インクルーシブ教育の時代のテクノロジー支援のあり方 | 誰もが違うということを前提とした教育にしていこう!

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主に特別支援教育、インクルーシブ教育、ASD、ADHD、LD等について書いていましたが、社会全体が大きく変わってきており、特定した話だけでは答えのない答えを導き出せない時代がやってきたと感じています。そのため何でも思いつくままに書いています。

WirelessWire News
子どもが「スタートライン」を揃えるための情報武装を

「魔法のプロジェクト」2014成果報告会

1月24日、東京大学先端科学技術研究センター、ソフトバンクモバイル、株式会社エデュアスによる携帯情報端末を活用した障がい児の学習・生活支援を行う事例研究プロジェクト「魔法のプロジェクト2014 魔法のワンド」成果報告会が開催された。

「魔法のプロジェクト」は、携帯電話・スマートフォン等の情報端末の活用が障害を持つ子どもたちの生活や学習支援に役立つことを目指し、2009年にスタートした。これまでに「あきちゃんの魔法のポケットプロジェクト」「魔法のふでばこプロジェクト」「魔法のじゅうたんプロジェクト」「魔法のランププロジェクト」を実施してきた。支援の範囲は障がいのある子どもたちとの教室でのコミュニケーション支援から、校内での学習にとどまらず日常生活、社会参加促進へと広がっており、今年度の「魔法のワンド」プロジェクトでは、障がいのある子供達が携帯情報端末を日常生活で強力な武器として活用していく事をテーマとしている。

報告会冒頭の共通シンポジウム「タブレット・医療・教育」では、東京大学先端科学技術センター人間支援工学教授 中邑賢龍教授と東京大学先端科学技術研究センター研究員で眼科医であり産業医でもある三宅琢氏により、「テクノロジーを使った支援」をテーマにした対話が行われた。

中邑教授は電動車いすに乗って登壇。「車いすを『かっこいい、僕もほしい』と障がいのない子どもが言うような教室を目指すべきでは」と提言した。

*医療も教育も、「テクノロジーで大きく変わることに意味がある」

三宅氏は眼科医として、「完治できない病気に対して医師に何ができるのか」という問題意識から、情報技術を使った視覚障害ケアに関心を持ったという。現在、眼科では、「治療できない患者に対するiPadを使った視覚障害ケア」が教科書の最後で紹介されるようになっており、「見えるようになる」ことよりも「目が見えなくてもテクノロジーで生活が大きく変化する方が患者にとっては意味がある」という考え方が医療の現場でも広がりつつあることを紹介した。

一方で、中邑教授は、「ハイブリッドに医療とテクノロジーを組み合わせて効果を出す ことが当然になってくる時代に、今まで教育が行ってきた訓練はどうなるのだろうか」と問題提起した。たとえば電動車いすを使えば歩けない子どもも速いスピードで動けるが、「電動車いすを使ってみんなと同じ速さで走りたい」と言う子どもには車いすを買い与えるよりも「まず自分で歩けるようにがんばってみなさい」と言うだろう、ということだ。中邑教授は会場に向かって「肢体不自由児のクラスで、小学校低学年で電動車いすを使っている子どもはいますか」と問いかけたが、挙手はなかった。

これに対して三宅氏は、「医療の世界でも『どの段階で視覚障害の人にiPadを使わせればいいのか』と聞かれるが、は患者さんを満足させなくては意味がないので、『今すぐ使って下さい』と答える」と回答。中邑氏も、テクノロジーか訓練かの二択ではなく、両方使えば良いと同意した。

*インクルーシブ教育の時代のテクノロジー支援のあり方

続いて中邑教授は、障がいのある子供が普通教室で学ぶ「インクルーシブ教育」の時代に、みんなと一緒に学ぶためにはスタートラインを揃えることが重要であると指摘。障がいのために子どもが今学ぶべきことを学べないことが将来どのような結果につながるのかを考えるべきであり、そこにテクノロジーを利用できるのではないかとした。三宅氏は、「教育と医療は違うと思われがちだが同じだと思っている。患者さんが困っているのは未来ではなく今であり、子どもにとっても『学校についていけるか』ということが一番大きな問題」と答えた。

中邑教授は「障がいのある子どもたちを電子武装する」ことの重要性を説いた。同じクラスの中で学びの速度差が開いていくことで、障がいのある子は障がいの無い子に依存しなくてはいけなくなる。特別支援学校時代には周囲も皆同じだったので「自分だけできない」「友達に依存しなくてはいけない」と自信を失うことはなかったが、統合教育によって追いつめられる子どもが出てくることに対する危惧を表明した。

アメリカでは「同じように学ぶ」ために、書けない子はタブレットを使って書く、動けない子は電動車いすで移動することが必須となっており、障がいのない子どもが速く走れる電動車いすの子どもをうらやましがるようなことも起こっている。日本でもそのようなことを目指すべきではないかとした。

*「学びに対するアドバイス」をする学校医へ

三宅氏は産業医の経験から、「産業医には病名を診断することには意味がなく、患者が困っていることを取り除くために必要なのがテクノロジーなのか、リハビリなのか、トレーニングなのかをアドバイスしてあげるのが役目。障がい者ケアも同じだと思う」と発言。中邑教授は「三宅先生のような人に新しい時代の学校医になってほしい」と述べ、学校医にも、健康維持のための健康診断だけではなく、学びに対するアドバイスをする役割を期待するとした。

最後にまとめとして中邑教授は、教育現場へのIT機器導入について「知的反射神経を鍛えるためのものではなく、子どもが苦手な部分を補助するための使い方の方がまっとうだと思うし、今の教育を変えていくと思っている。三宅先生のような、医師の中でもそういう人が増えていることに期待したい」と述べた。

共通シンポジウムのあとは、プロジェクト参加76校のうち20校が事例を発表。また、会場では、各校の取り組みがポスターセッションとして紹介された。