先生方がどのようにして言語に興味を持つようになったのか,どうやって外国語を身に付けたのか,言語学とはどういうものなのかを分かりやすく口語調に書かれている。あっという間に読めてとても良い本だった。
先生方の実体験が赤裸々に書かれていることで,その先生方にも子供時代・青年時代があって,言語が特別な人間のものでなく万民に与えられたものであることと,意識の違い次第では先生方のような素晴しい能力を発揮できる可能性があることが分かる。
それぞれの先生に影響を与えたであろう教師の存在や周りの大人の存在も特筆すべき点だ。
十代の子供達だけでなく,言語を教える先生方にも是非読んでいただきたい。
以前,私(女王様)のブログで,言語脳科学者の酒井邦嘉氏の研究を取り上げたことがあったが,
酒井先生の文も「ことばの宇宙への旅立ち2」にあり,やはり注目される研究者の方は他人との着眼点が異なっているのだと感じた。酒井先生が科学に興味を持ったのは,小学校から中学校にかけてだそうだ。科学に関する本を読むのが大好きで,科学に対する憧れがあったと述べられている。
小学校でもっとも大きな影響を受けたのが理科の先生であり,高校時代には朝永振一郎全集を読破。書名に「アインシュタイン」と書かれているものは片っ端から読んだらしい。この時点で,もう凡人とは違う。
言語にたいする興味が芽生えたのが始めたばかりの中学校の一年生の時で,素朴な憧れがあったということだ。英語が新しい世界への一つの扉のような感じがしたと言われている。
英語に踏み込む一般的な方法は英会話なのだろうが,先生はちょつと違っていて「刑事コロンボ」の洋書を自力で読んで英語力を身に付けたそうだ。これば凄いことだと思った。英語の先生はもっと異なった角度からの外国語学習のアプローチも考えたほうがいい。生徒は十人十色なので,大多数の者にしっくりくるからといって,それが将来才能の芽を伸ばすことのできるであろう一青年に通じるかと言えば,それは通じない。全く。むしろ邪魔にならないようにするほうが大事。
酒井先生の英語の学習法も非常に興味深い。(これは実際に購入してご覧になってください)
酒井先生が高校3年生のときに手にした洋書は,『My Tompkins in Wornderland』(不思議の国のトムキンス)。これは現代物理学の不思議な世界を一般向けに分かりやすく書いた名著らしい。
物理といえば,私(女王様)は,苦手中の苦手教科の一つであった。物理の先生からすれば,私のような者は,犬とさして変わらない感じだったかもしれない。直接言われていたらショックだが,きっとそんな感じだったと思う。そのような凄い教科を極められる,楽しみを見出せる酒井先生は本当に凄い。
「言語学と物理学の幸福な関係」という部分で,先生は述べておられる。言語学は物理学だと。
これを知った時点で,物理の苦手な私(女王様)は言語学に関して少し腰が引ける。過去の苦い思い出が蘇る。駄目でしょうよ,きっと。
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後半で酒井先生は子供達にメッセージを送る。
「十で神童」と言いますが,数学や楽器演奏,将棋や囲碁,そして語学に共通して,十代の前半に特別な才能が開花することが知られています。
こうした能力に共通しているのは,どれも規則性の中にもある程度まで自由な発想が求められるような「創造的な力」であって,大人の理性や論理的な思考能力にも勝る「自然な力」を生み出すという点です。
将棋の棋士の羽生善治さんは,この力を「体内時計のようなもの」と表現していました。
十代はその人の将来を作る時間です。これほど貴重な時間は,後で確保しようとするほど大変になります。自問自答して悩み続けた過程が,おそらく将来をかなり左右することでしょう。そうした意味で「十代は決め手」だと言えるのです。
「リアルな対話を大切に」
心を伝えるつまり自分の意思を誤解なく相手に伝えるためには,実際会って話しても足らないくらいなのです。相手の目を見るだけでも,言葉を超えた真心を伝えられる可能性がありますね。メールで手軽に用が済む時代だからこそ,リアルな対話を楽しみましょう。
対話は単なる言葉のキャッチボールではないのです。
相手の言葉を通して相手の心を解釈し,それを解釈している自分の心を反芻する。また,自分が発した言葉を相手の心がどのように受け止めるかを,自分の心であらかじめ想像する。これほどまでに複雑なプロセスが,リアルな対話を作り上げているということを想像してみてください。「人間の言語を通して心に至る」という点が,脳の持つとても奥深い力の特徴なのですね。
追加:
2の本の帯についた推薦の言葉は軽すぎて,この本の良さは全く伝わらない。
日本語だけでなく外国語に対する言語にも関わっており,日本の外国語教師,大多数である英語教師への痛烈な批判の書。指導のヒントとなる良書として私は読んだ。
私達英語を教える教師達は,私達より優れた英語の習得者や実践者(英語教育をファッションにしてしまっている人たちのまやかしの話でないもの)のリアルな話をしっかりと聞いて現場に戻り,一人でも多くの子供達の才能の芽を伸ばせる影響を与えられるように自身も勉強してならねばならない。
日本の言語教師は,違った角度からの言語的なアプローチを考え,子供の興味関心を引き出していけたらこんなに素晴しい職業はないと感じる。
そう考えると俄然やる気も出てくるのだ。
ことばの宇宙への旅立ち―10代からの言語学

ことばの宇宙への旅立ち〈2〉10代からの言語学
