いつものように午前1時ころに
帰ってきたマイペ彼女のゆうちゃん

帰るよLINEに反応できず
ベッドで熟睡していた彼氏は
玄関ドアが開く音で
目が覚めた


おかえり
今日もおつかれさまだったね
お迎えに行けなくてゴメンね


起こした?
大丈夫
タクシーで帰ったから


彼女がコートを脱いで
指輪やイヤリングを外す仕草を
虚ろな眼差しで見つめる

レム睡眠に入っていた彼氏は
かろうじて意識はあるものの
いつものように跳ね起きることができず
やっとのことで労いの言葉をかける

何かを決意したように
凛々しい顔をした彼女は
まどろみの中でもがく彼氏の
ベッドサイドにぺたんと座り


話す?


と断って話を始める





ごめん
私は本当にアプリの存在自体を忘れてて

LINEを見てやっと言いたいことがわかった
私は変わらないといけないかもしれない
でも変われないかもしれない

わからない
言いたかったことは
コレじゃない気がする

でも信じてほしい
付き合ってから
男の人と2人でご飯に行ったことは
一度もないの

そういうのはイヤだって聞いてたから
わたしその約束は守ってる



オレは相当な不器用で
よく彼女を泣かせてしまうけど

彼女もたいがい不器用で
オレを安心させるのが下手だ



それでも譲れないものは譲れない
はっきりと口にする彼女だからこそ
こうした話になっても
適当に誤魔化されてイライラすることがない

覚醒し始めた議論好きな彼氏が
彼女を巻き込んで午前3時に
再び突入すると


マジになるとホントに怖いよね
暴力的な怖さというより
森林が枯れて砂漠が全方位に広がって
誰も近づけなくなるみたい


なんて笑われて
ようやくハッと我にかえる
こうして自分の至らなさも
きちんと指摘してもらえる


日付が変わって木曜日
あの人は久しぶりにoffだ

彼女が東カレデートから
消えていることを確認して
オレも退会してアプリを消した

彼女に合わせて午後半休を取る


いま恵比寿にいるけど
何かお昼に買って帰るものある?


いつものふたりのやりとり
そんな日常が何より幸せだ


恵比寿にいるなら
サラダが食べたい
あとはスープかな


こんなミッションを与えられたら
彼氏として燃えないわけがない

結局行き着いたのは
恵比寿のアトレにあるRF1

スーツ姿の長身の男が
腰をかがめて真剣な眼差し

炙りまぐろやサーモンのサラダも美味しそう
でも彼女ならチキンサラダを選ぶだろうな
あとはあと参鶏湯も美味しそう


さらにリクエストの
唐揚げを買ってハッと気づく



全部…鶏肉だ…


家に到着してすぐに彼女に謝る
爆笑したすっぴんのあの人は後ろ手に
美味しかったらいいよと言った

遅く起きた彼女と
午前中にひと仕事終わった彼氏の
久しぶりのデートのはじまり

東カレデートにいた女性たちは
確かに皆さん美しかった

それでも
こんな彼女より素敵な人を
アプリの中のどこにも
見つけられなかった