空へのあこがれ
フライトトレーニング グランドスクール②-2
1.航空力学・飛行機の構造・計器などの知識
飛行機の主翼と重心位置、速度計については、前回述べた
次は、高度計についての知識を整理する.
高度計(Altimater):
気圧高度計は、大気圧を計測し、高度に換算して表示する計器.
標準的な高度計には、3本の指針が付けられている.
太くて長い針:数字は、1,00 ft毎
太くて細い針:数字は、1,000ft毎
細くて先に三角が付いた針:数字は、10,000ftの高さを示す
(写真の高度計は、420ft を示している)
気圧は、地表からの高度が高くなるに従って小さくなってゆくので、地上での大気圧と、その高さにおける大気圧とを比べることで、その場所の高さを測ることができる.
この原理を使った計器が、気圧高度計.
しかし、
地表の大気圧は「一定ではない」.
天気予報などで、「高気圧」「低気圧」などの表現を聞いた事がある方がほとんどだと思うが、地表において、大気圧は常に変化している.
つまり、高度を測る基準としている地上の気圧が、時々刻々と変化している.
比較する基準が、その時々によって変わってしまうと、高度計で示されている値も変わってしまう.
そのため、高度計は、
使用開始前に「その場所での大気圧で補正する」
作業を行ってから使用.
使う前に、地上の気圧に補正をすることで、正しい高度情報が得られる.
その時に使う、補正の値(つまり、地表での気圧:設定値)がQNHと呼ばれる数値.
各空港では、その場所(地表)での気圧を常時計測し.QNHの値を飛行機に対して情報提供している.
地上において(離陸前)補正する場合には、QNHを知る必要はない.
何故なら、
高度計の針を、離陸する滑走路の標高を示すようにセットすれば、
必然的にその場所でのQNHをセットしたことになるからだ.
<例>
Frederick municipal airport は、標高が303ftである.
したがって、離陸前に、高度計の針が303ftを指すように、補正ノブを回して補正すれば、その周辺地域に関して、正しい高度を示す補正が完了した事になる.
小難しい理屈は抜きにして、「離陸前にその地点の標高を示すようにセットする」だけの話なのだ.
計器メーカーのHP https://www.aeroexpo.online/prod/simkits/product-171501-72876.html より引用
アナログ高度計の拡大写真: 左右の窓に数字が表示されているのが判る.
左下のノブを回すとで、この数字盤を動かし、気圧の補正値を設定する.
この高度計では、補正値に関しては、左側はmm、右側はインチ単位で値を設定できるように作られている。
通常はインチ単位で情報提供されるが、欧州ではm系(メートル単位系)なので、mmでの情報が提供される事がある.
しかし、飛行中では、そうは行かない.なぜなら、飛行中に、いちいち、地面まで降りて気圧の補正をする作業ができないからだ.
In Flight の状況では、
離陸した空港から離れてしまうと、その飛行地域での地表の気圧が異なってくるので、高度計の指示が不確かとなってしまう。
そこで、航空管制においては、その管制が受け持つ範囲の飛行機に対して、その近辺での平均的な気圧補正値を(共通して)使うことで、飛行機毎の高度計指示の誤差を解消している.
飛行中に、地域の航空管制(ATC)にコンタクトし、レーダーフォローイング(レーダーで追跡して見守ってもらう)や計器飛行(レーダーにより決まった飛行経路をフライトする方法)のリクエストすると、そのレーダーエリアで使われている気圧補正値を知らせて(指定して)くれる.
気圧補正値を、地域で統一して使う理由:
最近のほとんどの飛行機には、モードCトランスポンダーというものが積まれている.
トランスポンダーとは、
レーダー波を受けると、その電波に対して、パルス電波を返したり、自機の登録番号や高度などを自動的に返信する装置.
これにより、航空管制レーダー画面上には、
レーダー波の反射による点(方向・距離の情報)のみならず、
飛行機の登録番号、高度やなどが同時に表示されるようになる(モードCトランスポンダーがレスポンスした場合)..
(米国では10年ほど前、全航空機に対してモードCトランスポンダーの搭載を義務付けている)
この時、表示される高度が、周りの飛行機と同じ基準で計測されるように、QNHを同じ値に設定するというわけだ.
(補足)
ここ5〜8年ほどは、さらに、この情報に追加して、GPSによる3次元位置情報、飛行速度、飛行方向等々の情報を返信するADSーBという装置が詰まれることが多くなった.
当初、ADSーBの装置は、高価であったが、最近は、(米国では)15万円ほどまで価格が下がったものまで売られている.
昨今は、付近を飛行するADSーBの信号を受信することで、自機の位置と比較することで、空中衝突の可能性を計算し、ニアミスを防ぐソフトウェアが、急速に広まりつつある.
羽田の事故を契機に、ADSーBをビーコン(定期的に電波を送信する装置)と勘違いしている記事やYoutubeでの解説動画をよく見かける.
勉強をしてきていない、素人の人が、知ったかぶりで、間違った情報をばら撒くのは、非常に危険だし、社会の弊害以外の何者でもないと感じる.
ADSーBは、ビーコンではなく、トランスポンダーの一つであり、(地上からの)レーダー波に対する返事をする装置である.
レーダー(Radio detectiing and ranging):
レーダーとは、電波(極超短波)のパルスを発信し、それが物体に当たって、跳ね返ってくる信号を受信し、その時のアンテナの方向と、反射波が帰ってくるまで掛かった時間を測定する事により、物体までの方向と距離を示す装置.1940年頃に実用化された.
レーダー画面上には、「対象物の距離と方位」(モードA)のみの光の点として表示される、高さや移動方向、移動速度などは判らない(一回のスキャンでは).
また、距離が遠くなると、物体の検出が難しくなり、解像度も下がる.
そこで、40年ほど前から、レーター波を受けると、それに対して(アクティブに)「返事を返す装置」が開発された.
これが、トランスポンダー(応答装置)と呼ばる装置.
初期のトランスポンダーは、単に、「受信したレーダー波」に対して、少し周波数をずらして「返信電波を発信する」装置だった.
これだけでも、レーダーの精度や、遠距離までの探索などが容易になった(モードB).
その後、この応答電波に、「(自機の)高度」や「自機の識別符号」をデジタル信号として載せる装置が普及した.
これが、モードCトランスポンダーと呼ばれる装置.
これによって、レーダー画面上には、モードBと同じ光の点、以外に、その飛行機の登録番号、飛行高度などが表示されるようになった.
長距離用レーダーでは、レーダーアンテナが一回転するのには、およそ8秒かかる.
つまり、モードCの情報や、ADSーBの位置情報は、最大8秒遅れた情報を示しているということを頭に入れておかなければならない.
同時に、管制官からの情報も同じで、「何秒後」とかのアドバイザリーがあっても、実際に空で起こっているのは、その数秒前に生じるということを理解しておく必要がある.
(空港に設置されている短距離用レーダーは、アンテナが一周するのにかかる時間は、2〜4秒なので、情報の遅れも少ない)
話をQNHの設定に戻すと
飛行高度が18,000ft(米国では14,000ft)より高い所(この空域をクラスA空域と呼ぶ)を飛ぶ場合、
「世界中のどこであってもQNHを29.98インチに設定する」という取り決めになっている.
この数字は、地球上の標準的な大気圧で、標準的な海面からの高さを示す基準とされている.
18,000ft(地表から、約6,000m以上)より高い高度になると、日本では、衝突する地表物体がないので、多少の誤差が出ても、危険がなくなる高度となる.
そこで、それ以上の高度では、地表の気圧に関係なく、同じ基準値29.98を使うことで、統一した高度の管理を行なっている.
また、この値に設定した後、高度を指す時には「高度 xxxxxft」とは言わず、「フライトレベル FLxxx」と表現する.
フライトレベルは、x100ft単位なので、35,000ftでは、 FL350 (フライトレベル スリー ファイブ ゼロ)と言う.
高度が2,000ft辺りから低い高度は、
電波(レーダー)を使って精密に地表までの距離を計測できる電波高度計がある.
旅客機等では、着陸時、着陸直前の高度は、これを使って精密に地表までの距離を計測している.
小型機では、操縦席が機体の底面と近いので、電波高度計を設置するメリットはない.
補正値(QNH)
気圧補正(QNH)の値は、地域や気象により違ってくる.
その時々のQNHの値は、タワーやATCから情報を提供される場合もあるし、多くの空港では、気圧を自動計測しており、その他の気象情報(風向、風速、気温、露点、視程、雲の情報)などと共に、自動的に無線や電話サービスにより提供している.
無人や小規模の空港では、気象情報のみを自動的に24時間観測して(原則、1時間に一回更新.著しい天候の変化があると、その都度更新)送信している:AWOS:Automated weather observation system 或いは 自動気象観測装置、ASOS:Automated sir-round oveservation system 自動地表観測装置.
これらの情報は、無線だけではなく、自動応答の電話サービスでも使う事ができる.
最近では、
(特に日本では)気象情報以外に、空港の運用情報を含めた情報としてATIS(automated terminal information system : 自動空港情報システム)に気象情報を含めた情報を流す事が多い.この情報の中に、その空港のその時点でのQNH値の情報が含まれている.
小型機で、クロスカントリーなどで14,000ft以下の高度で、長時間・長距離飛ぶ場合:
飛行中に、飛行経路沿いの近くの空港のAWOSやATISを受信し、その地域のQNHで高度計を補正し、できるだけ正しい高度を得られるようにする.
(レーダーフォローイングや、計器飛行の場合には、ATCよりQNHの設定値を指定されるので、このような作業は不要)
(レーダーサービスでは、近くの空港のQNHを把握していて、その値を教えてくれる)
<AWOSの例>
" Frederik municipal airport automated weather observation 1400 zuru wind 220 at 8 gust 14 visibility 5 miles temperature 23 celsius due-point 18 degrees 12 broken 20 cumulous 35 scatter QNH 2997"
(フレデリック市営空港、自動気象観測 世界標準時1400 風向220° 強さ8ノット、時々突風14ノット、視程5マイル(以上)
気温23℃、露点18℃、1,200ft 切れ切れの雲、2,000ftに積雲、少しの雲が3500ft、気圧補正値 2997(インチ))
<ATISの例>
"Kobe airport infomation Osker wind 090 at 4 visibility 5 kirometers tempurture 23 celcius duepoint 20 celcius using runway 27 "
(神戸空港、情報番号O、風向 90°方向から 4m /秒、視程5km(以上)、気温23℃、露点20℃、使用している滑走路は27方向)
その他、ATISには、空港の情報(例えば、アクティブ(使用中)滑走路が09だとか、アプローチライトが故障中とか、滑走路脇で工事中とか、滑走路からxマイル北に、建物工事中などの情報)も載せて送信している.
小型の飛行機(Piper PA-28-181)のコックピット計器類