京都ノートルダム女子大学の藤川洋子先生のお話をお聞きしに行ってきた。
(1)発達障害の理解と支援について(非行を通して見えるもの)
最近の少年犯罪は非行のボーダレス化と言われていて,先入観を裏切るような事例が見られてきた。ごく普通のどこらへんにもいるような少年の犯罪が多くなってきたのだ。まさにうちの子に限って!(これは,わたし)
少年たちの犯罪は,凶悪化ではなく特異化している。
暴走族の衰退はリーダーの不在をもたらした。最近の少年犯罪はグループになって群れないのが特徴。
昔よく言われたような「ワル」は減少してきたが,犯罪を起こす少年たちは,不器用で奇異なタイプの少年が目立つようになってきた。
犯罪を犯した少年たちの鑑定医は,犯罪神経医から児童精神科医や小児神経科医へと変化してきた。
ここで疑問となるのは,
・発達障害を持つ少年犯罪者のカギは対人関係なのだろうか?
・対人関係の力とはどのように発達するのであろうか?
ということ。
(発達の道筋)
・乳幼児期 0歳~2歳半
絶対的な保護や優しさそして行動が必要となる。
そこで,基本的な信頼感を得ていく。
「母性剥奪」(マターナル・デプリベーション)は,精神発達の遅滞,非行,抑うつ,急性の悲痛反応など様々な子供の異常状態の原因となる。
・小児期 2歳半~小学校・幼稚園入学
この時期に言葉の獲得をする。(親や兄弟がよい聞き手になる必要がある)
この時期に孤独を経験すると後で社会的に孤立しがちになる。また,親からの悪意,例えば虐待やネグレクトを経験すると,自分を良い人間,価値ある人間だと思えなくなってしまう。
ここで先生がハッとされることを述べられた。
伝播による言葉は何の効果もない。良い感情はもちろんだが,うらやましいとか悔しいとか,悲しいといったネガティブな感情を丁寧に表現するようにする。感情の整理をどのようにしたらよいかを学ぶ。
例えば,子供がおもちゃをとられて悔しい思いをしたら,「悔しかったわね。悲しいね。」と同調して声を掛けてあげること。うらやましかったり悲しかったりした時も,子供に語りかけ耳を傾け同調することが大事であること。あなたが辛いのはよく私も分かるのよ。辛かったわね,苦しかったわねと。
・児童期 6歳~8歳半(小学校1年~3年)
社会に初めて踏み出し,社会的服従の体験,社会的自己調整の体験を得る時期。
経験の質も量も飛躍的に増大する。
非行少年たちと接していると,彼らの生い立ちは決して恵まれたものでないことがある。彼らの口から,「むかつく!うぜえ!」という言葉は頻繁に出てくる。彼ら(非行少年たち)は,彼らを囲む周りの環境は羨ましいことだらけ。
自分の中で自分の感情を整理できないからイライラする。
この児童期までに,親から悪意のある行為を受けた場合(虐待やネグレクト),自分自身を良い人間,価値ある人間だと思えなくなる。
・前思春期 概ね8歳半~10歳
*先生は,この時期が最重要だと述べられた。なぜならば,問題が見えにくいからということだった。
親密欲求が起こり「親友」と水入らずの関係を作る時期に当たる。
相手にとって何が大切かという感受性を持つ「愛」の原型が構築される。
それまで親からの悪意を受けていたとしても,友人やその他の人間との信頼関係を築けたら,以前の「歪み」を修正する大きなチャンスの時期となる。
僕はこの子が好きでこの子と遊びたい,と自ら思い行動することで感受性の訓練になる。
たとえ孤児院で生まれたとしても,他の子供達とうまく付き合える経験をしたときは,感受性が豊かに育つことができる。対人関係を上手く作っていけるのだ。
・思春期初期 概ね10歳~18歳(この時期の幅は非常に広い)
親密要求の対象が,「同類愛」から「異類愛」へと変化する。自分とは違う考えを持った人も理解し受け入れるようになる。
・思春期後期 概ね18歳~22歳
性(男性・女性)的な活動パターンが定まった時点から,全人間的で成熟した対人関係のレパートリーが確立するまでの間を指す。
では,
・発達障害の人間は,生まれつき対人関係を作るのが下手なのだろうか?
・生後,不適切な対人関係を経験すると,ものの感じ方や考え方(認知)が変化するのだろうか?
(虐待(不適切養育)の時期と原因について)
1.乳児期の虐待
養育者の事実や置かれた環境に原因
2.幼児期の虐待
養育者の資質ばかりでなく,子供の発達障害が誘因になっていることも少なくない。(子供に発達障害がある場合,大体50%は育てにくいということが言われている。)
3.児童期の虐待
1.2に加え,家庭不和を反映することが多い。虐待されている子供は,同年齢集団からもいじめに遭いやすい。
児童期中期の虐待が反社会行動に結びつく(M・ラター)
*多くは40歳手前の親の影響をもろに受ける。
(虐待がもたらすもの)
児童期中期以降の虐待・いじめを受けた子供が,誰にもサポートしてもらえず孤立したら,子供の気質によって,反社会行動的になるか非社会的行動をとる。
(②に続く)