を観ました。

前回の『グランド・ブタペスト・ホテル』に引き続き、こちらもプライム会員特典作品になっておりました。
公開時、映画館で見逃してそろそろレンタルをと考えていたので、文字通り、果報は寝て待てですね。

 

 

では、大まかなストーリーを、と思ったら、思わず全編解説になってしまいました。長いです。

舞台は第二次世界大戦下、若干翳りが見え始めてきたナチスドイツ。母親と二人暮らしの少年ジョジョは、空想上の友人アドルフ(ヒトラー)の叱咤激励を受けながら、憧れのヒトラーユーゲント(青少年組織)の一員となりました。立派な兵士になる為、日々奮闘するジョジョは、訓練中、自分の投げた手榴弾の誤爆により病院へ運ばれます。奇跡的に命はとりとめたものの、顔と足に大きな怪我を負ってしまったジョジョは、兵士の訓練には参加することができなくなってしまいました。そんな息子の落ち込んだ姿を見て、母親は組織へ乗り込み直談判。ビラ貼りなどの奉仕活動をすることになります。
(このシーン好きだわぁ↓)

 

 

 

ある日、家に帰ると、亡くなった姉、インゲの部屋から物音が。隠し扉を見つけたジョジョがその扉を開けると、中にはユダヤ人の少女エルサが。
組織に通報すれば、母親もジョジョ自身も処刑されると脅すエルサ。実はエルサは母親が匿っていたのですが、その事を知らないジョジョは、組織にも母親にもこの事を秘密にします。通報しないかわりに、本を書くためのユダヤ人の秘密を教えてもらうという交換条件のもとユダヤ人の秘密を質問するジョジョ。ある日、エルサから色々な話を聞いているうちに口論となってしまい、その仕返しに、エルサの恋人ネエサンからの手紙を見つけたと言ってジョジョが捏造した嘘の手紙を読み始めます。その酷い内容に何も言わず扉を閉ざし泣いてしまったエルサに、酷い事を言ってしまったと気づいたジョジョは、2通目の手紙があると再び捏造した手紙を読み、慰めます。
エルサとの出会いによって、自分が想像していた悪魔のようなユダヤ人と現実のユダヤ人との違い、反して、母親が口にする言葉や行動の端々に感じるレジスタンスの思想にジョジョの心は揺れ動きます。


ここからはほぼネタバレになってしまうので、観てない方や内容を知りたくない方は見ないで下さい。

ーーーーーネタバレ始ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


金属回収の奉仕活動をしていたジョジョは、その最中、町の片隅に何かをそっと置いていく母親の姿を見かけます。近づいてみるとそこには「ドイツを開放せよ」というビラが。母親がレジスタンスの一員であることを確信したジョジョ。家に帰りやけになりつつエルサと話しているうちにお腹の中に蝶々が飛び回る様な痛みを感じます。それは、以前、母親とサイクリングに行った時に「愛なんて僕にはきっとわからない。」と言うジョジョに、母親が言った、恋をしたら感じる、という痛みでした。
そんな複雑な感情を抱き始めたジョジョに突然の訪問者が。ナチスドイツの秘密警察、ゲシュタポが家にやってきたのです。その後直ぐに、ビラ貼りのビラを持ってきたという、ユーゲントで隊員の世話役を務める義眼の大尉、通称キャプテンKもやって来ました。
ゲシュタポが家を捜索し始める中、姉と偽り姿を現わすエルサ。不信に思ったゲシュタポの一員ディエルツ大尉が身分証明書を求めます。机の引き出しから身分証明書を探し出し、キャプテンKに渡すと生年月日を尋ねられるたエルサ。「1929年5月1日」の答えに、怪訝な面持ちながらも「問題ない」と答えるキャプテンK。
皆が帰った後、上手くいったと喜んでいるジョジョに、「7日よ」と言うエルサ。実はインゲの誕生日は5月1日ではなく7日だったのです。そのうちまたやってくる、バレたら殺されると不安になるエルサに、姉インゲが死んだことは誰も知らないのでバレることはないと慰め、全て母親ロージーに話そうと提案するジョジョ。
しかし、エルサの嫌な予感は違った形で的中します。
奉仕活動中のジョジョは綺麗な蝶々が飛んでいるのを見つけます。ひらひらと舞っている蝶々を追いかけていくと、目の前に見覚えのある靴が現れます。それは母ロージーの靴でした。
以前、ビラ貼りの任務を任された後、広場へ出ると、見せしめの為に絞首刑にされた人たちの姿がありました。目を背けたジョジョに、ロージーは「見なさい」と言い「何をしたの?」というジョジョに「やれること」と答えたロージー。
そこには何人かの処刑者と共に、正にやれるとことをやりきった母親の姿があったのです。しばらくの間、呆然とその光景を眺めるジョジョ。

町の家の窓もまるでそれを眺める傍観者の目の様に見えてきます。(個人的感想)

家に帰り、怒りの矛先をユダヤ人であるエルサに向けるジョジョ。その肩を短剣で刺すも、エルサに抑えられ、ひとりぼっちになってしまった寂しさに泣き崩れてしまいます。
その夜、窓から遠くに見える爆撃を眺めながら、エルサと話しをします。母親ロージーと戦地に行っていると教えられていた父親もレジスタンスの活動をしていたこと、ジョジョを心配させない為にそのことを隠していたこと。
「自由になったら何をしたい?」というジョジョの問いかけに「ダンス」と答えるエルサ。この答えに、エルサの肩にもたれかかるジョジョ。

以前、ロージーが言っていた「命は贈り物なの。目一杯楽しまないと。ダンスで表現するの。生きる喜びや感謝を。」という言葉を思い出し、エルサに亡き母の面影を感じたのかもしれない。(個人的感想)

その後、一人で生きる決意をし、日々を暮らすジョジョの町も遂に激戦地になります。軍人、民間人、男、女、子供、関係なく戦い、死んでいく姿を、まるで夢の中の光景の様に眺めるジョジョ。その中には以前、自分でデザインしたという軍服とライフル銃の絵を見せてくれたその軍服と銃を手に、咥えタバコでほほ笑むキャプテンKと側近フィンケルの姿もありました。まるで何かから開放されたかのような誇らしげな姿で、激戦地に乗り込んでいきました。

 

 

戦いが終わり、町を歩いていると、敵軍人に捉えられてしまったジョジョは、そこで傷だらけになったキャプテンKに遭遇します。怯えるジョジョに「怖れるな、俺を見ろ。」と言い「母さんのことは残念だ。いい人だった。」と告げるキャプテンK。涙を流すジョジョに「本当にいい人だった。だろ?」と更に元気づけます。優しい言葉に、抱き着くジョジョに「もう泣くな。」と慰め、以前ジョジョから聞いたユダヤ人を研究した本「おーいユダヤ人」を独創的だと褒め、笑って悪かったと謝ります。そして、ジョジョを立たせ「大丈夫だ、お前はやっていける。家に帰ってお姉さんの面倒をみてやれ、いいな。」と言うと、ジョジョが羽織っていた軍服を脱がせ、「失せろ、ユダヤ人!」とジョジョを突き放します。ジョジョをユダヤ人に見せかけてその場から逃がしてあげたのです。

何といういい奴、キャプテンK。すっかり惚れてしまったね。ということで、この俳優さん誰?雰囲気的にはゲイリー・オールドマンに似てる、と思って調べたところ、サム・ロックウェルという俳優さん。私の観た映画では、あの『グリーンマイル』の双子の少女殺しの真犯人、嫌ーな囚人のワイルド・ビルを演じていた人でした。

さて、ストーリーに戻ります。

家に戻り、壁越しに「外で何があったの?もう出ても大丈夫?」と聞くエルサに、ひとりぼっちになってしまう不安から「ダメだ」と言い、更に「どっちが勝ったの?」というエルサに、「ドイツが勝った」と嘘をついてしまうジョジョ。しかし、亡くなった姉、インゲの写真、いつか書いたユダヤ人の秘密を研究した本、そこに描かれた母とのサイクリングの絵、そして、最後ページに描かれた鳥籠に入れられたウサギとその鳥籠の鍵を握りしめ立っている少年の絵を見て決心します。
白紙のページを破り、ジョジョと脱出計画を立てたというエルサの恋人からの偽の手紙を読み始めます。そして最後に、ジョジョの心配はするな。奴なら大丈夫。パリで待ってるよ。ネエサンより。と付け加えます。
手紙を読み終えた後、扉を開け、既に恋人は亡くなっているという真実を告げるエルサ。そして、「今まで優しくしてくれてありがとう」とジョジョに感謝を伝えます。それを聞いたジョジョは「実を言うと君を愛してる。君にとっては弟だろうけど、それでも構わない。」と告白します。しどろもどろになっているジョジョに「私も愛してる。」と伝えるエルサ。「弟として?」とジョジョが聞くと「そう、弟として。」と答えるエルサに、ジョジョは「僕と偽ネイサンで君の脱出計画を立てたんだ。弟を信じてみる気はある?」と尋ねます。「信じる」と答えたエルサにホッとしたように「じゃ、荷物をまとめて。外に出よう。」と伝えるジョジョ。
鏡に向かい「ジョジョ・ベッツラー、10才と6か月。今日からやれることをやる。」と、決意表明をします。
そこへ空想上の友人アドルフが現れ、ジョジョを必死に説得し、ナチスのカギ十字の腕章を付け戻ってこいと懇願しますが、ジョジョの決意は固く、「くたばれヒトラー!」と一蹴し、ナチスと決別します。

因みにこのヒトラー役を演じた俳優さんこそ、監督、脚本も務めたタイカ・ワイティティであることは、後から知りました。

 

 

 

準備を整え家のドアの前に立つエルサ。解けた靴紐に気付き結んであげるジョジョ。

母親に結んで貰った靴紐。母親が履いていた靴紐を一生懸命結ぼうとしても結べなかったあの日。エルサに結んであげた靴紐に、ジョジョの成長と決意を感じました。(個人的感想)

「ねぇ、外は危険なの?」というエルサに、「ものすごくね。」と答え、家のドアを開けるジョジョ。恐る恐る外に出たエルサの前に、「もう自由だ!」とアメリカ国旗を持った軍人を乗せた車が横切って行きます。
嘘をつかれた事に気づき、振り返り、ジョジョに歩み寄るエルサ。したり顔で「脱出成功」というジョジョにビンタをします。頷きながら「今のは当然だと思う」そして、「で、どうするの?」と言うジョジョを見つめながら少しずつ体を揺するエルサ、つられてジョジョも徐々に体を揺らし、(ジョークを言ったつもりはない)二人笑顔でダンスをし始めます。自由になった瞬間です。そして、バックに流れるはデビッド・ボウイの『Helden』。名曲『Heroes』ドイツ語バージョンです。

 

 

因みは映画の冒頭は、ビートルズの『抱きしめたい』のドイツ語バージョンで始まります。
 

エンドロールにも注目です。
 

Let everything happen to you
(全てを経験せよ)
Beauty and terror
(美も恐怖も)
Just keep going
(生き続けよ)
No feeling is final
(絶望が最後ではない)

-Rainer Maria Rilke
(R.M.リルケ)

とてもいい詩なのですが、これって直訳なんですかね?
最後の"絶望が最後ではない"…がどうも入ってこないんですよね。
しかもリルケって元はドイツ語ですよね?
この英詩自体訳されてる可能性もある。

と、いうわけで、バカな私に分かりやすい翻訳を教えてください。指差し


この映画で印象的なのが、スカーレット・ヨハンソンが演じる母親ロージーの存在。その強さと明るさ、言動が、暗いナチスドイツ時代の戦下に反して、より彩り美しく胸に刺さります。

 

 

結局ロージーはレジスタンスの一員でしたが、ナチス信者のジョジョに対して決してそれを咎めることをしません。それよりももっと豊かで楽しい世界を話して聞かせるのです。
それは匿っていたエルサにも同じで、現状に絶望する彼女に、「一人でもユダヤ人が生き残れば連中(ナチス)の負け。昨日も今日も捕まらなかった。きっと明日もそう。いい?きっと明日も生き残るのよ。」と勇気づけます。
大人の女が分からないというエルサには「怖れず人を信じること、それが大人の女よ。」
どうすれば相手が信用できる人かわかるの?という質問には「ただ信じる。」と。

シンプルですが実に力強い言葉に彼女の美しさと強さが滲み出ます。(個人的感想)

そしてもう一人、個人的に、この映画である意味重要なポジションであったと思われるのが、ジョジョの親友ヨーキーです。偶にしか出てこないのですが、いちいち引っかかる言葉を残していくのです。
ジョジョと同じく、ユーゲントに入り、立派に少年兵士となって戦っているのですが、この偏った世界にいながらにして、とても中立で素直な思想の持主。
任務中、金属回収をしていたジョジョに遭った時、ジョジョが「ユダヤ人を捕まえた。本物だ。」と神妙な面持ちで告白するも、「先月僕も隠れていて見つかったユダヤ人を見たんだ。正直言って大騒ぎするほどじゃなかったね。ちっとも怖くないんだ。僕らと同じだよね。」と平然と答えます。
戦いの最中、ジョジョに遭った時も、ジョジョが前に話したユダヤ人が彼女になったことを話すと「すごい、やるじゃんジョジョ、彼女かよ。」と素直に喜んでくれます。「でも、その、ユダヤ人だ。」と戸惑うジョジョにまたしても「ユダヤ人なんて大した人たちじゃないよ。それよりロシア人の方が恐ろしい。」と。そして、ヒトラーが死んだ事をジョジョに伝えると「ヒトラーは裏で色々悪い事をしてた。僕ら本当は間違えてたのかも…。」と常に冷静で素直な目線で世界を見つめています。

こいつは大物になる。(個人的感想)

ーーーーーネタバレ終ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

予告だけ見ると、コメディタッチの戦争映画かと思われます。私もその方向で観始めましたが、実は人間の本質と大切なことを難しくない言葉でストレートに教えてくれる映画でした。戦争映画ではどうしても重たくなってしまう部分、確かにそれも大切ですが、それを上回る人間の素敵な部分を際立たせる映画があっても、十分に戦争の残酷さは伝わると思いました。

ジョジョ・ラビット公式HP(20th Century Studios)