慶應義塾大学言語教育シンポジウム
英文解釈法再考
~日本人にふさわしい英語学習法を考える~7月11日(日)
慶應義塾大学 三田キャンパスで行われたシンポジウムに参加した時のことを記しておく。
三田校舎は正門付近が工事中で入ることが出来なかったので,会場に一番近い門まで行こうと,山手線の田町駅からタクシーで向かった。
大学の広さを想定して,北門を探して回る手間を考えたら,開始時間もすれすれだったためそうせざるを得なかった。
タクシーの運転手は,懇切丁寧に駅周辺や慶應義塾大学のことを説明してくれた。
北門は住宅街に面していて,イタリアの大使館が隣接している関係で,車の乗り入れが困難だった。だから私は東門から入った。
タクシーの運転手には,初乗りの710円を払い,お礼を述べて降りた。
入り口にはガードマンの男性がいて,北館ホールまでの道順を教えてくれる。
ゆるい階段を上った右手に,お洒落なゴシック様式の図書館があって,左手の小さな広場には福沢諭吉像があった。残念ながら後姿だけしか見えなかったが,よくテレビで映し出される場所なのだなぁと思いながら足早に立ち去った。
そのすぐ右手に北館ホールが見えた。かなり急ぎ足で走って向かったが,今でもその光景が残っているくらい印象的だった。
私が入ると会場はもうすでに多くの聴衆が座られていて,前方以外に座る場所が見つからず,舞台の目の前に座ることとなった。
せわしく席に着こうとする私をじっと見るまなざしを感じたので,目をやると,昨年夏の大津先生の言語講座でご一緒した方だった。すぐさまご挨拶をして,お隣に座らせてもらった。
生まれたときから(多分),一匹女狼のように行動する私なのだが,お知り合いがいることで随分とリラックスし,緊張がほぐれた。歳のせいかしらとも思う。
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最初に大津先生からの日程説明があり,言語学の重鎮でおられる東北大学の名誉教授の安井 稔先生(米寿)からのお話があり(すみません,お会いするまで全然存じ上げませんでした。),小説家の坂上 弘さんのお話もお聞きすることが出来た。
まずは,江利川春雄先生(和歌山大学教育学部教授)から登壇。
先生は,雑誌:新英語教育,最近では英語教育(こちらは絶対購入しませんが)に,頻繁に寄稿されているし,著書も多数購入し読んでいたので,今回のシンポで初めてお会いしたのだったが,なんだか初めてでないような感じがしていた。
「英文解釈法の歴史的意義と現代的課題」というタイトルでお話しされた。
先生が問題提起されたいことは,以下の通り
1.会話偏重下での英語力低下。「わからない」・「きらい」という生徒の増加
2.誤りの根源は,オーラル中心のESL(第2言語)型学習法にあるのではないか。
3.英文解釈法の最評価と,正当な活用を。
4.英文解釈法を核とした日本人にふさわしいEFL(外国語)型の英語学習法を。
であった。
1995年から2002年までの英語能力値平均は,1995年が0.26程度で,1996年の平成元年の学習指導要領の中学校実施開始年の子供達が中学3年生になるころに,0.05まで急激に落ち込み,その後2002年まで落ち続け,-0.15になる。すなわち,英語力は軒並み下がり続け,英語嫌いも量産していることとなっている。
会話重視の英語教育は,11年の間ずっと,子供達の英語力低下を引き起こしている。
特に,「読む」「書く」力が深刻な低下に見舞われている。(週3時間に減らされた中学3年間の英語教育を受けた生徒が高校に入学した2005年度以下が大きい。)
センター試験に関していえば,1996年から1998年の一年で,偏差値が10下がった。この時期にちょうどオーラルコミュニケーションが導入された。その後,微々たる上下の変動があるにせよ,1996年以前の偏差値に戻ることが出来なくなっている。
1997年以降の偏差値50は,それ以前の偏差値40程度に相当している。
会話重視の教科書でどうなったかというと,1950年代に中学生だった人に比べ,現在は3分の1の語彙数となり,同じ単語の反復練習の回数も15・7回から9.1となった。
訳読に頼らず,多読で???と言われるが,
伊藤和夫の批判に寄れば,
『多読が重要である』と言われる。だが,そもそも読むことが出来ない者に多読と言ったところで,それは多くを読んでいるのではなく,多くを誤解しているのに過ぎない。
(中略)訳読法批判の結果,現実にはわれわれは方法以前,つまり,『読書百篇,義おのずから通ず』の域に退行したのではないだろうか。最近の文法軽視の傾向と相まって,現在の英語教育の成果はかつての訳読中心時代のレベルにも達していないのではないか。(『英文解教室』1977)
伊藤和夫さんの英文解釈の参考書は,今回登壇された先生方3人とも強くもっとも優れた英文解釈本だとお勧めくださった。
伊藤和夫さんは,駿河台予備校の先生をされていた方で,生涯独身の貫かれ,彼が亡くなった後の10億円もの遺産は,看護師養成のため奨学金として赤十字へ寄付されたそうだ。
つづく・・・・