13-b | 蛇のスカート   

13-b

一たん、「レストラン・市場」に小さな獲物を持って帰る。村上のことが気になったが、再び海岸に降りる。銀色の水の底に、心臓大の貝殻があり拾う。岩陰に腰掛ける。重力感のある貝殻に耳を当てると、ごおっと神秘的な音が聞こえてきた。潮影に落ちたサクランボの浮きを眺めながら、ぼんやりと過ごす。

太陽が四十度ぐらいの角度で西に傾きかけた頃、桂木の漁船がカタカタと音を立て、水飛沫を上げながら戻ってきた。船着き場に着くと、唐沢は岩場に降り立った。その視線は、森に覗く黄色い家に向かっている。

船を降りた唐沢は眉をしかめ、ポケットをまさぐり手帳を取り出した。何か書き込んだらしく、難しい表情でページを捲りながら親指の爪を噛んでいる。

釣り竿を肩に砂浜を歩きながら

「長いこと観察したんですね。で、何か分かりましたか」

唐沢は脇に挟んだ双眼鏡を掴み取り、

「片山さん、驚きましたよ。てっきりこの島は四つの部族に分断されているとばかり思っていましたが、これでよく調べてみると、そんな感じではないですな。お嬢さん率いるインディアンだけが閉じこもっている感じですよ」

意外な事実に声がひっくり返った。

「え! じゃあ、残りは全部一緒なんですか!」

「そんな感じですな。ここだけが孤立しているとしか思えません。映画を作ろうとしただけのことはあって、本物と見紛うような格好でしたな。西も北も東も境目に畑が開墾されていました。敵対しているのなら、北西の境界線や北東辺りであんな畑を作ったり出来るはずがありません。様子を伺うと、これが平然と海岸沿いの道を歩いているのですな」

「みんな野蛮だ」とは聞いていたが、「みんな同じだ」とまでは聞いていなかったので脳天をトンカチで叩かれたような気がした。

「はーっ、じゃあ、残りの三部族は近藤勉の下に一致団結しているんですか」

「そんな感じですな」

唐沢はTシャツ姿だったが、秘書魂か黒鞄を手放さない。双眼鏡を入れ、ハンカチで汗を拭く。書き込まれた手帳を見ながら、何か他の事を考えている。

浜辺を歩きながら黄色い家に戻る。雨に濡れたアダンが光っている。森に入り、泥臭い水溜りの道を踏みながら、

「それで唐沢さん、晶子ちゃんの居所は掴めましたか」

輝きを帯びた眼差しが返ってきた。

「はい。あの少女、多分、あれですな。黒い家の庭に立っていました。やはり西ですな。物凄い羽飾りを付けていました」

「他に何か分かりましたか」

「そうですね。片山さんが言われた通りなのかもしれませんな。最初は野蛮だという先入観で観察していたのですが、普通ですよ。畑には幅広くネットが張ってあり、牛がいました。黒い集落はここの倍の面積はありましたな」

物置部屋に入る。蒸し暑くて溜まらず、窓を一杯に開ける。藁に座った唐沢は水を一杯飲んだ後、思い出したように、

「そうそう、北にも廻りましたが、あそこは崖ですな。寂しそうな場所に白い家が建っていましたよ。北西の海岸に漁船がつけてありました。向こうでも誰かが往復しているのですな」

「あれですか。あづまという、ハブ族の酋長の船ですよ」

「ほお、北では酋長自らが運転するのですか」

あまりの暑さに汗が噴出す。型紙を団扇にして首筋に風を流し込む。

「仲間がいませんからね。映画の脚本かどうか知りませんが、彼はこの島では死神を祀る神官で、まったくの謎の人物なんです。ただ商売に忙しいようですけど」

唐沢は興味を持って口を丸くし、

「ほお、何の商売ですかな」

「それが皆目分からないのです。奄美大島行きのフェリーで出会ったのですが、子犬を海に投げ捨て、事業に失敗したら自分も飛び込むとか、かなり真剣でしたよ。ところがサーフィンをしたり、この島の森をさ迷っていましたから、儲けの薄い商売でしょう。蛇の皮革で身を固めていましたから、多分、ハブの養殖でもやっているのではないですか」

「え? あの猛毒の? 恐ろしい事業ですな」

「あくまで推測ですが、死神を崇拝しているなら、ハブをばら撒いて毒吸い取り器を売るとしたら、ピッタリじゃないですか」