんな彼の短い人生の最後の1年半あまりを共に歩むようにと神様に仰せつかり、その使命を妻として最後まで果たす事ができたことを今でも誇りに思っている。ただ、彼を失ってから、私にはもう一つの使命が残されていた、それができずにいたのだけれど、箱庭が上手に私を助けてくれたと思っている。
2012年5月のシンガポールでの箱庭のトレーニング。箱庭体験の私のセラピスト役にくじ引きで選ばれた人を見て、はっとした。前夫の死亡証明書を書いた医者にそっくりだったのだ。私は、その人に見守られながら、箱庭に取り組んだ。いつものように、私の箱庭のイメージには、「生きた」前夫と今の夫が共存している。でも、その時、何故か、不意に、その前夫をイメージしたミニチュアを私は、とっさに砂の中に埋めてしまったのだ。手が勝手にそうするのである。考えではなく。そして、私は、彼のお墓を作った。小さな花を置いた。木も植えた。その上には2、3羽の鳥たち。「あの人のお葬式をしているの。この木や鳥たちは、天と地をつなぐの」と私は、セラピストに伝えた。そして、私は、気付いた。あ、私は、前夫を今、やっと死なせてあげる事ができたんだ。今まで、彼の死を受け入れていなかった。彼を自由にしてあげてなかった。今、私は彼を手放してあげる時が来たんだ。私は、そう思った。箱庭の全体を見ると、鳥肌が立った。濡れた砂で形作られた大地はシンガポールの地形にそっくりだったのだ。また、はっと気付かされた。最後の前夫を診てくれた医者にそっくりなこのセラピストが二度目の前夫のお葬式を証人として見守ってくれたのだと分ったのだ。全てが分った時、心と身体が軽くなった。トレーニングの講師に、「7年経って彼の死をやっと受け入れられた」と話した時、彼女は、私を力一杯抱きしめてくれた。「素晴らしい魂の旅をあなたは経験したのね」と言いながら。
ホテルに帰るまでの道のり、ふと空を見上げると、高層ビルの間を黄色い大きな鳥が堂々と自由に羽ばたいていくのが見えた。あ、あの人だと思った。その話しを、次の日、先生に伝えたら、「きっと、その鳥は言ったのよ。『僕はもう大丈夫だよ。旅立って行くからね。君も君の人生を生きなさい。僕も僕の人生を生きるよ』って」。彼の苗字は、「黄(ウォン)」。黄色は希望と復活の色。正に彼は、死を乗り越え、天に昇り、イエス様と共にあって、天使のように生活しているのだと思う。シンガポールで、彼が亡くなる直前まで祈ってくれた人々が言っていた言葉が忘れられない。「He is going home」...「帰天する」と日本語で言ってしまうと分りにくいけれど、本当は、家へ帰るだけ。もう一つの家が私たちにはある。そう思ったら、やっぱり天と地はつながっているのだと感じる。
私には、夢が有り、それは、箱庭の素晴らしさを何らかの形で世に伝えて行く事。セラピストとしてクライエントに向き合っていくのが何よりも一番の仕事だと思うけれど、やはり、書いて発表することが大事だと思っている。博士課程論文で書き上げたいテーマ。それは、「近親者喪失を体験したタイ人の心理と箱庭療法のもたらす効果」。ちょっと偉そうだけど、「仏教国タイの死生観とユングの思想」の周辺を研究して行きたいと思っている。ドラ・カルフのように90歳まで現役セラピストとして生きたい。そう思ったら45歳なんて中間地点。私は、これからも箱庭に助けられ、その魅力を探り続ける冒険を慎重にゆっくり行なって行きたいと思う。ユングの「40代以降は人生の午後」という喩えを胸に温かい紅茶で乾杯しながら・・・。
アーメン!