笑顔を求めて【前編】 | とあるSSのクライアント

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とある魔術の禁書目録のSSのまとめブログです。

今日は3月12日、すでに中学を卒業した御坂美琴は有名新学校に受験にきていた。
美琴の恋人となった上条は高校2年生、4月からは無事3年になれそうだ。

この高校は超が何個もつくほどの難関高校だが美琴にとって受かることはたやすい。
だが自分の席につきテストの開始を待つ美琴はなんともいえない表情をしている。
原因は簡単なこと。
本当は上条と同じ高校に行きたかったのだ
しかし学校や親からはもちろん、上条にまで反対されてしまった。
それでしかたなくこの高校を受験することにしたのだ。
しかたなく受けるレベルの高校ではないのだが…

(なんでよ…当麻のばか…)

上条と同じ高校に入ってもたった1年しか一緒にはいられない
それでも、1年だけでもいいから上条と一緒に学校生活を送りたかった。
その理由を上条に告げてもかたくなに断られたのだから不機嫌になるのは当たり前だ。
だが美琴の機嫌が悪いのは受験のことだけではない。
それは最近上条の様子がおかしいのだ。
明らかに何かを隠している。
受験だから、という理由でなかなか会ってくれないし、上条の寮に行こうとしても断られることも多かった。
また2週間ほど前、上条の寮へ行った時に上条の携帯に電話がかかってきた。
なにやらとても嬉しそうに話していたので美琴は電話が終わったあとに誰からの電話か尋ねた。
上条は「学校の友達だ」と言っていたがそのときの嬉しそうな表情が何かひっかかった。

1時間目のテストが始まったあともいろいろ思い悩んでいたが問題は完璧に解いていく。
50分間のテストだったが20分も余った。
流石は名門常盤台生だ。

(もうあとは適当にやろうかな……)

1時間目が終わったあと美琴はそんなことを考えていた。
残りの教科でわざと低い点をとれば落ちることは確実だ。
落ちれば上条の通う高校に行けるかもしれない。
そんな考えが美琴の頭をよぎったときマナーモードにしてあった携帯が震えた。
そこに表示されていた名前は上条。

(当麻から!?)

超電磁砲もビックリのスピードで携帯を開けメールを見る。
メールを見た美琴の表情は先ほどと打って変わって穏やかになった。

『そろそろ1時間目が終わったところか?美琴なら絶対に受かる。ガンバれよ!!』

たったこれだけのメールだったが美琴には十分だった。
先ほどまでの不安やわざと落ちようなどという考えはすっかり消えていた。

(そうだよね…当麻は私のことを考えて反対してくれたんだもん…頑張らなきゃ!!)

こうして残りの教科はリラックスして受けることができた。
休み時間ごとに送られてくる上条からのメールはより一層美琴を元気づけたのだ。

「あ~疲れた!でも当麻のおかげで頑張れたわね…そうだ何かお礼しなきゃ!」

そう思いついたのは4時間目の休み時間。
美琴は早速上条に『受験終わったあと会えない?』、とメールする。
上条に話したいこともたくさんあるしとりあえず会おうと考えたわけである。

その後の5時間目のテストも難なく解答し、美琴は受験を終えた。
現在は16時を回っておりあたりも薄暗くなり始めている。

「よし完璧!これで受からないはずがないわ。さて、当麻からのメールは…あれ?」

なんて返信がきているだろうと思い携帯を見てみるがこの1時間の間に受信したメールは
黒子22通、美鈴1通だけで肝心の上条からのメールはなかった。
いつもならすぐに返事をくれるはずだが1時間以上も時間が経っているのになんの返事もないことに不思議に思いとりあえず電話をかける。
しかし電話にも全くでないので美琴は徐々に不安になってきた。
もしかしてまた何か事件に巻き込まれたのではないか。
そう考えた美琴は急いでバスに乗り込み上条の寮へむかった。
寮にいるとは限らないが何もしないわけにはいかないのでとりあえず行ってみようと考えたわけだ。

782 :笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:13:42 ID:93Asf.x.

「当麻…無事でいてよね……」

上条の寮の最寄り駅で降り、そこから猛スピードで走ろうとしたとき美琴の携帯が鳴った。
この音は上条からのメール、急いで携帯を開けメールを見る。

『悪い気づかなかった!なんだか電話が通じないからメールで済ます。
 俺も会いたいから5時にいつもの公園に来てくれ。大事な話がある』

それを読んだ美琴は事件ではなかったと安心し胸をなでおろした。

「あ~よかったなんともなくて。それにしても大事な話ってなんだろな…」

公園に着くまでの間は“大事な話”について考えながら歩いていく。、
バス停から公園までは近かったのですぐに到着した。
まだ5時にはなっておらず見渡す限り上条の姿も確認できない。

「なんだ…まだ来てないのか…」

残念そうにつぶやくと側にある電灯にもたれる。
そして“大事な話”について再び考え始める。
これだけ心配させておいて課題が終わらないので手伝ってくださいとか言いだしたら
無意識のうちに超電磁砲を打ってしまいそうだ。

(いったいなんの話なのかしらね……まさかプロポーズとか!?…ないない!…でももしそうだったら…)

などとありったけ幸福なことを妄想し顔を赤くする。
そんなことを考えドキドキしながら待っていると待ち人の姿が見えた。
向こうはまだ気づいてないらしくキョロキョロと辺りを見渡している。

「ま、この位置じゃ見えないか。さて、と!大事な話とやらを聞かせてもらお―――」

そこまで言って言葉が途切れ、上条がいる方向へ歩き出したはずの足も止まる。
なぜならば上条の隣には見知らぬ女性がいたからだ。
別にただいるだけなら何も問題はないのだがやけに親しそうだ。
それに何を話しているかはわからないが楽しそうに会話をしている。

(あ、あんなのただの知り合いに決まってるじゃない!早く当麻の見えるところへ行かないと…)

そう頭では考えられるが最近の上条の行動に対する不安感からか体は上条の方向へ動いてくれない。
しかたがないのでとりあえず物陰に隠れ、2人がこっちへ来るのを待つことにした。
上条は辺りを見回しながら美琴が隠れている場所のすぐ側までやってきた。

(とりあえず2人の会話を聞こう!それから出て行っても遅くはないし…。)

そういうわけで美琴は2人の会話を聞くことにした。
だが盗聴系の能力者でもなくそういった機械ももちろん美琴は持ち合わせていないわけで会話はところどころしか聞こえない。

(う~ん…うまく聞こえないな…私がいないみたいなことを話してるみたいなんだけど…)

それでも聞き続けると話題が変わりいくつかの単語が聞こえた。
その単語というのが、別れる、飽きた、めんどくさい、などといったものだった。

(うそ―――)

それを聞いた美琴は絶句する。

(うそ、うそ、うそ、よね、当麻…そんなわけ…)

「まあアイツも高校生になったし調度いいかと思いましてね」

上条達は美琴の近くまできたためその言葉だけははっきりと聞こえた。
大事な話とは別れ話だった、それがわかった瞬間美琴の目の前は真っ暗になった。
この状況で自分の姿を見られるわけにはいかない。
そう考えると美琴は常盤台の寮へと走っていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


寮に帰ってくると美琴はすぐにベッドに倒れこんだ。
ここまで全力で走ってきたのだから疲れているのは当たり前だ。
だがベッドに倒れこんだ原因はそれだけではない。
上条と別れる、その闇に支配された美琴はうつぶせのまま泣き始める。

「う…うう…なんで…当麻…なんでよ…ヒック…どうして……やだ、やだよ…うう…」

汗をかいていることや足がつりかけていることなどもはやどうでもいい。
なぜ別れなければならないのか、美琴の頭の中はその疑問で埋め尽くされた。
するとふいに携帯電話が鳴る。
この着信音は上条、それも電話のようだ。
今の美琴が電話にでられるはずもなく1分ほど鳴り続いたあとその音は消えた。
すると今度は別の着信音、これは上条のメールの音だ。
美琴は携帯を手に取りおそるおそるメールを見てみる。

『もう5時半だけどどうした?何かあったのか?連絡をくれ』

このメールが別れ話ではないことに少しほっとする。
しかしもう今日会うわけにはいかない。
この状態で会ってもろくに話しなどできないだろう。
だが連絡しないわけにもいかないのでメールを送る。

『心配かけてごめんね。今日は入試のことを学校に報告しないといけないから行けそうにないわ。こっちから誘ったのに本当にごめんね』

783 :笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:14:39 ID:93Asf.x.

真っ赤な嘘だがこの際しかたない。
あの会話を聞いていて走って寮に戻ったなどと本当のことを話すわけにもいかない。
震える手でなんとか送信を完了する。
するとすぐに返信がきた。
美琴は先ほどと同じくおそるおそるメールを見る。

『そうか…残念だな。まあ何かあったのかと思ってたから無事でよかったよ。また明日にでも連絡する。受験お疲れ』

このメールを見て美琴は少し冷静になった。
このメールを見る限り別れ話をしようという感じではなく、ただ純粋に心配してくれているだけだ。
美琴は体を起こしベッドに座り公園での出来事を思い出す。
先ほどは上条の言葉を聞き気が動転してしまい悪い方向にばかり思考が進んでいた。
しかし冷静になってからあの公園での出来事を考えるとまだ別れ話だと決まったわけではないと思うようになった。

だいたい別れるからといってあの上条が“飽きた”や“めんどくさい”などと他人に漏らすだろうか。
冷静に考えればそれはありえない。
それにはっきり聞こえた上条の言葉では『美琴』ではなく『アイツ』と言っていた。
ならば先ほどのことは自分の勘違いで本当は別の話ではないか、と美琴は考えた。

しかしすべての不安が消えたわけではない。
別れ話でなくても最近上条が自分に何かを隠していることは明らかだ。
今日上条の隣にいた女性やその前の電話など不審なところが多すぎる。
…まあ女性関連についてはそれ以前、ずっと前からいろいろと問題があるのだが。

気分は落ち着いたため美琴は上条に電話をかけようとする。
“大事な話”や最近のことについていろいろと聞くためだ。
だがあとボタン1つで電話がかかる、というところで美琴の指が止まる。
上条があのようなことを言うなどありえない、
だがもし上条に心境の変化があってそれがありえたとしたら?
電話で理由もわからないまま一方的に別れ話をされたら?
そしてそのまま上条と会えなくなったら?
美琴はまた悪い方向へと考えてしまった。
この指があと少し下に動くだけですべてがわかるのに、美琴には電話をかけることができなかった。
結局この後美琴は不安のため上条に電話もメールもしなかった。

(明日会えば…すべてわかる……)

こうして美琴は再度気持ちを落ち着かせる。
もうすぐ帰ってくる黒子に今の心境を悟られないためにも。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


翌朝目を覚ますとなくなりはしていないものの昨日ほどの不安はなかった。
この日は休日、まあ卒業した美琴にとって3月はすべて休みということになるのだが。
部屋に黒子の姿が見えないのは風紀委員の仕事へ行ったからのようだ。
顔を洗い着替えをしてから携帯を見ると上条からメールがきていた。
送られてきた時間は今から1時間前。
その内容は

『悪いけど急に1日中補習があることになって今日は会えない。また夜に電話かメールするよ』

上条に会えないとわかると残念だと思った反面少し安心した。
安心したというのは別れ話をされるのではないかという不安がまだ完全には消えていないからだ。

美琴は上条と会う予定がなくなったので朝食を摂った後、引越しの準備をすることにした。
3月の終わりには新入生が寮に入ってくる。
それまでに卒業生は退寮し新しい下宿先を見つけなければならないが
下宿先については美琴は受かった高校の寮に入る予定なのでなんの問題もない。
だが本当は寮などではなく上条と一緒に住みたかった。
実際美琴は上条に高校生になったら一緒に住みたいと言ったことがある。
上条の寮は男子寮なのでもちろんそこに住むわけにはいかない。
だから他に部屋を借りて住みその費用は私が負担するから、などと説得を試みた。
しかし上条からはお前にお金を払わせるわけにはいかない、とあっさり断られていた。

数時間後、片付けを終えベッドへ倒れこむ。
片付けといってもあと数日はここにいるためすべて片付けてしまうわけではない。
今日行ったのは不要なものの処分と簡単な荷造りだ。

「あらかた片付いたわね……立ち読みでもしてこよっかな」

片づけを終えた美琴は寮にいても暇なので立ち読みをするためコンビニに行くことにした。
だが今日は運が悪くいつものコンビニに読みたい雑誌がなかった。

784 :笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:16:22 ID:93Asf.x.

「あーもう!なんでないのよ…」

愚痴を言いながら少し遠めのコンビニに到着し目当ての雑誌があったため早速立ち読みを開始。
こうしている間だけは不安から逃れることができた。

立ち読みを始めて20分、読みたいものはすべて読み終わった。
移動時間と合わせて1時間ほど時間が経っておりもう昼時であるため昼食を摂るため移動しようとする。

「さてと…次はファミレスにでも……え?」

美琴がコンビニの中から見たもの、それは補習があるといって学校に行っているはずの上条だった。
時刻は12時を少し回ったところ、補習ならまだやっているはずだ。
昼食を食べに来たとしても上条の学校からは離れすぎている。

(なんで…ここに?急に補習がなくなったとか?…いやそれなら連絡をくれるはず…)

不振に思った美琴は上条の後をつけることにした。
話しかけることも考えたが昨日のことと朝のメールのこともあり話しかけずらかった。
上条は全く美琴に気づいていない。

(何を隠してるのかは知らないけど絶対に暴いてやるんだから!)

こうして尾行を始めて30分、すでに美琴のイライラはMAXに近くなっていた。
それもそのはず、この30分の間に上条はフラグを立てまくっていたからだ。
まさに歩くフラグメイカーである。

そこからさらに30分が経過。
フラグを立てまくる以外には特に何も変わったことはなかった。
強いていうならば上条の不幸さが改めてわかったくらいだ。
尾行を始めて1時間近く経ったのにただ第7学区を歩き回るだけの上条。
何件か店に入っていったがそれは食料品の安さを調べているだけで事意外本当に何も起こらない。

(はぁ…何もなさそうだし帰ろうかな…それともここで声をかけようかな……)

あまりの何もなさにいい加減飽きてきた美琴は悩み始めた。
帰るか、声をかけるか、美琴が迷っているときについに上条が動いた。
上条はポケットから取り出した携帯を見てそれに従い歩いていく。
美琴は先ほどまで帰るか、話しかけるかなどと考えていたがもはやそんなことはどうでもよくなっていた。
上条に気づかれないように今まで以上に慎重につけていく。
美琴は自分の鼓動が少し早くなるのを感じた。
するとたどり着いたのはそこそこ大きなマンション。
上条はそのマンションに入っていった。

(まずい!エレベーターを使われたら見失う!)

そう思った美琴は何か策を練ろうとしたが必要なかった。
なぜかエレベーターがこない。
故障中でもないのにだ。
上条はただ一言「不幸だ…」と言うと階段を上っていった。
美琴はそれを見てどう反応していいか困った。

(初めて当麻が不幸でよかったと思っちゃったわ…ごめんね当麻…)

などと心の中で一応謝る。
そんなこんなで目的の階らしい5階に到着。
上条がインターホンを押して誰かが出てくるのを待っているのを美琴は隠れて見ていた。
鼓動は先ほどより早くなっており冷や汗がにじむ。
嫌な予感がする。
美琴はその予感が当たってほしくないと願った。
しかしその願いは叶ってはくれなかった。
出てきたのは昨日の若い女性。
美琴は目の前の現実を信じたくはなかったがその光景は変わらない。
さらに聞こえてきた会話が追い討ちをかける。

『あら、遅かったわね』
『すいません、まだこの辺の道よくわからなくて……』
『ところで本当に彼女さんに内緒でこんなことしていいの?』
『本当は昨日言う予定だったんですけどね、ここまできたら内緒にしとこうと思いまして』
『そうなんだ。まあ私が口出しすることじゃないわね。さ、早く上がって』

そうして上条はその部屋に入っていった。
昨日と違いこの会話ははっきりと聞こえた。
そして美琴は静かにその場を去った。
昨日のように走るのではなく、泣くこともなく、ゆっくりとマンションをあとにした。

785 :笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:18:37 ID:93Asf.x.

美琴は気がつけば常盤台の寮に戻ってきていた。
どうやって帰ってきたかなど覚えていない。
無意識のうちに帰ってきたようだ。

今日の出来事はあまりにもショックが強すぎた。
昨日をはるかに上回る絶望感。
顔は真っ青で全身の震えが止まらない。
昨日はまだ自分の勘違い、ということも十分ありえた。
しかし今日は違う。
上条は自分を捨てた、もう別の女のところへいってしまった。
それがはっきりとわかった、わかってしまった。

ここで今朝の上条のメールを思い出した。
夜には電話かメールをすると書いてあったはずがそのときに別れ話をされるかもしれない。
上条はあの女との会話で内緒にしておくと言っていたが本当に内緒にするとは限らない。
まだ別れたくない、その一心から美琴はポケットから携帯を取り出し電源を切った。


こうして美琴は上条との連絡を絶った。



・・・続く