空へのあこがれ

 

飛行機では、自機が飛んでいる方向を、磁気コンパス(磁石を使って方位を示す装置)を使って決めている

 

先の記事で、飛行機が磁方位(磁気コンパス)を基準にして方向を決めていることを紹介しました.


 

ところが、この磁方位は、結構、曲者(クセモノ)なのである。

 


日本近辺では、

磁石の「北」は、地球の自転軸の北(真方位という)を向いていない」のだ。

 

なぜなら、


磁石の北(地球の磁極)は、現在、グリーンランドの北辺りにあり、北極点(地球の自転軸:地軸)とは違った場所にあるからだ.


「地磁気北極は2020年には北緯80.7度、西経72.7度のクイーンエリザベス諸島付近」にあると計算されている(出典:京大のHP:磁石の北と地磁気極と磁極 (kyoto-u.ac.jp)より).


 

赤い点が地磁気の極(正確には磁極とはずれている。地磁気極が、方位磁石が示す北の場所)


(もっと厳密に言うと、磁力線の北は、数カ所に広がっていて、それを南極の磁力線との平均的な双極子として見立てた時の極なので、ズレが生じている)

 

ということで、

フライトプランを作る時、先ずは、地球の自転軸を北(真方位)として描かれているチャート(地図)を元に飛行経路のプランを立てる.

これによって決められた飛行方向(真方位)を、実際に飛んでいる際に飛行機上で利用する北(磁方位)に、補正しなければならない.

 

これを偏差と呼ぶ.


飛行機でフライトする際、この偏差を理解したうえで、飛行方向(Flight headding)を決めなければならない。

この偏差は、地球上の場所によって、夫々違っている.


 

飛行機を目的地まで飛ばす際、どちらに向けて飛ばすかを検討する資料として、

セクショナルチャート(区分航空図)

というものがある(VFRでの場合).


セクショナルチャート(区分航空図)の例.


この図では、南紀白浜空港周辺の部分を切り取って表示している.

・右にあるメモリ付きの縦の線が、経度線(上が、真方位の北を示している)

・下辺に近い所に描かれているメモリ付きの水平な線が緯度線.

・丸い円の上、やや左上に「矢印」、「0」と書かれている向きが、磁方位の北を示している.

・丸い円の中心は、南紀白浜空港(にある)VOR・DMEというVHFの電波標識.

この図を見ると、真方位と磁方位の間に  西に約6度ほどの偏差(違い)があることがわかる


円の中心から左上に向かって描かれている楔形に146°と描かれているのは、

南紀白浜空港の滑走路の進入方位で、磁方位で146°(南東)と言う意味.

この空港では、空港の滑走路番号は、15ー33 と表記される.

  この番号は、磁方位なので、飛行機のコンパスや方位指示器の方位を146°にすれば、進入方向と一致する.

 



米国で訓練していたKFDK(Frederick municipal airport)付近では、偏差が西に10.5°

なので、チャートから、飛行計画を作る際には、

 

1.チャート上で、出発地と目的地の間に直線を引き、飛行ルートを決める.

 

2.チャート上で、飛行ルートの方位角(地図上での緯度線・経度線に対する角度)を測る(真方位)

 

3.その場所での、磁方位への補正量(偏差:KFDKだと10.5°W)を足して(東の場合には引く)、実際に飛ぶ際に、コンパスでの目標とする磁方位を決める


 

実際に飛ぶ時は、

この偏差の補正に加え、気象条件(風の方位、速度)を考慮し、飛行機の機首の向き(ヘディング)を計算して決める..

 

 

20世紀、航空機が発達し、北極圈経由での、フライトを行い始めた時、問題が生じた.

高緯度ルートで飛ぶと、地磁気による方位の決定ができなくなるのだ.(コンパスが役に立たなくなる)


そこで、補助的に、(戦略爆撃機のような)長距離飛行する場合には、天測(星、太陽、月などの位置と、その時刻から経度や緯度を測定する)航法が用いられてきた.

  第二次大戦に使われていた戦略爆撃機などには、天井にドーム型の天測窓が取り付けられていたり、昔の旅客機には、上側に窓がつけられている場合があったのは、そのためである.

  昔の大航海時代も、(地球が丸いと理解されたあとは)天測によって経度や緯度を知れるようになった.

  それに使う道具(天体の高さを測る道具)が、四分儀、六分儀、八分儀と呼ばれる器具・装置だ.

(これらの言葉は、今は、星座の名前くらいにしか使われていないけれど、元々はそういう意味)

 

天測でも経度や緯度を知ることができるようになったが、それなりの技術と時間がかかるのが難点だった.そこで、飛行機では、慣性航法装置というものを作り出した.

慣性航法装置は、別記事で書いているジャイロそのものでもある.

北極付近で、地磁気が計測できなくても、一定の方向を指し続けるジャイロによって、飛行機をまっすぐに飛ばし続けることができるようになった.

しかし、前述のように、ジャイロは誤差が生じ、それを補正できないと、その誤差が蓄積するという欠点も持ち合わせていた.


そのため、昔は、MF(中波帯:いわゆるAMラジオの電波帯)などの電波を使って、位置の把握などをしていた.


少し前までの航空機(日本では、現在でも多くの小型機は積んでいる)には、NDB受信機というものがあり、AMラジオ局などの電波を受信して、その方位を知る装置が積まれていた.

少なくとも、場所がわかっている2つのラジオ局の方位が分かれば、その交点に自分が居るので、すぐに自機の位置を割り出せる.

そのため、日本のフライトチャートには、AM送信局の場所が(周波数とともに)記載されている.


区分航空図に示されているラジオ局のデータ.

赤丸で囲んだ部分が、ラジオ局のデータ部分:

   BSとは、Broad Cast :ラジオ局の意味、箱の中に周波数(KHz)が書かれている.

   赤で一緒に囲んである🔺印は、送信鉄塔(タワー)の場所を示している.


私自身も、一緒に飛ばしてもらっていたパイパーターボアローも、NDBを積んでいて、房総半島沖から、御宿のラジオ局の電波を受信して、そこにホーミングナビゲーションした経験もある.

AMラジオ局の多くは、日本各地にあり、夜間でも送信しているので、自機の場所を把握するには便利なツールでもある.


「トラトラトラ」という昔の映画の中で、真珠湾攻撃に向かった、爆撃・雷撃・戦闘機隊の隊長機が、ハワイ放送を受信して、「これがハワイの音楽や!」と言っているシーンがある.

これは、音楽を聴くためではなく、電探(電波探知機:今で言うNDB)で、ハワイ島の送信所の方位を確かめる作業を描いている.


船舶の世界では、長らく、ロランCという長波帯(500Khzより低い周波数の電波)の電波標識が、世界に4か所に設置されていた.そこから、地球全体で受信できるように、強力な電波を送信していた.

それを使って、地球上での自分の位置を測定できていた.


長波は、地表に沿って電波が届くので、地球上のかなりの場所まで、信号を伝えることができる.

一方、長波(波長が長い電波の意味)は、波長が長く、アンテナも長大となり、大型の船舶でないと受信感度を良くすることが難しいという欠点もあった.

外洋を走る船は、一般的に大きい(外洋のうねりは、最大300mほどの周期であるため、大型でないと揺れてしまう)ので、長波による位置測定が70年ほど利用されてきていた.


GPSが便利になった現在、既に、ロランCは廃止されていて、船舶もこの受信機を積んではいない.


最近では、人工衛星を使ったGPSを使って自機の位置をかなり正確に把握することができるようになった.

GPSで計測される方位は、真方位であるので、ここでも、注意が必要だ.


ちなみに、飛行機でもGPSの測位データを利用している(米国では)が、その際は、少なくとも12機のGPS衛星の信号を参照して、その空間的な位置を計算することになっている.

従って、米国においては、GPS搭載の飛行機が、それを利用してフライトする際の、プリフライトチェックにおいて、幾つのGPS衛星の信号を受信しているかをチェックする項目が含まれている.

(GPSは、その機能的性質から、少なくとも4個の衛星からの信号を受信していれば、位置を計算できるとされている.航空機における位置情報は、正確を記するため、上のような安全には安全を考えた規則で運用されている)