語るほどでもない自分の ”プロジェクトX”
BGM
2024年5月某日夕刻、家の電話が鳴った。隣市に住む弟の家の隣りの家からだった。
「新聞受けに新聞がたくさん溜まっている。チャイムを押しても応答がない」と。
弟は独身。同居していた両親はすでに他界。新聞受けに新聞を溜めるような性格ではない。
遊びに来ていた孫を家に帰し、妻の運転で弟の家に向かった。雨が降り出していた。嫌な予感がまとわりついて離れなかった。
玄関ドアの鍵を妻が保管していた。それを使って開けようとしたが開かない。初めて開けるせいなのか、焦る気持ちが冷静さを失わせているせいなのか。やむを得ず110番して警察官の出動を求めた。
ほどなくして警察官が数人到着した。同時に救急隊員も5、6人来た。工具らしきものを持っていた。警官からも救急隊員からも同じことを何度も尋ねられた。自分と妻の氏名や住所、生年月日、「最後に会ったのはいつか」とか「健康状態はどうだったか」など。
救急隊員が窓枠を外して中へ入ろうと20分くらい試みた。窓は外れなかった。(あとで分かったことだが、内側から厳重に防犯措置が施されていた)窓を最小限に割って中へ入ることの承諾を求められた。同意した。警察官と救急隊員が中に入った。
暗く肌寒い雨の中でずっと立ったまま成り行きを見守った。しばらくして「息してない」「瞳孔が開いてる」などの声が聞こえた。妻が自分の腕にしがみついてきた。小刻みに震えていた。
少しして、救急隊の責任者から「お気の毒ですが…」と弟が死亡していることを告げられた。救命活動の必要のない救急隊は撤収した。
(続く)