空へのあこがれ

 

FAR(米国連邦航空法)には、パイロットの操縦技能証明を得るための条件の中に、「英語が、話せて、聞けて、読める事」という条件が記されている。

(昔から書かれている)

 

この理由を考察してみる(長文になってしまい申し訳ありません)

 

 

近年、ICAOが、パイロットに英語での意思疎通ができる能力を証明しなければならないという規則を作った。

そのため、日本では、国際フライトの際は、英語能力証明書を携帯するように法律が変わった。

 

しかし、米国において、FARのこのルールは、全く別の意味合いで作られていると私は考えている。

 

 

 

 

何故、米国ではPilotが英語が話せて、聞けて、読めなければならないのか

 

航空機は

無線通信によって、お互いの意思疎通をしている。

 

 

なので、

無線(音声会話)を通じて意思疎通ができないと危険な状況に陥ったりする可能性がある、

 

FAAは無線通信を通じて、意思の疎通ができることで、安全を確保したいのだ。

 

 

 

 

そもそも、航空無線用語を使った航空無線は、(英語がネイティブな)米国人が聞いても半分も分からないと思う。

 

そういう意味では、航空無線での英語は、それほど必須と言えない.

むしろ、専門用語を使い、不要な主、前置詞や冠詞を省き、英語としてはおかしいような表現となっている.

 

なので、通常の航空無線においては、それのような専門用語での意思の疎通に慣れていれば、本来は、英語の能力なんて、それほど求められない.(現に、日本でも、そういう意味での英語でもない航空無線が使われている)

 

 

 

 

では、どういう意味で、

 

(一般の米国人が使うような)

普通の日常英会話の能力を持っていてくれという要求をしているかと考えてみると、、、、、

 

 

 

 

管制塔が運用されていない空港(米国では、約9割の空港は管制塔が運用されていない、所謂、ノンタワー)では、CTAF(common traffic advisory frequency)と呼ばれる周波数(空港毎に割り当てられている)で、自機の位置や、今後の予定(intention)を放送(ブローとキャスト)し、周囲の航空機に、自機の動きを伝えながら運行するのが、普通の手続きとなる。

 

 

こういう環境だと、飛行機同士での情報のやりとりの場面が、結構生じる。

 

<具体例>

管制塔が運用されていない空港で、場周経路での練習をしていた:

 

自分の位置を周囲の飛行機に知らせるために、CTAF周波数で、

 

自分: "Frederick traffic, Archer 415CA, turning Down wind  23, frederick"

(Frederick周辺の飛行機へ、N415CAはFrederick空港の滑走路23の場周経路のCross Windから、DownWindに旋回しています)

 

と放送したりする。

 

この無線を聞いた他機は、

  1。飛んでいるのは、Piperの単発機(速度は、おおよそ90〜110KIAS)

  2。飛行高度は(場周経路なので)1300ft (空港によって決まっている。KFDKだと1300ft)

  3。飛んでいる場所は、Frederick AirportのRwy23のLeft パタンのDown windの上流付近(旋回中か、旋回直後なので)

との情報を理解する。

 

 

そこに、外来機が着陸のために飛来してきたとする

   ノンタワーの空港では、外来機は(計器進入以外は)基本的に、一旦、場周経路のDown windに入り、滑走路を左に視認してから、着陸の手順に入る。

 

 

外来機が、

"Comanch 2345W, is 5 miles out for Down wind mid field 23. Frederick"

(コマンチ2345W、滑走路23のDownWind中央の外側5マイルにいる)

 

と、CTAFで送信したとする.

 

それを聞いた自分は、

 

・2345Wは、機種がパイパーコマンチ(双発の比較的速い飛行機)で、速度は130KIAS位

・2345Wは、(5マイルだと)20-30秒程で、自分(DownWindに入った所)より先に、割り込んでくる可能性がある

・場周経路に入ろうとしているので、入る時点で、同じ高度になるはずだから、現在も、ほぼ同じ高さか、少し上に見えるはず

などが理解される。

 

 

そこで、

相手機を視認しようと探索を始める

・自機と同じ高さ(か、少し高め)

・右前方〜右方に居るはず

の条件を頭に入れ、相手機の探索を始める。

同時に、時刻をチェック

 

 

探索の結果、

無事に相手機を見つけられ(in sight)れば、お互いの経路とぶつからないように調整(速度を変えたり、一旦、自分が場周経路パタンからブレーク(離脱)したり)ができることになる.

 

 

 

相手機を見つけることができなかった場合は、事は深刻で、

 

"2345W, archer 415CA couldn't find you.  Where are you ?   Now, (I) passing Downwind midfield.  415CA"

(2345Wさん、私はあなたを視認できません。何処飛んでますか?  (こちらは)ちょうど、Downwind Midfieldを通過したとことです。)

 

とか、

 

"2345W, (say or ) geve your position. I can't find you ( or Negative contact)  !" 

(何処飛んでいますか?(場所教えて?)? 貴機を見つけられません)

 

 

などの普通の日常会話で、相手との位置関係の確認をしなければならなくなる。

 

 

"415CA,  2345W, insight you.  I flying behaind you. 2345W"

(415CAさん、こちら2345W、こちらは、あなたの後ろを飛んでいます)

 

という返事がきた。どうりで、こちらから見えないはずだ。

私の後ろを飛んでいるのだから。

 

 

この時点で、ホッとした。

相手機は、コチラが見えているということなので、空中衝突の心配はなくなった。

 

ただ、相手機の方が飛行速度が速いので、コチラは、早めに(短めに)着陸するように場周経路をショートカットして着陸を考える。

 

 

 

結局、こういう会話ができるようにしてね。というのが、FAAが要求している英語を理解・話す・書けるための能力

 

 

 

<他の例>

計器飛行訓練中、ある丘を超えるところでELT(遭難緊急信号発信器:121.5Mhz)の信号を受信していた.

 

往路では、それが聞こえた時、インストラクターと顔を見合わせ、「誰かスイッチ切り忘れかな?」 位で通過。

しかし、20分くらい後、復路でもその場所を通過した際、ELT信号は、まだ、送信され続けていた。

 

 

そこで、ATCに対して、

 

"Potomac control, Cessna 2334J, We're hearing continuous ELT signal.  at Current positon、the maximum signal strength. 2334J"

(ポトマック航空管制、こちらはセスナ2334J、我々は、連続した遭難信号の電波を受信しています。この辺りが最大の強さです)

と、連続した遭難信号を受信した事をリポートした。

 

計器飛行中、あるいは、レーダーフォローイング中であれば、ATCは、こちらの場所をレーダー上で把握しているので、特別に座標などを言わなくても良い。

 

 

 

しかし、レーダーフォローイングをリクエストしていない状況(例えばスコーク1200でのフライト中)などであれば、

 

"Potomac control, Cessna 2334J, We're hearing continuous ELT signal.  Position Radial 210 degrees, 35 miles from MRB-VOR. 2334J"

(ポトマック交通部、415CA、連続的なELTの信号を受信しています。場所は、MRB-VOR電波標識から、215度の方向で、35マイルの所です)

 

など、場所情報も追加する方が親切。

こういう時のATCとの会話も、普通の英会話で、

ATCからは、

「その信号は、どのくらいの時間発信され続けていますか?」 とか、「どの辺りから聞こえ始めましたか?」とか問い合わされたりする。

これも、普通の英会話。

 

こういう、会話(意思の疎通)ができることをFARでは求めている。

 

 

 

 

 

日本の航空交通管制でも通常は英語を基本としているが、

 

機微な内容の伝達緊急に相手に正確な情報を伝えたい時は「日本語」で通信をしている。

 

 

ATCは、通常は、英語によるコントロールがされている。

しかし、何回か呼び出しても、相手が返事をしない場合などでは、

 

" JAxxxx, JAxxxx 返事しないのだったら、この空域から出て行ってもらいますよ!(ちなみに、この時の管制官は女性だった)" というような会話を受信したことがある。

(横浜で首脳サミットがあった日、横浜〜東京にかけてたくさんの取材ヘリが飛び交っていた時に耳にした。 その時、こちらは50km位東の房総半島上空を飛行中)

 

 

 

そのほか、自家用のVFR機が雲に入ってしまい、ロストポジション(自分の位置がわからなくなり)して、パニックになってた時など、

"日本語で申し上げます。 ヘディング213で、その高度を維持してください。空港まで誘導します"

 

など、パイロットに寄り添った管制が行われている。

 

 

Web等で、公開されているものとしては、

日航機123便が操縦不能になった時、

東京コントロール(東京TCA )は、途中から、

"日本語で構いません" と送信し、パニックになった操縦室の負担を減らすために、(母国語の)日本語での通信に切り替えたのは、広く皆さんが知っている事だと思います。

 

 

 

 

ここで言いたいのは、

 

各国政府は、クリチカルな状況では母国語での通信で間違いのない意思疎通を目指す。

その国の「母国語で話してね」という事を言っているだけ。

 

 

世界各国、皆同じで、これを米国でやれば、米国の公用語である「英語(米語)」で通信してねとなっているだけの話。

 

 

 

同じ理屈で日本での場合を考えると、

日本に離発着する航空機の操縦乗務員十分な日本語会話能力を持つこと」を義務付けるのが、一番事故が起きにくく、安全な航空交通管制ができるということになる。

 

 

  実際、日本の地方空港では、航空交通管制の英語の誤理解で、危うく、衝突しそうになったり、ニアミスなどが起きて、事故調査委員会の調査対象となった事象がいくつもある(運輸省航空機事故調査委員会の報告書が公開されている)。

 いずれも、(慣れない)英語を使ったため、管制塔とパイロットが、違う意味に理解したことで生じたインシデントである(日本語であれば生じなかった)。

 

米国では、これまでの経験から、そういう事故を避けたいので、英語で意思疎通できる人に限定して飛行機の技能証明を出すという運用を決めたのが ”FARのこころ” なのだと理解している。

 

 
 
10年ほど前から、
米国の操縦技能証明の裏面には、English proficient (英語力が堪能である)と印字がされるようになった。

(本プログのきっかけのように、米国では、Pilot  Cirtificationを取得するための条件として、そもそも English proficent でなければならないのだから。本来は、わざわざ表示しなくても良いのだが)

 
 
表示が始まったのは、ICAOのルールで、英語能力を表示するようにという条約が作られたためだ。 
私が技能証明を取得した当時の2005年は、私の自家用飛行機操縦技能証明にこの文字が印字されていなかった.
 
2010年頃、フライトクラブに行った際、インストラクターから、English proficient と印刷されたものが交付されるから、申請しといたら? と、教えてもらい、丁度、住所も、米国の住所から、日本の住所に変更するチャンスだったので、技能証明の訂正の申請をした。

(ルール改正後、新しく発行されたFAA技能証明書の裏面)

 

この新しい技能証明は、住所を登録している日本の実家にFAAから直接送られてきた

 

 

 

 

日本で発行されている、

JCABの操縦技能証明の場合

別途「英語能力証明書」がないと海外へのフライトが承認されない

 

 

しかし、これも、

日本の二重行政(或いは縦割り行政)の弊害であると感じる.

 

 

 

何故なら、

JCABの操縦技能証明で海外に出る飛行機を操縦するために必要な「航空無線通信士」の資格試験には、英語能力の試験科目が、元々(40年以上昔から)あるからだ.

 

  そのため、航空無線通信士の資格を持っているということ自体で、航空無線に必要な英語の理解力がある「国が認めている」ことになる。

 

 

所が、

  航空無線通信士 は、管轄が 総務省(旧・郵政省)

  英語能力証明は、管轄が国土交通省・航空局(旧・運輸省)

 

同じ航空通信の時の英語の能力を証明するのに、別々の官庁それぞれ勝手に資格制度を作り、運用しており、お互いに相手の資格試験の結果を認めない。

 

なので、同じ内容(目的を同じくするという意味)の試験を受験生は2回も受け、二通りの資格を取理、それらの免許証を携帯しなければならなくなっている。

 

これは、典型的な縦割り行政で、他省庁と張り合って行政をしているから、サービスを受ける側の利用者(国民)は、二度手間以上の手間と費用がかかることになる。

 

 

 

米国でも、昔、同じような事があった

  飛行機の操縦技能証明(FAA)

  航空機に搭載された無線局の無線通信士の免許(FCC)

は、別々だった。

 

1990年位までは、パイロットは、この二つの免許証(技能証明)を持ち歩いていた。

 

しかし、飛行機を飛ばすにあたって、無線の取り扱いは必須となっている現在、別々に管理する必然性がなくなった。

 

そこで、飛行機操縦技能証明の中に、航空機の運用に関する無線機の取り扱い免許を包含するように法律を変えた

 

それに伴って、操縦技能証明の試験には、管制塔やATCの管制官とのやりとりが十分できるかも審査の対象に含められた(試験の採点項目に加えられた)。

やはり、米国は合理的。

 

 

一方、日本では、

管制やATCとのやりとりの能力は、また、別の資格を作り特定技能講習という2年事の審査が必要な制度を10年ほど前から作って運用している。 そこで、また、別の証明書が必要になった。しかも今度は、二年毎に更新しなければならない.

 

 

なぜ、日本ではこのようにたくさんの審査や資格を作りたがるのか?

 

それは、審査や資格を作ると、しかも期限付きで更新時に講習等が必要な制度を作ると、定期的に受験料・手数料・審査料などの国庫収入を得ることができるようになるからだ。

これらの費用は、厳密にいうと、受験税、手数料税、審査税である。

 

 

その裏には、こういう制度を作った役人が業績があると評価される評価システムが導入されているからだ.

 

つまり、「国民のために働いた」ということではなく、「政治家が自由に使えるお金を稼ぎだした」という点が、役人の評価軸として運用されているからだ.(もちろん、昔はそうではなかった)


今や、政権は、国民から一円でも、多くの税収を巻き上げ、政権のお友達や経団連のお友達に、そのお金を回すことだけに没頭しているようである.

 

おわり