NHKアナウンサーの梅津正樹さんの講演会で,「それって本当にただしいことばなの?」の講演をお聞きした。
梅津アナウンサーは「ナットク日本語塾」で「ことばのおじさん」として有名だ。「これってホメことば?」がNHKみんなの歌で採用され,歌うアナウンサーとしても一躍話題の人となった。梅津さんの話し方は分かりやすく丁寧で,NHKのアナウンサーを指導するアナウンサーという方だけあって,言葉を多方面から論じておられた。ニュースを読むときの苦労話や,視聴者からの無理難題の質問,苦情。様々なご経験から実感されたお話は非常に興味深く,どの世代のどの分野の人も魅了してしまう。
言葉の使い方を出来るだけ適切に大切にされてこられた実践者として,私はとても尊敬している。
開口はじめに,「今日は皆さんと一緒に日本語はどうしたらよいかと考えてみたい。」と言われた。最近の若者は,敬語が使えない,教えても使えない。これはどうしてだろうか?言葉そのものを聞く機会が少ないから話せない。
皆さんは辞書に正しいことが載っているから引くのでしょうが,実は辞書は正しいのではなく,現在使われている言葉の傾向が分かるだけ。例えば「水面」を皆さんはどう読みますか?これは「みのも,みずも,みなも」と様々な読み方があって,どれも正しいのです。
最初に結論から言うと,正しい日本語はない。言語学・国語学上の文法と一致しないときは,文法が間違っている。こんな傾向がある。話し言葉と書き言葉は違うもの。文字では表記できないものもある。
全国には様々な方言がある。各地の方言:ローマ=春菊(山口,福岡,佐賀) ラフランス=消防車(富山)ラーフル=黒板消し
文化が無くなると方言が無くなるかといえばそうでない。方言を使ってもらうと文化を理解できるようになる。だから,皆さんはできるだけ方言を使ってください。
UNESCOの発表では,世界の6000種類ある言語のうちの538語は消滅してしまっていて,632語消滅の危機に晒されていて,600語は脆弱だと言われている。独立言語として話されているアイヌ語や奄美語は,消滅危険語とされている。方言を話している地域の人たちに,むりやり共通語を押し付けるのではよくない。
50年変わらず人々に愛され続けているやきそばやデパートは,その味覚や手法をずっと守っている証拠。
言葉の使い方で,大勢の人○ たくさんの人×なんだそうだ。
人と人とが話をするときに理解できないのはなぜか?言葉の上で日本語は婉曲表現が多い。日本人ははっきりものを言わない,昔はそれで良かった。
話し上手か否かの信頼度を日本人に調査をした。
・言葉よりも態度だと考えている人 74%
・話し上手な人 65%
・ボソボソ言った方がいい 82%
この結果からも,日本人にとって口は禍の元だという考えがあることが分かる。
しかし,今の時代は違う。入社試験の点数が悪くても,面接が良くて採用される。コミュニケーション能力がないとテストが良くても駄目。
(残念ながら,コミュニケーションを身に付けるにはどうしたらよいかの話はありませんでした。)
「花街」(はなまち)という言葉。京都では「かがい」と読む。
NHKには放送や言い回しについての苦情の電話がかかってきて,70代くらいの定年後少し余裕のある方々は,理由を述べてもなかなか聞き入れてくださらない。自分が正しいと思ったら疑わない。日本国語大辞典を参考に,NHKの放送で原稿の読み方などで迷った場合にはよく吟味しはっきりとした理由の元,放送しているということだった。だから,NHKはほぼ間違いないのだろうとお話を伺って思った。
言葉の意味の変化も面白かった。例えば,
素晴しい
元の意味は「みすぼらしい」で,江戸時代は「ひどい,あきれる」という意
味であった。
素敵
「出来すぎ」という意味で,能力以上に出来ることであった。
結構
平安時代は「建築する」という意味であった。江戸時代に入って「良い様」という意味になり,明治期に「十分な様」「これ以上望まない」という意味になる。
新しい
元々は「あらたしい」が平安時代に変わったもの
逆手
「ぎゃくて」「さかて」の両方の読み方があり,意味が違う
現代の若者達の間でよく使われる「やばい」という言葉は,60代の人たちにとっては,良くない事,危ないことを意味していたが,若者にとっては,「やばい水」は「美味しい水」,「やばい可愛い」は「物凄く可愛い」という意味がある。この「やばい」は,自らが虜になってしまうような危ない状況になるくらい夢中になるということだそうだ。
話し言葉で使ってイメージするから行き違いがある。朱色,赤,青といっても,その人のイメージする色が違うのと同じ。信号機の青は明らかに緑色だけれども,青と言ったりする。
「なし崩し」は少しずつ返していくという意味
言葉は使われなくなると変化してしまう。
規則があって言葉があるのではない。どんなに正しい言葉を述べても必ず通じるとはか限らない。
生まれた時から地域社会で使われてきたから,私たちは自然に言葉を身に付けることができたのだ。
方言を大切にしましましょう!