【通行止めSS】その全てへと感謝するために。【後編】 | とあるSSのクライアント

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「おィ……」

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:05:47.32 ID:WAIchpNIO

その声を聞いた瞬間。
その手が触れた瞬間。

彼女の全身に今までの感覚が蘇る。
動けなくなってから、何も感じることのなかった体に次々と力が戻っていく。

土の匂い。
震える体。
冷たい雨。
乱れた息。
誰かの声。

聞き慣れた少年の声。

それは、懐かしい彼の声。

「おいっ!聞いてンのか!?」

体が動くようになっていることに気づいた打ち止めは、その声がする方向へ視線を上げていく。

震える体を抑えつけて、高鳴る鼓動を抑えつけて、静かに、けれど確実に。

ゆっくりと、ゆっくりと。

そして。

――視線がぶつかった。

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:08:22.29 ID:WAIchpNIO

そこには、彼女にとって余りにも見慣れすぎた少年の姿が。

紅い瞳に白い髪。
細い体に白い肌。

彼女が今、誰よりも一番会いたかった相手。
長い間、ずっと待ち焦がれていた相手。

学園都市最強の超能力者、一方通行がそこにいた。

「お前、何やってンだ……?」

その声は彼女がずっとずっと聞きたかった声で。
その姿は彼女がずっとずっと会いたかった姿で。

何一つとして変わることもなく。

彼は目の前に立っていた。

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:10:28.94 ID:WAIchpNIO

「っ……」

時間が止まり、景色が揺らぐ。
喉が詰まり、上手く話せない。

これはもしかしたら、また夢なのかもしれない。試しに頬を指でつねってみる。
……痛い。夢じゃない。

「だから、何してンだって聞いてンだよ!」

彼の真剣な眼差しが痛いほど訴えかけてくる。

そう、これは現実。夢でも、幻でも、偽物でもない、本当の世界。

それなら目の前にいるこの人は……。

「本、物……? ってミ、サカは、ミサ、カは……、尋ねて、み、たり……」

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:12:31.51 ID:WAIchpNIO

 震え続ける声を必死に振り絞り、どうにか言葉にすることが出来た。

胸が強く締め付けられ、鼻の奥がツンと痛む。
視界が段々ぼやけて、喉から何かがこみ上げる。
後から後から溢れてきて、どんなに頑張っても抑えきれない。


「はァ? …ったり前だろォが。俺はクローンなンざ作った覚えはねェぞ」

その声はそのまま彼女の耳を通して心に突き刺さり、そしてようやく確信する。

今、目の前にいる彼は本物だ。
やっと会えた。
彼はどこにも行っていないし、死んでなんかいなかった。
あれは全部悪い夢だったんだ……、と。

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:14:51.68 ID:WAIchpNIO

 それらを理解した瞬間、彼女の心の中で何かがはじけた。

「ふ…、う、…うわぁぁぁぁぁああああああああああん!!!!」

気づくと目の前にいる彼にしがみついていた。
彼の存在を、大切な人の存在を確かめるように。

彼女の目から大粒の雫が次々とこぼれ落ちていく。

まるで限界までせき止められたダムが決壊するかのように、切ない想いがこみ上げて、溢れる涙は止まらない。

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:17:40.92 ID:WAIchpNIO

「お前……」

突然の出来事に一方通行は戸惑いを隠せないようだったが、今の彼女の状況を見て推測し、ある結論を出す。

「お前まさか…、また誰かになンかされたのか!?」

彼のこの疑問は、今の状況だけを取って見てみれば正常な考えだった。

幼い少女が深夜遅くに誰もいない公園に一人でいること自体がおかしい。
おまけに全身ずぶ濡れになり怪我もしていて、声をかけた瞬間に泣き始めるのだから、何もないと考える人の方が異常だろう。

しかし、今回の場合に限っては、結果的に彼の推測は取り越し苦労の的外れ。

全くの誤解であることを伝えなければいけない。

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:19:47.13 ID:WAIchpNIO

「ひぐっ、うううぅぅぅぅ…」

彼の心配した言葉を聞いて、彼女は情けない気持ちになる。

……ああ。
まただ。
またこの人はミサカの心配をしてくれている。
こうなったのは自業自得なのに……。
笑わなくちゃ。泣いてなんかいられない。

心配しなくても大丈夫だよ。
あなたが心配することなんて何にもないんだよ、っていつものように笑わなくちゃ。

泣いてなんかいられないのに、笑わなくちゃいけないのに、溢れ続ける涙は一向に止まってくれない。

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:22:55.58 ID:WAIchpNIO

「くそったれ、誰だァ? どこの誰にやられた!? 今すぐに見つけ出して……」

「ぐすっ……、ちが、う、違うの、ってミサ、カはミ、サカは、誤解を、解いてみる……」


一方通行の言葉を遮って打ち止めは声を絞り出す。

涙を抑えることが出来ないのなら、笑ってみせることが出来ないのなら。
せめて彼に今までのことを全て話そうと彼女は考えた。

今の自分が彼に対して出来ることなど、それくらいしかないのだから。

「違う……? だったらなンで」

「夢を、ひっく、夢を、見たの……」

「……夢だァ?」

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:27:38.98 ID:WAIchpNIO

「ひぐっ、うん。夢の、中で、あな、たが……、ミサカに二度、と会わ、ないって言って……」

「……はァ?」

「ミサ、カを一人、にして…、どこか、遠くに行っ、ちゃうの……、ぐすっ……」

「…………」

「それ、でね。ひぐっ……、最後には、あな、たが、ミサ、カの前で、血を、流して、し、死ん、じゃってる、の……」

「もうイイ」

「ぐすっ。それ、が……、それ、が現実、になっちゃったら、って思う、と……。
ひっぐ…、怖、くて、怖くっ、てぇ…、いても、たっ、ても、いられなく、なって…、ってミサ、カはミ、サカはぁ…、うぅぅぅ……」

「もうイイ分かったから、それ以上喋ンじゃねェ」

 一方通行はそれだけ言うと、力強く打ち止めを抱き締めた。

雨で冷えた体を温めるように。
怯えた少女を安心させるように。  

「…ぐすっ、ううぅぅぅ…、こわ、かった…、こわかったよぉぉぉぉ…」

彼女もそれに応えるように力を込めて一方通行にしがみつく。

彼がどこかに行ってしまわぬように。
二度と離れることなどないように。

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:35:57.65 ID:WAIchpNIO

暖かくて大きな体だった。

一方通行の体はいつも冷たく細身で、それは今も変わらないはずだ。

しかし、打ち止めにそう感じさせないほどに、彼の存在は大きく、暖かかった。

そこに、かつての悪人としての一方通行の面影は、微塵もない。

「クソガキ、お前には3つほど確認しとくことがある」

「ぐす…、みっ…、つ?」

 彼女の疑問に一方通行は、あァそうだと答え、言葉を続ける。

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:57:55.05 ID:WAIchpNIO

「まず1つ目は、夢なンざ所詮夢だってことだ。
ありゃ人間の脳が勝手に作りだしたものであって現実じゃねェ。
いちいち悪い夢見るたびに振り回されンな。洒落になンねェぞ」

「う、ん…」

「2つ目。俺がテメェを置いて勝手にどこかに行ったりするわけねェだろ。
こンなめンどくせェクソガキを俺以外の一体誰が面倒見てくれるって言うンですかァ?」

「ひっぐ…、う、ん…」

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:05:50.30 ID:WAIchpNIO

「確かに今は離れて暮らしちゃいるが、だからといって二度と会わないなンてことは絶対にねェ。賭けてもいいぜェ?」

そう言うと一方通行はいつものように、さりげなく、当たり前のように、嘲笑した。

「うぅ…、ぐすっ、う、ん…」
 どうしてだろう。
あの人が今言っていることはミサカを安心させるための言葉であって、悲しくなんてないはずなのに。
ましてや、怖くなんてないはずなのに。
さっきよりも涙がたくさん溢れてきてしまうのは。
どうしてだろう。

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:12:59.61 ID:WAIchpNIO

「最後に3つ目。勝手に俺を殺してンじゃねェよ。俺がそんな簡単に負けるわけねェだろ。
それともあれか? テメェはこの俺様が簡単に死ぬとでも思ってンですかァ?」

「うぅ…、思っ、てな、い…、って、ミサ、カは…、ひっぐ」
「テメェにはまだ言いたいことが山ほど残ってンだ」

「うん、うん……」

いつもの会話。
いつもの光景。
いつものあなた。

そんな当たり前のことが嬉しくて。

単純だった日常の大切さを改めて思い知る。

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:19:37.48 ID:WAIchpNIO

「くっだらねェ、さっさと帰ンぞ」

体が宙に浮く。

何が起こったのか、一瞬分からなかった。

「えっ? ……ええっ!?」

それがお姫様抱っこだということに気づくまで、さほど時間はかからなかった。

「うるせェ。元気あンならテメェで歩けクソガキ」

一方通行は目を合わせてはくれなかった。

彼なりの優しさなのだろう。

62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:24:44.46 ID:WAIchpNIO

それがあまりに申し訳なくて、打ち止めは言葉に詰まった。

「……ごめんなさい、ってミサカはミサカは」

「違ェだろォが」

打ち止めの謝罪の言葉を押しつぶすように、彼は突然話を遮った。

「えっ? 何が? ってミサカはあなたの考えてることがちょっぴり分からなかったり」

「テメェが今、言う台詞はそンな下らねェ台詞じゃねェだろ」

64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:32:13.01 ID:WAIchpNIO

ようやく彼の言いたいことが分かったような気がした。

この人はいつもそうだ。

本当に言いたいことは、いつもはっきりと言ってくれない。

だが逆に言えば、はっきりと言わないことは、彼の本心の言葉なのだ。

顔を伏せて、涙を拭う。

いつもの彼女に戻るために。

「ありがとう! ってミサカはミサカは心の底から感謝してみる!」

そう言うと打ち止めは一方通行へと微笑んだ。

きちんと笑えているかは正直、自信がなかった。

それでも、今できる最高の笑顔を彼に見せられた気がした。
久しぶりに、心から笑えた気がした。

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:43:14.00 ID:WAIchpNIO

その言葉を聞いた彼は静かに目を閉じ、いつもの馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「そォだな。テメェはガキらしくハシャいでりゃいいンだよ。余計なことは考えンな」

それは間違いなく、いつもの彼の言葉だった。

嬉しさで胸がいっぱいになり、思わず体は動いていた。

「だ~いすきっ! ってミサカはミサカはあなたに抱きついてみるのっ!」

そう言うと打ち止めは一方通行の胸に飛び込んだ。


彼との出会いと、思い出と、再会と、これからのことに。


その全てへと感謝するために。


~fin~