空へのあこがれ
フライトトレーニング : 失速からの回復
離着陸の訓練をしつつ、時々、訓練空域に出かけて行って、安全な高度(3000ft~3500ft)を確保して、失速の体験と、その状態からの回復操作を習う.
失速(Stall)とは
失速とは、翼の揚力がなくなり、翼の作る揚力で飛行機を支えられなった状態.
飛行機は、通常の飛行中は、翼の揚力によって支えられており、体感的には、下から何かでグッと支えられているような安定感があるのだが、失速に入った途端に、下からのつっかえ棒が取れて、そのままの姿勢で落下してゆくような感覚になる.
飛行機の翼で作られる揚力は、翼の上面を流れる気流によって生じる.
飛行方向(風が流れてくる向き)と翼の角度との差を迎角(Angle of Attack)という.
迎角が大きくなるほど、揚力(翼が上に持ち上げる力)は大きくなるが、迎角が大きくなりすぎると、翼の上面を流れる気流が、翼の表面から剥がれてしまう.
これを、気流の剥離という.
剥離が生じると、翼は揚力を発生しなくなり、飛行機の重さを支えられない.
その結果、その高度を維持できなくなる.
この状態を失速(Stall)と呼ぶ.
(CFI JapanさんのHPからの図をお借りしてます)
失速が生じる条件は、
・翼の迎角が大きくなりすぎ、気流の剥離が生じた場合
・翼が作る揚力より、翼の荷重が大きくなりすぎて、翼がその重さを支えられなくなった場合
失速が生じると:
・ゆっくりと機首が下がる姿勢変化が生じる
・姿勢変化よりも早く高度が失われてゆく
(重力加速度が小さくなるので、体重が軽くなったような感じがする.場合によっては、シートからお尻が浮きそうな感じとなる)
・多くの場合、剥離した乱流が水平尾翼に当たるので、操縦輪にバフィング(バタバタとした振動)を感じる
失速からの回復の練習
<Power On Stall (パワーオンストール)>
離陸上昇時を想定して行う失速訓練
(エンジンはフルパワー)
1.普通の水平飛行から、一旦、パワーを下げ、速度を70KIAS辺りまで落とす.
2.離陸時と同じ条件に似せて、フルパワーでVyで上昇姿勢にする(エンジン2700〜2750rpm)
3.Vyよりも、さらに強く操縦輪を後ろに引き、強い機首あげ姿勢にする.
(機首が上がると同時に、速度が落ちてくる)
(運転席からは、空しか見えなくなる.ほぼ50〜70°位上を向く)
(速度が45KIASを切る位に下がると、、、)
5.失速警報がピーッと鳴り、操縦輪にガクガクとバフィング(振動)を感じる
(失速の初期段階)
6.その姿勢を維持していると、2秒くらいで、機首がガクンと下がり始めると同時に飛行機の高度が下がり始める
(体が少し浮き気味に感じる)
(失速降下の状態になる)
ーーー 回復操作 ーーー
1.操縦輪をグッと押し、機首を下(-10°ほど)に向け、降下姿勢にする.
(エンジンがフルパワーなので、速度がグングンと増加)
2.速度がVx(75KIAS)を超えたら、姿勢を水平に戻し始める
(エンジン回転数が高いので、さらに飛行速度が上がる)
3.Vyを超えたら、その速度を保つように機首を上げ、速度を制御する
(離陸上昇の時と同じ状況となる)
(元の高度に戻ったら)
パワーオンストールからの回復操作が完了
この失速は、離陸上昇中、操縦輪を引きすぎて、飛行機が上を向いてしまって失速した時の状況を想定した回復訓練.
エンジンがフルパワー状態なので、AOAを戻せば、比較的容易に回復させられる.
戦闘機や莫大なパワーのエンジンを持つ飛行機だと、上を向いても上昇できるが、小型機や一般の飛行機は、失速に入ってしまうので、この経験はそれなりに大切となる.
<Power Off Stall (パワーオフストール)>
着陸時を想定して、エンジン出力を絞った状態で生じさせる失速
(これは、着陸時、ベースやファイナルレッグでのターンの時に生じやすい低速での失速を想定した訓練)
1.着陸のベースレッグかファイナルレッグと同じセッティングにする
ベースレッグ: エンジン1500rpm、速度80KIAS、フラップ30°
ファイナルレッグ:エンジン1200rpm、速度70KIAS、フラップ45°
(穏やかに降下している状態)
2.その状態で、操縦輪を手前に引いてゆく
(機首が上に向き、速度が落ちてゆく)
3.機首が10°〜30°ほど上むきになり、飛行機の高度が維持できず、降下が始まり、水平尾翼にバフィング(ガタガタという振動)を感じる.
(失速状態に陥った)
ーーー 回復操作 ーーー
1.(それまで絞っていた)パワーをマックスにすると同時に、操縦輪を押して、機首を下向きにする(-15〜-30°位)
2.速度が上がってきたら、60〜70KIASに維持するようにピッチをコントロールする
(フラップが出ているので、この速度で、どんどん高度を上げ始める)
3.(想定していた地面の高さよりも)300ft程度の高度が確保され、速度が75KIASより大きければ、フラップを格納し、離陸時と同じような上昇時のセッティングにして、安全な高度に昇る(普通は、パタン高度1,000ft AGLか、ホールディング高度3,000ft AGL)
これで、パワーオフストールからの回復が完了
注意する事:
パワーオン、パワーオフ、両方において、失速前後の飛行機が上を向いて、速度を失った時にラダーを操作しないこと.
失速近辺の状態で、ラダーを切ると、容易にスピン(錐揉み)に入ってしまい、回復させるのに1,000ftほど高度を失ってしまう.
なので、失速の(体験や)訓練は、3,000ft以上の高度を取って、万が一の時の、回復操作に余裕があるような高度で行う.
また、特にパワーオフストールは、着陸時の場周経路で生じやすい条件で、着陸の時に生じた時の対応の練習となり、とても重要.
このストール(失速)からの回復操作は、フライトレビュー(6ヶ月以上飛ばなかった時、最初のフライト時に、インストラクターが技能の維持をチェックする)の際、必ず実施される試験科目の一つとなっている.