〇きっかけ

 お香について調べた折、’香木’という言葉をよく目にした。香木とはどんなものなのか、現在でも用いられることがあるのか、詳しく知りたくなった。

 そこで実際に香木の香りを聞き、詳しいことについて学ぶべく、東京のお香やさんである「香源」のお店を訪ねることにした。

 

 

 香源 上野桜木店ではお線香作り体験を実施している。こちらの体験ではお線香作りを体験できるだけでなく、香木や香の原料について詳しく学ぶこともできる。

 

〇香木とは

 ずばり、香りがする木のことである。香炉を使って香木を温めることで、香り立たせる方法で楽しむ。お香で用いられるで特に有名なものは以下の3つである。

 

・白檀

 インドやインドネシア、フィジーに分布する香木。産地によって香りが異なるとされ、インドのものが特に高価とされる。白檀から抽出された精油はサンダルウッドとしてアロマの世界でも親しまれている。火をつけずとも、木そのものから香りが漂う。そのため、白檀で作った扇子は仰ぐと香りも楽しむことができる。

 お香では木の芯や根の部分を使用し、これを数年~数十年寝かせることで香り立たせる。値段は10gで400円~1000円ほどとされている。

 

 香りを聞いてみると、普段楽しんでいる白檀の線香よりも辛みのあるすっきりとした香りがした。THEお寺の香りという感じ。

 

・沈香

 東南アジア、中国に分布する香木。木を傷つけられた時に出る樹液が、50年~150年ほど熟成されることで、特有の芳香を放つようになる。

 樹液が付着することで木が重くなり、やがて水に沈むようになることから、’沈香’と呼ばれるようになった。白檀と違い、高温で焚かれることにより、芳香を強く放つようになる。

 値段は10gで5000円~10万円ほど。中でも産地がベトナムのものがより格が高く、高価だとされる。

 

 サンプルの沈香の香木を実際に聞かせてもらったが、やはり白檀よりも香りは弱く感じた。高温で焚かれてはじめて香りを嗜むことができるようだ。それでも普通の木よりいい香りがすると感じた。まさにお寺のお焼香の香りに似ている。

 

・伽羅

 沈香の中でも特に品質が高いとされるもの。ベトナムの限られた一部の地域でしか産出されない。

 沈香との違いは芳香成分の樹脂の含有量。香木に対する樹脂の割合が50%ほどとかなり含まれている。これほど多くの樹脂が分泌されるのは、「木が病気の状態」にあるからだそう。伽羅が採取される森林では近くに海があることで、海風によって夜間に気温が下がり、昼と夜の寒暖差が激しくなる。厳しい寒暖差が木が病気になる原因だと考えられている。

 お値段は1g1万円以上とのこと。ひえ~。昨今、伽羅の木を採取する人の高齢化のため、採取される量が減ってきており、ますます値段が高くなっているとのこと。若い人は香木をとるような危険な仕事につきたがらないとのことで、人手不足が生産にダメージを与えており、もう新しいものは採取されないのでは?と危惧されている。

 

 香源のお店で実際に販売されているものを聞かせていただいた。お店の方が「これで大体300gです。」といって伽羅の入った袋をポンと渡してくれた。「じゃあ、300万ですか!?」と思わずびっくりして声を上げてしまった。

 香りはズバリ沈香の香りを強くした感じ。常温でもしっかり香るので、焚いてみるとさらに強く香り立つだろう。お店の方によれば、「五味全ての香りがするとされるので、特に貴重とされてきました。」とのこと。

 

 こんなこと、お店ではぜっっったいに言えないことなのだが、感じたままに言うとカブトムシを獲りに行った樹液の出る木のような香りがした。

 

※五味

・甘 蜜のような甘さ

・酸 梅のようなすっぱさ

・辛 香辛料のようなスパイシーさ

・苦 薬を煎じたような苦さ

・鹹 汗とりのような塩辛さ

 

〇ふりかえり

 香木はどれも日本には自生しておらず、例え育てたとしても環境が異なるため、同じ香りにはならないそうだ。加えて、香り立つためには何年、何十年、時には何百年もの年月を要する。今回聞かせていただいた香木はどれも、日本から海を隔てた遠国で、長い長い年月をかけて香り立ってきたものだ。そう考えると、非常に趣深く感じた。

 また伽羅の木の採取の人手不足の話も興味深かった。そして、白檀や沈香の木が人が香りを楽しむために、乱獲されてしまうことも問題になっているそうだ。はからずもサステナブルのヒントを香木からつかむいい機会になった。

香源さんで実際に販売されている伽羅の香木を刻んだもの。